012
きゃははは――。
そう言った僕にミレアが笑う。
元の、奇妙で不気味な笑わない笑顔で。
まるで、僕がそう言うのを待ち望んでいたように。
いや、実際待っていたのかもしれない、ミレアは早く仕事を終わらせたいのだから、そう思うのは必然、だからそんなに笑うのか。
まあ、そんなことどうでもいい。
ミレアの仕事、それは僕に悪いことをさせること、条件とわず生前正しく生きてきた僕がその分、悪いことをすること、なら、これも悪いことだろ、なんせ、神様を脅迫するんだ、これほど悪いことなんて思う。
それに、それなら、僕へミレアのかけた呪いは効果を発揮しない、何故って、僕が少女を助ける訳じゃない、ミレアが助けるのだから、僕はあくまでも神様を脅迫するという悪いことをするだけ、だからなんの問題もない。
ただ、ただし、これはあくまでもミレアが話に乗ってくれればという前提になるけれども、仕事なら嫌いな人間である僕を助けるミレアだ、乗るはず、仕事がはかどるのだから・・・。
「ミレア、交換条件だ、僕は悪いことをしてやる、これから、なんだって、どんなことだって、悪いことをしてやる。極悪人にでもなってやる。だけど、条件だ――ここでこの子を生き返らせて直せ!じゃなきゃ僕はこの牢から一生でない。何もしない。僕はお前の加護で死ななでも、何もしない。それがそういう事か分かるよな」
きゃはは。
笑う、笑う、ミレアが笑う。
少年、最高よ少年と。
「いいわ、きゃはは――でもそれじゃあ足りない。確実性がない。きゃはは。こうしましょう。
その子は永遠にキミから離れられられない、離れたら死ぬ。少年、キミこのままが悪いことをしないのならその子は死ぬ」
唐突に、突然、ワタシの気分で。
それは、言うまでもなく人質、僕が約束を破らないようにするための。
けれど、そうなるのも僕は分かっていた。脅迫をしているのが、僕でも、この女神は引かない、決して引かない、自分の立場を理解している。僕よりも立場的に強いということを知ってるから。
それでも、この話に乗ってきた。それだけで十分だ、僕はもう、決めていたから。
「それでいい。その子を直せ、牢の柵を壊してくれ」
それいい――少女の意思を聞かずに自分勝手でもあるけれども、それでいい、今の僕はそれでもいい。
もし、少女が目覚めたとき、このことを拒むのなら、僕は永遠に少女に恨まれるだろう、もしくはせっかく助けたけても自殺されるかもしれない。
だけど、それでいい。
口も利かず、目の前で死なれるよりも、僕が何もできないよりも。
全然良い。
きゃはは。
ミレアが笑う。
それと共に、水がどこからか集まり、まるでゼリーのように大きな塊となりそれが少女の全身を包む。
これが魔法・・・。
包んだ水の中で少女の無くなった腕と足が、水の中で水が形作りそれが肉体へと変わっていく。
同時に傷も、もともとなかったもののように消える。
汚れていた少女の顔が、綺麗な顔に戻り、もともとすごくかわいかったのが良く分かる。
最後に水は弾け消える。
治ったのか・・・。
傷は一切ない、腕も足も切断されたことを感じさせられれない。そんなことなど元々なかった、そう思うぐらいもとに、すべての傷は治っている。
けれど、問題はそうじゃない。
生き返ったのか?死んだ人間が。
そうでなければ意味がない。傷を治した意味がない。
「きゃはは。女神の力を疑うなんて愚かね」
ミレアがそういうと、少女は静かに目を覚まし、体を起こした。
辺りをキョロキョロとみて、自分の戻った左上を動かして見た。不思議そうな顔をしている。
当たり前だ、失った自分の一部分が戻ってきたんだ、不思議でしかない、それに体の痛みも消えているはず、違和感がないはずがない。
けれど・・・よかった。
本当に良かった。僕は少女へと抱き着いた。
「良かった、本当に良かった」
と――、
「少年、これは約束ではない、契約」
バチンッ――。
僕の手錠と足枷が突然斬れ、手足は自由となる。
ミレアが言いたいことは分かっている、これから僕は悪いことをしないといけない、そう、手始めに牢からの脱出という。
抱きしめた少女離し、少女の顔を見る。
金眼のすごくかわいらしい。
「大丈夫かい?」
戸惑っていた少女が、僕の質問に首を縦に振った。
その瞬間、僕の背後にあった、牢の鉄の柵は切り裂かれた。
ご丁寧に、上下どちらも根元から斬られ、鉄パイプ状になった柵は地面へと金属音と共にバラバラと転る。
と、その瞬間、部屋の扉が開く。
「なんだぁ、なんの音だ?」
不意にも兵士が一人入ってきた、何の用だ?とは思ったけども、そんなのは今の僕に関係ない。
少女から手を放し振り返った僕は、転がった鉄パイプになった牢の柵に手を伸ばし、兵士向かって一目散に走った。
ほんの一瞬の出来事だ、不思議と体が動いていた、その動きには躊躇も何もなかった、ただ、そうしないといけないと感じて、僕の体は勝手に動いた。
僕は、鉄パイプを振り上げ、兵士へと振り下ろした。
昨日の朝とは違う、不意をつかれた兵士は僕の振り下ろした鉄パイプに反応することができず、脳天へと直撃する。
硬いものを殴った感触と共に、鉄の震動するビリビリした感覚が鉄パイプを伝って僕の腕に伝わる。
でも、そんなことには僕は目もくれない、気にしない。
頭に入り体制を崩した兵士に続けて、もう一度頭へと打ち入れた。
兵士は倒れる。
それでも、僕は頭へと打ち入れた、渾身の力を込めて、何度も何度も何度も、打ち入れる。
あああああ――。
「はあはあ・・・はあ・・・」
息を切らして、僕は持っていた血の付いた鉄パイプを捨てた。
兵士はもう動かない。
殺したのか・・・僕が・・・。
目の前の兵士を見て、自分が何をしたか理解した。
きゃはは。
僕が立ち尽くしていると、ミレアが笑った。
随分と楽しそうだな。
でも、その笑い声のおかげで放心しかけていた僕は戻ってこれた、何とも言えない気分だけども、今はいい。少女の元に戻り、
「走れるかい?」
そう聞いた。
少女が首を縦に振る。
ここからいっこくも早く抜け出さなければ、また捕まったら話にならい、そう思った僕は、少女の手を引き、別の鉄パイプを拾い。
ミレアを無視して牢の部屋を出た。