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正しき魔王の旅記  作者: テケ
1章 偽善ジャスティス
14/175

014

 扉を開けて飛び出た先は外だった。


 念願の外だ。そんな安心をしたかったけれども、それはどうもできないらしい。


 建物の中に兵士が少ないわけだ。理由は知らないが、十数名程の兵士が扉の前で待機してた。


 で、まあそんなとこに飛び出て出てしまったことになる、もちろん、突然建物の中から出てきた僕たちに兵士は驚いた様子で居たが、すぐに僕たちを囲むように包囲して槍をこちらに向けた。


 動けば槍の刃に刺さるぐらいに四方八方から、僕たちを囲むようにして槍が向けられている。


 どうする・・・。


 前や横に動こうにも動きをとれない。後ろに下がって建物の中に戻るか?

 

 だとしても、それも無理そうだ、戻ったとしても、彼らは僕たちを追うだろ。この人数から逃げるのは無理だ。


 じりじりと迫る槍に僕たちは後ろへとゆっくり下がる。


 っ――


「ミレア!」


 僕は叫ぶ!この状況は僕たちではどうすることでもできない、だからミレアを頼る。


 きゃはは――。


 僕だけに聞こえる奇妙な笑い声が聞こえる。


 それも、やけにご機嫌な、いつもよりも高い声が。


 瞬間、水の刃がいくつも生まれ、一瞬で兵士たちの槍は三等分に斬られる。


 全員の槍が、それも鉄製だと思われるものが破壊され、兵士達も驚いて、僕たちから一歩下がる。


 それでも、兵士たちは逃げ出すことなく腰に差していた剣を抜く。


 槍を破壊したこによって、僕たちに突き立てられた槍はなくなったけれども、いまので逆に兵士を挑発してしまったのかもしれない。明らかに、場の緊張感が上がっていた。


 どうする・・・もう一度ミレアに頼むか・・・。


 僕がそう考えた時だった。


「何をしている!」


 大きな声が聞こえた。


 声が聞こえ、僕たちの正面側の兵士たちが道を開け、声の主が前へ出てきた。


 他の兵士よりも、背中にに大剣を背負った明らかに装備の良いガタイの大きい筋肉質、顔は髭ずらで髪は黒の短髪、ダンディズムを感じるおっさんが僕たちの前へ腕を組み対面した。


 明らかに雰囲気は兵士とは違っていた。上司とかそういうのだろう。


 僕は少女をかばうように前へ出て鉄パイプを構えた。


 この男は多分、ミレアの脅しは効かない。殺さずに、無力化せずに逃げるのは無理だろう、隙を見せる素掘りなどない、回りの兵士が槍を破壊され警戒しているが、この男は警戒をしていない、ただのトラブル程度のように僕たちと対自している。


 油断しているのか、それとも僕たちが何もできないのを確信しているのか、強者の余裕なのか・・・。


 どれにしたって、僕たちのことを脅威だとは感じていない。


「隊長、危険です。この者たち妙は術を使います」


 兵士の一人が言った。


 妙な術、さっきの槍が破壊されたことだろう。警戒している兵士がおっさんに注意を呼び掛けるが、おっさんは地面に散らばる槍を見るだけで、動じない。


「お前たちは戻れ、撤収だ」


 おっさんが渋い声で静かに忠告した兵士に言う。


「ですが・・・」


「問題ない、害はない。こいつらの処分はオレがどうにかする。お前たちは戻れ」


 おっさんに言われ、兵士たちはハッっと敬礼して全員どこかへ去っていった。


 なんだかよくは分からないが、兵士が減るのは好都合だ、逃げる道は空いた。だた後はこの僕たちの前に立つおっさんをどうにかしなければいけないが。


 少女が僕の後ろで少女が建物の中でしたように手をおっさんにけた。魔法か・・・。


「っ―――」


 青白い光の線画が、少女の手の前で青白い円形の図形を描き回転する。そしてその図形は強い光を発して、氷の塊がいくつも瞬間的に飛び出した。


 今だっ――!


 その瞬間、僕は少女の手を引き、右へ走り出した。


 石お壁に囲まれているこの建物から出るために、大きな出口が見える、そこに向かって走り出す。


 けれど・・・。


 ――ズアアアアアアアアア!


 風の一閃が地面を削り、僕たちの行く手を拒んだ。


 なんだよ!?


 突風が壁となり、進めず、それが止むと僕はおっさんの方を見た。


 まじかよ・・・。僕たちとおっさんの向かい合っていた距離は10メートルほどもなかった、そんな距離で氷を飛ばされて無傷で大剣をこちらに振り下ろしていた。


 ほぼ0距離で撃たれてそれを弾いて、その上で僕たちの道を塞いだっていうんかよ。


 とても人間技とは思えない。そもそのあの重そうな大剣をそんな早く振れるのか?常識外れもいいとこだ。


 隙を見て逃げようとしたが、これは無理だ。


 あきらかに力の差がありすぎる。


 逃げようとすればさっきのように、大剣の振った衝撃はか何かでやられる。


 また、ミレアに頼むしかない。いやまあ、最初からそうした方が良かったのかもしれないけれども、先に少女が動いたのでそうできなかっただけなのだが。

 

