042
「さて、まず何から教えたもんか。もちろん、俺は意地悪だから全ては教えない。
そうだな――まず、あの子は親についてでも教えるべきか?
詳細は知っているか知らないが、母親はローゼリア・フェアリーライフ。フィーの姉だ」
「知ってる」
「そうか――なら父は?」
それは――
「しらない……」
「そうか――あの子の父親は魔王だよ」
「えっ!?」
思わず声が漏れる。
だって、おかしいんだ。
ありえない。
何故なら――魔王は300年前に目の前のこの勇者に討伐されたのだから。
それに引き換え、アンジェは自分は11歳と言った。合わないんだ。
計算が。
アンジェが魔王の娘だとしたら、年は少なくとも300を超えていることになる。
それに――アンジェはそんなことで嘘を僕につくような子じゃなかった。
「まあそうなるのも仕方ない。その服装からどんな別の異世界からお前が来たかなんて大体予想はつく。学ランなんて、ここじゃそう見ないからな風の国の軍隊ぐらいだそんな服装をするのは。
お前は世界での、魔法での常識もまだそんなに知らないだろう」
それは勇者の言う通りだった。
僕は魔法という物をまだ、常識として認識していない。
何がどこまで魔法でできるかなんて、正直しらないんだ。
それに――勇者が僕の服装をみてどこの世界から来たか分かるのも必然。
なにしろ、この勇者は僕と多分同じ世界から来ている。
それは、砦で見せてもらったお守りで確認している。
あれは日本の神社ものだった。
『交通安全』古ぼけたお守りを見た。
お守りの痛み具合から、それが相当昔のモノだというのも間違いはなく。少なくとも、勇者が古くからこの世界に居たのは間違えはなかった。
けれども、そういう人間ではありえないおかしな寿命で、若いままだとしても。
アンジェが僕に言った年は紛れもない真実だ。
あるいは……アンジェも僕に嘘を?
いいや、そんなはずがある訳ない。
そんなこと、考えたくもない。
僕を好きと言ってくれたアンジェが、僕を騙すなんてことするはずない。
だから僕は勇者の問いに頷いて、
「アンジェは11歳って言った。魔王が親だっていうならアンジェの年が合わない。だからそれは嘘だ」
自分の疑惑を信じたくなくて、事実を勇者へと突きつけた。
「いいや事実だ。けどまあ――安心しろ。あの子だってホントのことを知らないんだろう。あの子は嘘はついていない。ただ――少しややこしい事になっていてな。封印と言えば分かるか?」
封印、先ほどちらっと話に出てきた言葉だ。
アンジェを封じ込めた?そう言う事か?言葉のニュアンスから大体どいうことか察しはつくけれども、具体的にどういうことか分からない。
「いいや」
だから僕は問う。
「言葉通りの意味だ。あの子の母親ローゼリアがあの子を封印した。封じ込め、時を止め外からすら干渉できないように、あの子を守る為にな。もちろんそれには本人は気づいていないし、自分が封印なんてことをされたと思っていないんだろう。
で――そうして300ほど経った。
だからズレたんだよ。時代と年がな、封印されて本人の成長はそのままなのだから。それは、この魔法がある世界ではおかしいことでもなにもない。
っ――引っ張らないでくれクリア」
語る勇者が、ムスッとしたクリアに抱き着く腕を下に無理やり引かれ斜めになる。
何か起こっているようだが、なんだろう?
「悪かったって――でだ」
引かれた体制のまま再び語りだす。
「目覚めたのはおそらく最近だ。理由はおそらくそこに居るソイツ」
ミレアが……。
「きゃはは――ええそうよ。結界を出てすぐ解きに行った。けれどもワタシがしたのはそれだけ、それは約束ですもの。もう半年ぐらいじゃないかしら?きゃはは。――でも、それだけ。その先は知らない」
「だから――困惑したんだろうな。起きたらローゼリアも居なければ外はあの有様だからな。
残念な事に俺が知っているのはその程度だ。そっから先はお前の方が詳しいんじゃないか?」
そう言われて――。
そうだともう。アンジェ一緒に行動していたのは僕だ。
だから、そこから先は僕の知って通り。
でも――、ミレアは封印をといてどうして、そっから先は放置した。
なんで僕へしたように、アンジェにくっつかなかった。
「ミレア、どうして封印を解いてアンジェをそのままにしたんだ……。それに、僕がアンジェに会ったのも仕組んだのか?」
その問いに、ミレアは首を左右に振る。
「きゃはは。いいえ、封印を解いた後、放置しざる負えなかった。その場にとどまればあの時はそこに居る男に捕まっていたのだから。外の世界へ逃げ出すしかなかった。
しばらく外にでて、痕跡を一度立ってしばらくするまではとどまれなかった。
それと少年。きゃはは――おかしなことを考えているようだけれども、すべては偶然よ。あの場であの小娘に合ったことも今こうしていることも。きゃはは」
「だから出来過ぎているとも言える」
ミレアの言葉に勇者が続いた。
「きゃはは――それこそ、アレの詩乃の影響下にあるということでしょう?それはワタシのせいじゃない。きゃはは、アナタがふがいないからでしょう?」
またそれか……。
シノってなんなんだ?
さっきからそいつが一番の原因のようなことを言っているけれども……。
「さて、こちらからの話もこの程度でいいだろう。さっきの質問の答えを訊かせてもらおう。何故お前がそのナイフとペンダントを持っている。
俺の知っているあの子は、それを他人に預けるような子じゃない」
「ちょっと待ってくれ、そのシノって――」
「それはこちらの問題だ。お前の出る幕はなければ介入する余地もない」
もう話は終わりだと言わんばかりに、強く僕の疑問を勇者は切り捨てる。
「ミレア!」
ミレアに問うも、答える気はないようで。
「きゃはは」
ただ、笑うだけだった。
「で?なぜ持っている?」




