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正しき魔王の旅記  作者: テケ
四章 偽善ヴァイス
123/175

032

「はわ~、力が抜けるの……」


「きゃぴぴーん……なにここ~」



 勇者の左右に居た二人が脱力したように膝を着いた。

 

 なっ――なんなんだ?

 

 張り詰めた緊迫感をなし崩しにするように崩れた二人に、勇者は苦笑いを浮かべ、

 

 

「クリアの覇道の影響か……。お前らはしばらくそこで大人しくして居ろ」



 そう言って、クリアの元に行くと、彼はコートのポケットからハンカチを出し、血に塗れたクリアの両手を割れものを取るように優しく取ると、ハンカチを巻いていく。

 

 クリアもそれに嫌がることなく、目を細め、むしろなついた猫のように勇者の肩に優しくもたれかかる。

 

 

「闇の女神――エミリアルス・ユーリア・ジェイド。雷の女神――クロノワール・デュミナティス・ルナ。あなたたちはそっちについたんだね……」



 膝を着く光の女神マリアが、二人を見てやはり――と、睨み言う。

 

 

「ミレア、あの二人は……」



 女神と言ったけれども……空いていた二つの席。その席の女神なのだろう。だとしても、それが何故勇者と?あそこに集まらなかった以上。

 マリア達とは味方ではないんだろうけれども……。

 だとしたら……。



「きゃはは……人形は闇の女神エミリアルス。あの頭悪そうなのが雷の女神クロノワール。――きゃはは。そう、そういうこと」



 何かに納得したようにミレアが笑い、その手に自身の三又の杖を顕現させて取る。

 

 

「さて――これでよしっ」



 両手の応急処置をしてクリアの頭を勇者が撫でると、クリアは気持ちよさそうになつき、勇者は静かに彼女を離す。

 それから一つ思いため息をすると、

 

 

「陛下!何故この場に!」


 

 声をかけててきたエリザベートを睨み、ポリポリとめんどくさそうに頭をかいて

 

 

「なんでこうもウチの女帝連中はドンパチしたがるのか……。どいつもこいつもそろいもそろって……。

なんだ?これは、各国の王にその女神、おまけにウチの守護者。挙句の果てに申子(チルドレン)の管理権限者に、(ローザ)か……おいおい、パーティーの招待状は俺には届いてないんだが?なあ?ティアラ」



 そう言ってティアラを睨む勇者。

 間違いない、この人はティアラが自身を裏切ったのを知っている。

 それを確信した上で、ティアラへと訊いて――それに対して圧を放っている。

 

 お前は何をしているんだ?と――なぜこのようなことをしたのかと、責めるように、言葉にしなくとも、その表情はお気楽な言葉とは裏腹に、真剣な眼差しでティアラを睨んでいた。

 

 

「師よ――これは、世界のためであり師の為です」



 そのティアラの返事は硬い意思で、



「お前!この期に及んで陛下にそんなことを!愚ろうするのか!」



 けれども、それはエリザベートは反発をして。

 

 そんな反発を手で遮り、勇者は――



「黙ってろエリザベート」



「っ――陛下!?……はっ!」


「ごめんなさいおにいちゃん……!」



 たった一言、ソレを聞くとエリザベートの顔は一瞬引きつり、思い出したかのように勇者へと膝を着く。それは王女に誓う騎士のように太太刀を置き、片膝を着いてその頭を降ろす。

 

 それに、吊られ、あわててエリーゼもエリザベートに並び膝まづく。

 

 まるで――騎士と王との関係……。

 

 

「ティアラこれはお前の意思か?」



 冷静で静かな問い。

 けれど――怒っている?

 

 エリザベート、エリーゼの慌て強張った反応から察するに、そういうことだろう。

 彼は怒っている――この場を破壊されたことと、自身を裏切った事。

 なにより、クリアが傷つけられたことに。

 

 


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