029
ならば、僕ならばどうだろうか?
いいや――それはどうだろ。
現れた彼女の力は計り知れない。この空間、この世界を包んでいしまうほどの力を渇望を放ち、それをなしてしまうほどだ。
であれば――分からない。
この空間に置いて、僕は元々魔法などがしっかりと確率しない世界に存在していたからなのか、今まで受けていた、エリザベートの重圧も解け、他の王や女神のように何か異常な状態を受けているという訳ではない。
言ってしまえば、この――彼女の放ったこの力は僕には完全な無害なる力だった。
けれども――エリザベート、ティアラはどうだろうか?
双方共に力はかき消され、その剣は受け止められている。力がはいっていないのか、もしくは現れた彼女が力が強いのか知りえないが、その力は完全に弱ったモノと言ってもいいだろう。
なによりも、二人から感じられた、覇気、神威となる力の威圧はとうに消滅してしまっているのだから。
これは、推測するに存在自体がそもそも魔法的な所縁があるかないかの違いなのかもしれない。
僕は魔法の存在がはっきりとない世界からここへきている。少なくとも、僕が元居た世界で魔法と言うものを異能というものを僕は知らない。
だが――この世界の住民は違う。
最初から魔法を知り、ソレを使え、学べる。
縁と所縁が違うがために、自身の一部となってしまっているのか、そこを否定されているがために、力が弱くなっているのだろうか?
結局な話、全て僕の推測でしかないが――僕以外、この空間に苦い顔や、冷や汗を流している者しかしない。
力を使う彼女と、僕だけが何食わぬ顔でこの場に唯一立つことができている。
だが――この力を鎮静された空間にも関わらず、エリザベートとテァイラは剣を握る力は緩めなかった。
「お前――何やってんの?」
驚いた顔を引きしめて眉を潜め、自身の太太刀を握る彼女に怒りの矛先を向けエリザベートは問うた。
「ごきげんよう?お久しぶりですわね黒薔薇のお姉さま。お初にお目にかかります煽薔薇お姉さま。危険ですので、止めさせてもらいましのです」
「止めた?――お前も裏切るの?」
己が一刀を止めた彼女に腹を立たせ、淡々と告げた彼女にエリザベートは訊く。
ふざけるな、お前はこちら側だろうと。
何故邪魔をするのか。邪魔をするならお前のひねりつぶすぞ――と。
「アナタは――申子でして?」
初対面のようなティアラも、己が剣を受け止めた彼女へと問う。
「お初にお目にかかります――クリア・フォース・エイリーナと申し、この時空庭園の申子のまとめ監督役を担っております。主様の命により、この庭園の脅威となるモノを鎮圧しようと思っております。
この場合――あり定に言いますと、お二人の鎮圧とでしょうか?」
ただ、それは静かに何かの感情に揺れることもなく彼女は告げる。ただ、これは業務だと言わんとばかりに。
その態度に、よりエリザベートの憤怒を葛藤させ、
「ああん?――お前、陛下の命ならばなぜ止める。なりそこないが――お前如きが陛下の命だと?」
なり損ないが、薔薇に――守護者になれなかったなり損ないが。お前たちは自分よりも権利も力も弱い存在だろうがと。
そんなものが――自分の主への忠義――命をいうなど、何よりも。
そんなものを自分は聞いていない。
この地を守るのは確かに、自らの王のためである。
けれど、今はもう違う――ここは過去の我が王の場所であり。今は下の下界こそが王の居場所。
それを守る為に裏切モノを滅殺する太刀を止めた?
それこそ、間違いだ――お前は王の何も知らない。
そうした怒りがエリザベートに立ち込める。
なによりも――自分は王を理解しているというその態度がエリザベートは気にくわないようで、太太刀に力をこめたのが分かる。
それでも、その刃は動くことはなくまるで岩にその刃を当てているかのようだ。
「申し訳ありませんが――ここは引けないのです。アナタあの方を思っているのでしたら引いてくださらないでしょうか」
テァイラも勿論引かない。自身も勇者の為になすことがある。その為にここに来ているのだから――ここで止められても困る。
だから――彼女もまた握る剣へ力をこめた。
二つの異能を纏わぬ剣。
それらはただの力となって彼女を押しだそうとするが――それは動かない。
そうして――二つの刃を握る彼女は淡々と告げる。
「黒薔薇のお姉さまはともかく――煽薔薇のお姉さまも……」
なにかに落胆した彼女は小さくため息を漏らした。