 それでも、逃げ切れるかどうか不安だ。


 あの筋肉質の体、剣がなくても拳で衝撃はぐらい飛ばせそうだ。


 って、そんなこと考えている場合じゃない。


「ミレアッ!」


 きゃはは――。


 叫ぶと、また僕だけに聞こえる上機嫌な笑い声が聞こえ。水の刃が、


「――え?」


 水の刃が発生した瞬間、おっさんは大剣を振るい、先に水の刃を斬り破壊した。


 デタラメすぎるだろ。


 目の前で起こったことに絶句する。


 女神の力ですら破壊するのかよ。チートか何かの間違いじゃないかこれ、強さが圧倒的すぎる。


「くっそ!」


 慌てて、立つパイプをおっさんに向かって両手で構える。


「どうする?どうする少年。きゃはは――」


 ミレアの楽しむ声が聞こえる。


 うるさい、黙ってくれ!


 けど、本当にどうする?逃げ切る気がしない。


 捕まって、牢に戻される。それはいやだ、もう嫌だ、だからどうにかしてどうにかしないと。


 焦るな、焦るな僕。下手に動けば、またミスしかねない。だからといってこのまま行動しない訳にもいかない。


 おっさんは僕を見据えると、大剣を背中に戻し腕を組んだ。


「お前たちが、ここの捕虜か?」


 そんなことを僕たちに向けて言った。


 続けて、僕と少女を見て。


「お前が死なない小僧で、そっちが教団の小娘か・・・。小娘の方は腕と足を切断と聞いたが、まあいい。


 そでれ、どうやって逃げる?見るにお前の力は直接人間を攻撃できないようだが?」


 腕組みをやめ腰にてをあて、おっさんは僕に言った。


 ばれている・・・。ミレアが人を殺せないのを。もしやとは思ったが女神ゆえに、女神だからこそ人は殺さない。少女のように生き返らせることはできるが、殺せない。女神だから。だから、兵士を直接狙わずに槍を破壊した。そして、このおっさんにも直接狙うのではなく大剣を狙って水の刃は出た。


 破壊されたけれども・・・。


「きゃはは。そりゃあ、狙いがバレてればあんなの簡単に無効かできるわねえ。きゃはは」


 楽しそうに、言ってる場合かよ。マジどうにかしてくれ・・・。


「きゃはは。それじゃあつまらない。少年もっと愚かに生きるのよ?」


 素直に言う事を聞いてくれていると思ったが、やはり、どこまでも天邪鬼だ。


「うるさいよ」


 ミレアとおっさんどちらにも向かって僕は言った。


「フッ・・・フハハハハハハ」


 言い返した僕におっさんは笑う。


「そうか、だがどうする?」


 どうって・・・?なにが?


「どう攻略するこの状況。オレを倒して英雄のごとく小娘を救うか?そのつもりだろうが、そんな震えた腕とへっぴり腰でどうする?」


 うるさい、知っているよ、手なんておっさんに鉄パイプを向けた時から、最初からガタガタガタガタ震えてる。


 僕の後ろで心配そうに少女が僕を見ている。それでも、僕はこの子を逃がすために引けない。


「たとえ、この場を逃げ切れたとしても、その後どうする?国を総出でお前たちは追われることになる。すぐに捕まって終わりだろう?」


 おっさんはちゃかすように言う。


 僕には冗談でもない話だ。けれど、おっさんの言うことも間違えではない。このままここから逃げても追手が来るだろう。逃げ切れやしない。僕はこの世界をよくは知らないけれども、国総出ときたらどうしようもない。


 逃げきれる自信が僕にはない。


 でも、だったとしても、どうしもない、この状況をどうにかするには逃げて逃げるしかない。


 たとえ永遠に追われてでも、僕は少女を逃がし続けるだけだ・・・。


「いい覚悟だ。・・・小僧、一ついい提案をしよう」


 良い提案?その言葉に悪い記憶しかない。


「オレのゲストとしてこないか?」


 ほら、ろくでもないことだ。前のことがあるそんな話、信じられない。


 また、裏切られる。どうせ嘘だ。


 僕はぐっと鉄パイプを強く握りし、警戒を強く示す。


「なるほど。逃げても構わない。オレは追わない。だが、追われることになるぞ、オレ以外の連中を含め、国総出の兵士に。それから逃げ切れる自信があるのなら行くがいい。今は追わない。だが、その後のことは知らない。また、捕まりひどい仕打ちでも受けるといい。だが、その自信がないのなら、オレのゲストとしてついてこい。身の安全と、暖かい飯、安心して眠れる寝床を用意しよう」


 そう言って、おっさんは振り向き去っていく。


「おっ、おい!」


 僕の止める言葉も聞かず歩いて行く。


 これまでとは、明らかに違う。だましているようには見えない。


 けど、本当に大丈夫なのか?


 けれど、僕たちには迷っている余裕はなかった。


「しかたない・・・いこう」


 また、騙されるかもしれない、けれど、この先あてもない。


 なにより、おっさんの言った通り守って逃げ切る自身もない。


 だから、僕は少女と顔を見合わせて、おっさんの後ろをついていった。

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