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正しき魔王の旅記  作者: テケ
四章 偽善ヴァイス
125/175

034

 各王達、女神たちがそこから逃げるように入口の方向へ引き返し走りだす。

 

 僕たちも逃げなければ、そう感じで僕も走りだそうとすると――

 

 

「―――!」



 体が動かない。

 それは突然――僕の体はこうちゃくした。

 

 

「マコト!どうした?急げ!」



 クラリアさんに言われなくてもそうしたい、けれど体が動かないんだ。

 

 

「きゃはは――先にお行きなさい。ワタシたちは彼にようがある」



 僕の様子を悟ったのか、ミレアが言って、

 

 

「分かった、お主を急げよ」


 すれ違い際に、そう言って彼女は走りだした。



「どうしたのです?――いいえ、そうですか……」



 引き返し僕たちとすれ違うティアラが、なにかミレアから感じ取ったのか彼女も僕を置いて荒れ狂う黒い影の蛇か逃げるように立ち去る。

 

 なんだ――一なんで体が動かないんだ!?

 

 体は動かない、もう王たちは全て撤退して行ってしまった。

 

「きゃはは――」


 そんな状況で、焦る僕をしり目に前でミレアが、あの無表情のミレアが笑ったように口元が緩んだように錯覚する。

 

 またこれか――、なんなんだ……どうしてまた僕が……。

 

 

 ミレアとの正式な契約で握った剣は出せない。

 

 抗う手段はクリアの世界(ちから)が発動しているからだろう、使う事は出来ない。

 なら――僕にはこの状況に対抗する手段はありやしない。

 

 忍び寄る影の蛇に無抵抗のまま捕らわるしか――いや違う!

 

 

 動かないのはただの恐怖だ。

 

 勇者ににらまれた、エリザベートの圧力による。

 

 そんなもの、あの拷問の恐怖と痛みの日々と比べれば……。

 

 

「クソが……!」



 気合いを振り絞り拳を握って。

 

 一歩踏み出し!

 

  

「少年?」



 振り返ったミレアの横をかけて、

 

 忍び寄り地から飛び出襲い掛かる蛇を腰からナイフを抜き出し断ち切った。

 

 

「――ッ貴様マアアアアアア!」



 なにか痛みを受けたように、体をこわばらせたエリザベトが立ち上がり、憎しみの表情をこちらに浮かべ叫ぶ。

 

 

 そこからエリザベートから更に黒い影が飛び出ると思ったが、

 


「エリザベート!」



 勇者の声ではっと、何かに気づいた彼女は怖がる強張った顔をしたと思うとその膝を降ろして、

 

 

「もっ……申し訳ありません……」



 エリザベートは再び膝まづくと、闇は僕に襲い掛かることなくすべて引っ込っこんだ。

 

 

 膝をつき、その体は小刻みに震えている、恐怖している。勇者が怖いのか……?

 

 いや違う、きっと彼女は勇者が怖いんじゃない。勇者に嫌われるのが怖いのだろう。

 力は一方的に強いもの――けれども、その力は圧倒的だからこそ、だれも認めてもらえない、誰も好いてくれない。あんな力恐怖しないものなどいない。

 振りかざす力は強大であれど、エリザベート自身は決して強大ではない、自身の意思は絶対ほかは許さない。

けれども――それは彼女が弱いからでもある、だれも自分には近づけさせたくない、近づいたらきっと気づ漬けられる。

 

 それは――傷つくことを恐れている子供のように。だから、誰よりも嫌われたくない。嫌われないように必死になって愛は絶対で……。

 

 振り絞る力から感じられるのは、恐れと威圧。

 

 まるで子犬が警戒するような。

 

 

 力あれど――。

 

 だからこそ――エリザベートは勇者に対しては絶対の忠実で、また――ティアラのように裏切りはしない。

 けれども、それすら彼女には疎ましいことでもある。決して嫌われたくない、離れたくない自分とは異なり、ティアラは自分の意思で愛で、勇者を称え裏切りさしさえしても彼を重んじている。

 もちろん、エリザベートだってティアラが自分が嫌われたくて裏切っているのでないことなんて知っている。

 愛しているからこそその道を選んだ。

 それこそが憎くて、疎ましい。自分には絶対にできないことだから、そうやって一人で立っていけるぐらいの強さを持っているから……。


 

 あれ……。

 

 

 今更だけれども、なぜ僕はこんなにも理解できる。たった力を感じたり、ナイフで断ち切っただけなのに……。

 

 僕は他人の感情なんて、元の世界では感じた事などないのに……。

 

 

 なのになぜいまは、感じてしまうのか……。

 間違いなく、僕は彼女らの力からそう感じていた。


 勿論なにも知らない。ただ言えるのは、それだけ解き放たれている力は心や魂のこもった、彼女達の叫びのようなモノということだった。


 強い意思、強い願い。振るうたびにソレは証明して確かめるように。まるで――自分を見て欲しいと、願っているかのように。


 絶対的な力だからこそ――それは受ける者へも伝わるに違いない。

 

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