021
ほのかに甘い、スイレンの香りと共に柔らかい唇を感じた時には、彼女は僕から離れて――きゃははそう笑って言った。
「これで――正真正銘、契約の完了。――きゃはは、少年にちゃんとした女神の加護を授けるわ」
瞬間――僕の右手は冷えあがり、凍るような冷たさを感じると、
「―――!?」
腕が固まるような感覚と共に、輝きを放ち、その光が筒状の長い光と一瞬なり、それが一瞬瞬くと僕の手にはそれが握られていた。
蒼く銀に輝く、光を反射し鏡面と化している分厚い刀身に、同じく鏡面のように反射をする凍りの鍔に柄、柄の先端にはキーホルダーのように鎖で雪結晶の飾りが垂れている。
騎士の剣を模した、その美しい氷の彫刻とも言える長剣は僕の身長近く長いが、それとは正反対に重さは感じない。けれども――どこかそれは強い強度を持ってると信頼感を感じさせる。
「ミレア――これは……」
「きゃはは――女神と正式に契約した王のみに与えられる剣。代々水の国の王が王として示してきた力。きゃはは――あのネベリア(女)はそれを欲していたようだけど……渡しやしない。喜びなさい少年。魔王への第一よ、きゃはは――」
「第一歩って……」
再び僕へすがるように胸へ抱き着くミレア。
「きゃはは――心配しなくていいわ。それがあなたの質問の答えに案内してくれる。さあ――いきましょう。ここから先は神の領域よ」
そう僕の胸で呟くと、スッと流れるように離れ、煽薔薇の扉へと手を掛け扉を開け中へと入って行く。
「あっ――ちょっとミレア!」
慌てて扉の前へ行くと、その扉の向こうの光景をみて一瞬僕はとまる。
光がうねってぎらぎらと輝いた、銀河のような光景。足場があるのかすら分からない、息を飲み覚悟を決めて僕もミレアの後を追って扉へ飛び込んだ。
後に残ったその扉は、ゆっくりとキィーと不快な音を立て閉じていった。