036
「フレデリカ、あそこの担当はお前だろ?ティアラが空けたと思うか?」
「ん?――なにそれ、バカみたいバカみたい。確かに可能ではあるけれども、アンタの言う通りありえない。大体――この場に立ち入れば他の守護者サマが分かるんでなくて?今回だって、それに気づいてそこのよわっちい破壊サマがこうして暴れてくれた訳じゃない」
「お前……」
問われた赤いドレスを着た小さなフレデリカは、薄く微笑して答えるとそう皮肉をつけ足しエリザベートへ挑発をする。
その挑発に、少しまだくっしゃけ顔だったエリーゼの胸にすがるエリザベートは、憎いものを見るかのように睨み、今にも襲い掛かりそうだ。
こいつら……仲間じゃないのか?
いくらなんでも殺伐としすぎだろ。
そう思っていると、フレデリカはケラケラと甲高い声で笑いだし。
「アッハハハ――こわ~い。……まあ、それともなに?このワタシが仕事をサボって気づかなかったとでも?」
からかいその挑発に乗るエリザベートが面白いのか、彼女はそうとう楽しげしている。
そんなフレデリカに猫のように甘えていたクリアが、真顔でフレデリカを見て。
「アナタはいつもサボっているでしょ?仕事してくださいまし」
すごく平坦に小さく突っ込みを入れた。
見れば、勇者は憂鬱そうにたため息を漏らし頭を抱えている。
「アハハハ――」
どうやら、このフレデリカという子は随分と優柔不断らしい。
勇者が呆れているということは、それだけ手のかかること言うことなのだろう。
いや――それはそうと、よく分からない茶番で気がおかしくなりそうだったが。
つまり、どういうことかと言うことだ?
「まったく――箸にも棒にも掛からん……。
ようは――気づくんだよ。もし、ティアラが女神の封印を解いていたならば、今回みたいにエリザベートが気づく。いや――扉の開閉は守護者全員が感じ取れるからエリザベートだけじゃない。他の守護者ももちろんのことだ。おまけに、女神の結界への入口があるこの場への立ち入りは守護者には禁じている。
もしティアラならば――さっきみたいに争いをしていてもおかしくなからな。
まあ――守護者全員が口裏合わせて俺を裏切っていれば話が別だが……。それに関しては、エリザベートとエリーゼに限ってはありえない」
「きゃはは――それは随分な自信ね」
「お前が言うな、そんなこと一番分かるような奴が。このバカ二人は他の奴らと比べて温厚なんだよ」
「陛下……」
「おにいちゃん……」
お前が言うな……勇者もミレアの特性は知っているのか。いや――当たり前か。勇者は女神の力を使い世界を当たらしく作り上げたと聞いている。ならば、その時にすべての女神の特性を知っていてもおかしくはない。
それより。
はやり、僕が感じた力とその想いと言うのはあながち間違いではないようだ。
エリザベートは裏切らない。いいや――裏切れない……と。
それよりも、アレの暴れっぷりで温厚なのか……。
いやまあ、そういう物理的なことを言っている訳ではないと思うが。
恐らくそこは――愛に狂っているからこそ、そうなんだろう。
ティアラ、エリザベートの力を前にして僕が最初に感じた気持ちはいくつもある。それはエリザベートならば憎悪や怒り、悲しみ、ティアラならば、希望、信頼、決意、そんなものだった。
けれども――その中で唯一まったく違う感情から来ているものだと思われる二人からでも、共通している部分あった。
それは――愛。
絶対的な愛情。それはどちらにもあって、その他の気持ちなんてそれを彩る装飾にすぎない。
愛ゆえに相手を守る。それはどちらも変わらない。ただ手段が異なっていて、それが激突し合っているだけ。
愛に狂うからこそ、感情を燃やして力は強い。
愛に狂うからこそ、真っすぐ自分を信じていける。
愛に狂うからこそ、狂者となれる。
美しさにもなり、トゲにもなる。
まさに――薔薇。
想えば、フィーもそうだった。
自分の主への愛の為に、僕を襲った。
一度アンジェに刃を向けられた僕だから分かる。
彼女らは、愛に狂っている。
狂っているからこそ――強い。
同時に、自分の主へと時にはその刃さえ向ける。だって――愛しているから、相手が苦労や辛い顔をしてる顔は見たくないから。
相手を思ってその為に自身のすべてをかける。
だから――そう言った意味ではエリザベートは温厚の方なんだ。
力が強くて不器用で直接できだけれども、ソレは自分の愛しい人に寄り添って守るという心から来ている。
一種の依存にも値するそれは、きっと愛の中では確かに温厚の方だ。
なら、確かに好きだから自分へ刃を向ける奴よりは、いくぶんかマシなんだろう。