019
けれど、だからと言ってなんだって言うんだ……。
今更、そんな人間味や感情を出されても、僕のミレアに対する恨み妬みなどの思いは変わらない。
こいつが居なければよかった。
こいつさえ居なければ、僕はこんな不幸にはならなかった。
そう思ってしまう。
事実そうだし、間違いなく疫病神だ。
僕はあの時あの事故で死んでいればよかった。こんな世界へ飛ばされなければよかった……。
あのまま死んでいれば……。
いいや――それは嘘だ。
僕はアンジェに会えて良かったし、僕がこの世界に来ていなければアンジェを助けられなかった。
不幸であったけれども、選択しを間違えたのは僕だ……。
「ふっ……」
そう思うと――すがすがしいほどに愚かに思え、笑がほのかに漏れた。
「おかしいでしょ少年……」
自虐的に言ったミレアに僕は思う。
そうだな、おかしいな。
ミレアに対する見方を変えなければいけないかもしれない……。
彼女自身にも思うところはあるのだろう。それに彼女だって考えや感情はある。
ただ――それが女神ということと、僕の写し鏡と言う、性格のせいで今まで表に出ていなかったに過ぎない。それが邪魔していたのだ。
だから――真っすぐ僕はミレアを見る事なんてできなかった。
ミレアは最初から、僕を助けていたはずなのに……。
こうして、改めてミレアとはなんなのかということと向き合いようやく分かった。
この世界に飛ばされる前に、ミレアは僕を偽善と言った。
偽善なんだ――こうして誰も助けられず、なにも力にもなれずにズルズル落ちて、悩んで自暴自棄になってようやく分かってきた。彼女がそう言った理由も……。
確かにそれは紛れもない偽善だった。
だって――僕は……。常に誰かの上げ足を取りたかったに過ぎないだから……。
最初に砦でアンジェを助けようとした時もそう、かっこよく助ければ何か僕を認めてくれると思ったから。僕を崇めて、それを僕は見下せるそうどこかで思っていたに違いない。
けれど、この世界ではそうはならない。
だから悩んで――ミレアを嫌った。
上げ足が取れない世界なんて、見下せない世界なんて……と。
ミレアを見ていればよく分かる。
こいつはきゃはは――そう笑って、いつだって僕を見下してきた。
そう僕の中の本性がそう演じてきた。
笑って、蔑んで、また笑う。
それは僕だ――間違いなく、偽善。
僕は僕の為に誰かを助ける――そうすれば、僕はみんなより有利に立てるから。
「ははは……」
乾いた笑いがこみ上げる。
「ミレア――キミは天邪鬼だけどいい女神だよ……」
「少年?」
こんな、自分と面等向かって向き合わせてくれる、残酷な女神なんて他に居るもんか。
そんなの何人もいたら気味が悪い。ただでさえ一人でも気味が悪いんだ。多くいたらたまったモノじゃない。
確かに――ミレアは他の女神と違う。
さっき会った女神の中で、唯一逸脱した違いを持っている。
奇怪で奇妙で不愉快な――けれど、それでいいんだ。
ミレアはそれで――。
人の間違いを正すのもまた女神。
その間違いを正すのに、まず何が間違いなのか伝えなければいけない――それをミレアは真正面からしてくれている。大事なのはそれと向き合えるかどうかなんだ。
それに――いけないと分かっていて、他国を侵略したんだろう。
だから、震えるし怯える。
これがもし、勇者へ何食わぬ顔で攻め込もうとする他の女神がミレアと同じ立場なら、こう言うだろう。
仕方がなかった――国を救うには。ミレアのように震えなどしない。
そもそも――罪悪感などないのだから。
自分こそ正しい、そう思うから。
出なければ、勝利した勇者を勇者と崇めないし、敗北した者を魔王などとしない。
どちらも始めは勇者でも魔王でもなかった。けれど――自分たちが正しいと信じるからから、魔王を魔王と罵った。
押し付けるんじゃない。
僕としては、人間めいて、こうして向き合ってくれるミレアの方が良い女神と思える。