040
まるで、自分の物をお互いに奪い合っているような熱い抱き着き合い。
そうしている勇者が僕と目があうと、
フッっと、小さく笑った。
まるで勝ち誇ったような……。
「きゃはは――、目の前でするなんて……悪趣味ねえ」
「言ったろ、俺はクズだって。こいつらは俺のモノ。なら、どうしたって俺の自由だ。
さて――ミレアの件はまあいい。勝手にしてくれ。で、だ……。正直、この子たちの為にさっさとこのやり取りを終わらせたいとは思うが……。
一つ――お前に訊きたいことがある。
お前、そのナイフどこで手に入れた」
そんなこと……。
目の前であんなことをされて、答えるとでも。
僕は間違いなく、こいつが嫌いだ。
言われて答える義理なんてない。
こんな――自分を好いている者を所有物みたいに言うやつ。
「………」
「だんまりか……。まあいい。なら、嫌でもしゃべりたくなるようにしてやる。
そのナイフと胸につけてるペンダント。どうしてお前が何故持っているかなど俺は知らない。だが、その本来の持ち主が何なのか知りたくないか?」
――!!
知っている。
こいつは、勇者はアンジェを。
「知ってるの……?アンジェを……」
「ああ」
なら……。
「なんでアンジェを助けなかった!殺そうとした!?」
僕に会う前に知っているなら、なんであの子を助けなかった。
そうすれば、あんなことにならずに済んだ。
アンジェも酷いめに合わず、僕が間違って殺すこともなかった、なのに……。
どうして、助けなかった。
事前に助けていれば……。
いけ好かないけど、僕ではなく勇者がアンジェの母親を一緒に探していれば……。
命を狙うなんて……。
アンタは勇者だろ。ならなんでそんなこと。
「助ける?それはあの子に何かあってことか?」
「――!?」
知らない?
知らないのか……?
「じゃあ、どうしてフィーを差し向けたりなんかり……」
「少年……」
「封印が解けて行動しているこは知っていたが。まさか、フィーに合っていたとはな。いや――情報からして会っていておかしくはないのか……。などほど、この場に居ないことを見るとフィーにでもなにかされたのか?
まあ、居ない方が好都合ではあるが……。悪いが、フィーがあの子と鉢合わせたのは偶然だ」
「どういう……」
勇者は何も知らないようだった。
とぼけたという反応でもなく、間違いなさそうで、それでも――フィーがアンジェや僕を襲う理由を何か知っている。
それに――僕は聞いてしまった。
クラリアさんから、そして――本人の口からさえも……。
その真意を確かめないといけない。
そうなった経緯を訊かなければいけない。
もしかしたら、その原因がコイツなのかもしれないのだから。
「なら、どうしてフィー襲ってきたんだ……。なんで、フィーがアンジェのお母さんを殺したなんていう……。そのせいでアンジェは、アンジェは……!」
「そこまで知っているのか……。確かに、フィーがアンジェの母親を殺した張本人だ。だが、お前たちへ差し向けたというのはただの勘違いだ。俺はそんなこと命じていない」
「じゃあなんで!」
「きゃはは――少年、それは少年の記憶違いよ。きゃはは、彼の肩を持つつもりはないのだけど、あの妖精は個人の意思で少年を狙っていた。そこにいる、勇者の敵対する異分子として認識して。それに、小娘には興味など見せなかった。むしろあの妖精に襲いかかったのは小娘のほうでしょう?きゃはは――」
感情的に叫ぶ僕の間にミレアが割ってはいる。
それは違うと、違うのだと。
アレの行動はただの単独に過ぎないのだと。
お前は記憶違いしている。
フィーは僕を単独で狙っただけ、あの時アンジェがそれを防ごうとして真実を知りフィーをと刃を向けたのだと。
だとしても――。