032
「はわ~、力が抜けるの……」
「きゃぴぴーん……なにここ~」
勇者の左右に居た二人が脱力したように膝を着いた。
なっ――なんなんだ?
張り詰めた緊迫感をなし崩しにするように崩れた二人に、勇者は苦笑いを浮かべ、
「クリアの覇道の影響か……。お前らはしばらくそこで大人しくして居ろ」
そう言って、クリアの元に行くと、彼はコートのポケットからハンカチを出し、血に塗れたクリアの両手を割れものを取るように優しく取ると、ハンカチを巻いていく。
クリアもそれに嫌がることなく、目を細め、むしろなついた猫のように勇者の肩に優しくもたれかかる。
「闇の女神――エミリアルス・ユーリア・ジェイド。雷の女神――クロノワール・デュミナティス・ルナ。あなたたちはそっちについたんだね……」
膝を着く光の女神マリアが、二人を見てやはり――と、睨み言う。
「ミレア、あの二人は……」
女神と言ったけれども……空いていた二つの席。その席の女神なのだろう。だとしても、それが何故勇者と?あそこに集まらなかった以上。
マリア達とは味方ではないんだろうけれども……。
だとしたら……。
「きゃはは……人形は闇の女神エミリアルス。あの頭悪そうなのが雷の女神クロノワール。――きゃはは。そう、そういうこと」
何かに納得したようにミレアが笑い、その手に自身の三又の杖を顕現させて取る。
「さて――これでよしっ」
両手の応急処置をしてクリアの頭を勇者が撫でると、クリアは気持ちよさそうになつき、勇者は静かに彼女を離す。
それから一つ思いため息をすると、
「陛下!何故この場に!」
声をかけててきたエリザベートを睨み、ポリポリとめんどくさそうに頭をかいて
「なんでこうもウチの女帝連中はドンパチしたがるのか……。どいつもこいつもそろいもそろって……。
なんだ?これは、各国の王にその女神、おまけにウチの守護者。挙句の果てに申子の管理権限者に、俺か……おいおい、パーティーの招待状は俺には届いてないんだが?なあ?ティアラ」
そう言ってティアラを睨む勇者。
間違いない、この人はティアラが自身を裏切ったのを知っている。
それを確信した上で、ティアラへと訊いて――それに対して圧を放っている。
お前は何をしているんだ?と――なぜこのようなことをしたのかと、責めるように、言葉にしなくとも、その表情はお気楽な言葉とは裏腹に、真剣な眼差しでティアラを睨んでいた。
「師よ――これは、世界のためであり師の為です」
そのティアラの返事は硬い意思で、
「お前!この期に及んで陛下にそんなことを!愚ろうするのか!」
けれども、それはエリザベートは反発をして。
そんな反発を手で遮り、勇者は――
「黙ってろエリザベート」
「っ――陛下!?……はっ!」
「ごめんなさいおにいちゃん……!」
たった一言、ソレを聞くとエリザベートの顔は一瞬引きつり、思い出したかのように勇者へと膝を着く。それは王女に誓う騎士のように太太刀を置き、片膝を着いてその頭を降ろす。
それに、吊られ、あわててエリーゼもエリザベートに並び膝まづく。
まるで――騎士と王との関係……。
「ティアラこれはお前の意思か?」
冷静で静かな問い。
けれど――怒っている?
エリザベート、エリーゼの慌て強張った反応から察するに、そういうことだろう。
彼は怒っている――この場を破壊されたことと、自身を裏切った事。
なにより、クリアが傷つけられたことに。




