018
「…………」
行ってしまった……。
結局のところ僕には何も理解できなかったし、何もできそうになかった……。
そう思って、なんだか圧迫された感もあって、僕はため息をつき脱力した。
「はあ……」
「おつかれのようね――きゃはは」
「ちょっ――」
そう言って、抱き着いてミレアは離れ、徐に僕の膝へ横向きに乗り肘掛けを背をかけ、まるでお姫様抱っこでも僕にされているかのように抱き着いて座ってくる。
なんだよいったい………。
なんだか、今更だけど今日はやらたらスキンシップ激しいな。
さっきの話の間もずっと抱き着いてたけど、そんなキャラだっけ、ミレア。
女神だけあって美形な為もあってか、無表情で無機質な表情の彼女を抱きかかえるというのはなんだか、精緻な人形を抱いているようだ。
そのミレアは僕の首に腕を回し抱き着いてくるが、そこでふと僕は気づく。
震えている。微かだが、僕の首に回す手と、寄り添う体は小刻みに震えていた。
「ミレア……」
「少年……ワタシだって……。きゃはは――」
そういうミレアは静かに目を瞑る。
無表情のミレアが瞑ると、表情は見えなくなり美しく見える。
「彼女たちの前に出て、平気でいられる筈がないじゃない……」
きゃはは――。
そう言って瞳開ける彼女は無表情だ。
けれども――まだ震える彼女は確かに人間らしかった。
そこまなのか……。いや、そこまでなのだろう。
300年前、魔王を招いたのは彼女自身だ。それで――国を守る為他国を襲った。
それは、一度他国の女神を蹴落とし支配したということだ。魔王は一度全国統一まであと一歩というところまで行っている。
その間、攻め込まれた他の国がどういう扱いを受けたのかは知らないが、まともな扱いはなかったんだろう。奪い支配し、略奪した。
そんな他の女神を凌辱とでも言えよう酷い事をした彼女は、最後には討たれた。
会わせる顔もあるわけがない。お前は悪いことをした、そう周りから言われているようなものだ。そんなこと言われれば、僕だって罪悪感にさいなまられる。なんせ、自分以外のすべてが否定してくるんだ。ここの弱い僕なら、僕が正しいと貫きとおせると思えない。
ミレアもそうなんだろう。国が他を責めなければ衰退してしまう――だから、他の国を責めた。全てを奪うことはいけないことだと分かっていたけれども、そうしないと自分たちが維持をできないから……。
きっと――ミレア自体も間違っていた、そう思っているからこそなのだろう。
そうやって思って、間違ってしまった。間違ってしまったからこそ――合わせる顔はない。怖いんだ――会ってまた否定されるのが、責めらるのが。
一度、責められ、咎められた彼女としては――攻めた国の女神たちの前に出る事さえ場違いだと思ってしまう。
無表情の彼女は、それこそ奇怪ではあったが――確かに、光の女神――マリアが言っている通り人間そのもだ。
苛まれ、恐怖する、そこに頭ではもう危害などないことは分かっていても、体は震えてしまう。
彼女の悪質さは僕自身だ――けれども、ミレアにもミレアの性格という物はある。
今までそんなもの感じたことなかったけど、今になり、初めて僕はそれを目の当たりにした。
その時――奇怪である彼女を初めて、一人の人間のように感じた。