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正しき魔王の旅記  作者: テケ
四章 偽善ヴァイス
129/175

038

「それだ」



「えっ……」



「言ったろ?酷い顔をしていると。なんだその以下にも決意をしたみたいな顔は、反吐が出る。そんな自己満足に過ぎない決意なんて認めないしユルサナイ。ああ――ハッキリ言ってしまえばただの当てつけだ。お前が体験した事など知らないし、何をきっかけにそんな安っぽい決意をしたのかも知らない。だがハッキリ言って不愉快だ。俺も大概クズだがなんだそれは?失敗した自分がかっこいいか?それに立ち向かう自分がかっこいいか?そんな傲り、それ自体がなにもなしえない理由だとも知らずに。言われなかったか?そこの女神に、愚かだと」



「それは―――」



 その物言いはまさにミレアの口癖だった。

 愚か。愚かな少年だと。

 

 けれども、その言い方は僕の内面が影響してのハズ。本来ならばそう言われているように聴いているのは僕しかいない。僕だけが訊いているはずなんだ。

 

 なのになんでそんなことが分かる。

 

 なんで、愚かだと言い切る。

 

 なんで、僕は愚かなんだ。

 

 

 ミレアもいう、勇者もいうなら、ソレはどうして?

 ずっとただ、ミレアの口癖程度にしか思っていなかった。それが、今にしてどうして同じことを言う。

 

 

 それ以前に、僕を見ただけで僕が成しえたような、分かり切った言い方で……。

 

 

「きゃはは――やめなさい。少年を悪く言うのはワタシしかだめよ。そこは譲らない、きゃはは――だから似た者同士というのでしょう?ええ――そうよ。それ故にアレの願いは叶えない、きゃはは――」



 まるで、ミレアが僕をかばうような。

 今まではありえないようなそんな行動。

 ミレアも僕も、勇者とは分かり合えない。いいや――そもそも勇者自体が、僕たちと分かりあおうなど微塵も思っていないのだろう。それに僕もそれは変わらない、こんな上から分かったようにモノを言う奴なんて、頼まれたってイヤだ。

 けれど、それでもだ。


「願い?つまりお前はアレ――いや、伏せる必要もないか……詩乃(シノ)に何か頼まれたということか」



「ええ――きゃはは。そしてそれはアナタとワタシ、唯一同じ意見を用意る内容。きゃはは――『最強が最強にいたる物語』が見たいのだって――きゃはは。そんなありふれたモノはワタシは許す訳ないのに、きゃはは――彼女には悪いけれどもダメよそんなものは。決して彼女の思い通りになどにはさせない。

ここはワタシ達の世界なのだから、干渉すると言うならその願いはそれは跡形もなく壊してあげなきゃ――きゃはは」



「なるほど――そいつは確かにいただけない。だから、惚れたついでに自分好みに導くと……。お前どこの源氏物語だよ?」



「きゃはは――それは、アナタではないの?」



 僕の話などなかったかのように話す二人。一体何の話をしてるんだろうか?

 シノ?――やっぱり何か得体のしれない何かを二人は見ている。

 けれども――相まみえない二人が、唯一この一点は明らかに意気投合をしていた。

 

 

「大体状況は分かった――なら俺はお前たちに干渉もしない。せいぜいかって野垂れ死んでてくれ。さっきの様子を見ての通りソレどこじゃないんだからな。どうせ――お前も後ろで伸びている二人と同じだろう?」



「ええ――きゃはは、アナタと敵対する気などない。それが約束だもの。ただ――少年へ手を出すというならば話は別……」



「――それはお前たち次第だ」



 お互いに相まみえないが、敵対はしない。ミレアが言っていた勇者とは敵にならない。それは最低条件なようなもので、勿論、僕も他の王たちと一緒に戦って勇者の敵になる気はない。

 

 何よりも、僕にはアンジェの元へと行く目的がある。勇者と敵対するというのはきっと悪いことなのだろうが、さっきまで起きていた神同士の戦いとも言えよう戦いに僕はついていける自信はない。

 目的を果たす以前に、それすらも手段が成しえないのならばどうしようもない。

 だから――勇者とは敵対しない。

 というより、できない。

 ただ――気にくわないのは間違いはなく。僕はこの勇者は嫌いだ。

 

 



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