049
勇者のその指摘は的を得ていて、オレには戦い方なんてこれっぽちも分からなかった。
故に――動きは実に素人じみた動きでしかなく、剣術はもちろんナイフ捌きもアンジェのマネをしているに過ぎない。
かろうじて、こと魔法に関してはミレアにすべて負かしきっているためそう言うものがあってもおかしくはないが、それすらも見ての通りだ。
それにくらべ、勇者の動きは見るからに卓越された磨かれた動きで、剣術、体術なにをとっても明らかに素人ではないことは分かる。
これでは、いくら神話に相当する武器や能力を持っていても意味がない。勇者の技術など関係なしに圧倒できるような力があれば話はまた違うのかも知れないけれども、今のオレにはそこまでの力はない。
なにせ、この広がる停止と言う覇道支配ですら勇者に適応させ、彼らを止められないのだから。
その時点で、詰んでいる。
かと言って、ここで引けない。引きたくはない。
どうにかして、差を埋めたい。
「って言っても、元来――俺も剣士や格闘家でもなければ魔法使いじゃないからな。偉そうな事を言えた口ではないが……」
そうは自虐的に言ってくれるものの、明らかに事実とは異なっている。
やはり、ダテに勇者を言われている訳ではない。彼の剣術や体術がそう示している。ならば魔法は?
ふとそこで気づく、勇者はここまで魔法を一度も使っていないのではないか?
あの動きは確かに人間離れした動きではあるが、あくまでもそれは単なる身体強化と体術のみによるモノ。ならば、彼自身オレがミレアに使わせた雨の攻撃見たいなことはできないのではないだろうか?
とは言え、それが事実だったとしても……。
関係ない。今は目の前のコイツをぶっ飛ばしてやりたい。ただそれだけでも。
それに――オレの再生力を勇者はどうにもできないようだから。
右腕を腕を広げミレア剣を横へ構え真っすぐ勇者へとオレは走り出す。
「勇者ああああああああああ!」
距離はおよそ十メールほど、さほど遠くない距離だけれどもその距離が今のオレにはそれがすごく遠いように感じられる。
いや――オレ自身、勇者にかなわないことを理解しているのだろう。だからこうして遠く距離を感じる。それは超えられない壁のように、オレの前でまだかまだかと見下して。
だからこ全力で走り、突っ込む。
そんなものも振り切って。
「ミレアも教えてやればいいモノを……随分と意地悪なことだ。エミリー、クロノ。出番だ!」
走り接近するオレの目の前で、勇者は闇、雷、二人の女神を呼びながら両腕をクロスさせ手のひらを広げる。
「はいなの~」
「きゃぴーん!」
座りこんんでばてたままの二人の女神は答え。その身を漆黒と雷、双方の体を表す色の光の粒子となり飛翔する。
そうして、それはオレが斬りこむと同時に勢いよく勇者の手に渡り。瞬間、振り下ろしたオレの剣と形状を変化させた漆黒と雷は激突した。
「っ――!?」
オレは大きく弾かれ地に足を滑らせながら、後ろへと飛ばされた。
今のは?
そう思って、目の前の勇者を見れば左右双方の手に、オレが持っているミレアの剣に似た剣を握っていた。
右に持つは、黒くメタリックに輝く黒曜石を思わせる貴金属でできた剣で。その漆黒の刀身は真っすぐ伸び、オレの身長程あるミレアの剣同等ぐらいに長い。柄の先端には同じく、キーホルダーのように鎖で先端には目玉をかたどった真っ黒のな飾りがついてる。
そして左。
その手に持つのは雷を模った剣。右の漆黒の剣と同じほどの長さで紫と黄色が交差する螺旋のような刀身が真っすぐ伸びている。柄の先端部分にはキーホルダーのように鎖で装飾があり、その先端には空から落ちる雷を模った飾りがついている。
双方――間違いない。
女神の剣だ。
ミレアの剣に似たその身。それに飛んできた二人の女神はその剣になったことから間違いはない。
その上に。
「きゃはは。まあ――そうよねぇ」
「ミレア。あれって……」
「そう、ご察しの通り。きゃはは――」
笑うミレアとは裏腹に、オレは勘弁してほしいと思った。
ミレア一人との契約でその加護すらオレはまともに制御しきれず手を焼いているというのに、二人だって?
冗談じゃない。
時を止めるという偉業を行うオレでも、ソレは少し卑怯ではないかと思う。
これでは、オレが持つ力がかすんで見える。