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正しき魔王の旅記  作者: テケ
四章 偽善ヴァイス
108/175

017

「闇に雷……この場にいる顔ぶれで分かるじゃない。きゃはは――かつて勇者の敵だったワタシたちは、決して勇者と争ったりなどしない。それが魔王(あの子)との約束だもの」



「でも――このままこうして世界を維持し続けても、いつかは壊れちゃうわよ?」



 ラナの言葉にミレアはきゃはは――と笑う。

 

 

「興味ないわ。壊れてしまうならそれまでのモノだったに過ぎない。きゃはは――ワタシはね、人間なんて大っ嫌いなのよ、とくに勇者――きゃはは、あれは一番嫌い。人間と言うのは醜くて汚くて、それでもヘドの中を生きていく害虫に過ぎない。あんなモノのように何かに奇跡を授けられて、はい救いだの、はい希望だの、ご都合主義で力を翳し、何を言っているの?笑っちゃうわ――きゃはは。あんな地に足すらついていないモノのは、認めないし、許さない。きゃはは――少年はいいわよ、きゃはは――あんなモノより幾分もまし。ボロボロになって這いずり回って、誰かに願いを乞うて……きゃはは。このワタシですら、つい助けてしまうほど、愚かに生きてくれる。ただ奇跡を振り回すだけの、あんなモノと一緒にしないでちょうだい――きゃはは」



 だから――もっと少年にはつらい想いをして欲しい。

 と――とても嫌な事を言ってくれる。

 でも、言い方は女神ならぬ物言いだが、ミレアは真っ当な人間が好きなんだろう。魔法とか奇跡とか、そんなモノを使わうずに生きている人間。

 特別な力――そう言ったものを否定している。多分こいつは嫌いなんだ、そもそも魔法どころか女神なんて、そんな奇跡てきなもの

 

 説いている。奇跡などに頼らず人間は生きていられる。奇跡は起きないから奇跡だという。それを大ぴらにまき散らす勇者や他の女神、お前たちは間違っていると。

 ほんの一つ、心から願ったモノにさえ奇跡は与えてやればいいのだと。それこそが女神だと……。

 人間はそこまで落ちぶれていないと。

 

 今思えば、ミレアの行動は全てそれに基づいてのことだ。

 僕に魔法を教えなかったこと。

 僕が牢でボロボロになるまで助けてくれなかったこと。

 それでも、何故か砦でアンジェに刺された僕を助けてくれたこと。

 

 奇跡に頼らず生きてきて、決定的な瞬間だけ彼女は助けてくれた。

 だって、ミレアは何も僕を助けないとは言っていないのだから。彼女の気が向く時、その時だけ特別に助けてくれるという約束だった。

 それはそう言うことだ。僕が本当に心から願ったから、僕の力ではどうしようもない事だったから。助けてくれた。

 

 女神が女神を否定するという自己矛盾をしているけれども、そう思い返すと、確かにミレアは女神としていた。

 ここに居る、奇跡を振りまいているだろう女神よりも、女神らしい。女神は人に救いを求められるから女神なのだ。なにも女神側から一方的に奇跡を渡すものではない。そんな大盤振る舞いなど、女神らしくない。そんなことをしたら人間が腐ってしまう。

 崇められ奉られこそ、神であると。

 

 

「テメェ」


「ユーリまって――そうだね。それは人間の心を見続けてるアナタらしいよミレアスフィール。アナタは女神のなかで最も人間らしい」



 ミレアの性格はミレアを見るもの内側の本質を現してる。こうして、きゃはは笑っている気味の悪いミレアが僕の本質なんて思いたくもないけれども。

 ミレアは人の内面を常に映してきた。だから人間らしい。人間の内面をいくつも見てきたから。

 

 そこには綺麗な部分よりも汚い部分の方が多かったのだろう、だから――人間など救いようがない愚かだと笑う。それでも、彼女は自分が思う女神を真っ当している。醜くて汚らしい僕をへと祝福をくれる。

 それは、まだ諦めてないからじゃないのか?まだ、人間にも救いようがあるって思ってるからじゃないのか?

 でなければ、僕を試すようなことをしない。這いつくばる僕を見て楽しんだりなんかしない。

 もし違ったら、それこそこいつは悪魔か何かだけどな……。

 

 

 だから――女神は人の心は良くら分からないと聞くことがある。

 神だから、ひとではないからこそ本当は人のことを分かっていないと。

 彼女達女神はそうなのだろう。だからズレている。人の心を覗き見る変態のミレアと理想の違いが生まれる。

 

 

 ああ――ミレア、そう思うとお前本当はいい女神なんじゃないか?

 結局、今の僕は僕が無力なのが原因なのだ――他の選択肢もあったのだろう。ミレアはミレアの思う理想で僕を助けていたにすぎない。

 なんだよ、なんで今になって……。

 今まですべてミレアのせいといい訳してきて、逃げてきた僕が馬鹿みたいじゃないか……。

 

「交渉……決裂……かな」



「ええ――きゃはは」



 マリアの質問に、いとも容易く同意した。

 

 

「ティアラ――それでいい?」



「はあ――仕方ないですわ。他の方々もよろしくて?」



 小さくため息をついたティアラが他の王達に訊くと、全員頷いた。

 

 

「仕方ありませんが――そろそろ、向かうとしましょう。――そういえば、まだ名を訊いていませんでしたわ」



 立ち上がったティアラに訊かれ僕は名乗る。

 

 

「義善治正です。あの――どこへ?」



「時空庭園――この世界の神の領域とでも言いましょうか?そこで師から神座を奪います。アナタはそこにいてください。まもなく――この地も教団が占拠します。ここに居れば安全でしょうから」



 そう言うと王と女神たちは円卓から離れ、ティアラの周りに集まる。

 

 

「マコト――それでいんじゃ。お主は来るべきではない」



「小僧!大人しくしとけよ?」



「期待外れだった」



「ふむ……」



 それぞれ王たちは僕へ声をかけ、ティアラを待つ。

 

 

 ティアラは何もない空間へ右手広げ真っすぐ掲げる。

 

 

「開きなさい」



 瞬間――そこに扉が現れた。

 人っ子一人が通れるどこにでもある大きさで、ステンドグラスでできた豪勢な扉だ。目についたその柄は薔薇の柄を中央にかたどっており、美しい煽色の薔薇の絵が刻まれていたそのステンドグラスは裏側が光っているのか、ガラスを通して発光いる。

 無論、現れたのは扉だけだ。先の場所など存在しない。

 一つの扉がその場に真っすぐ立っている。

 

 ティアラはその扉の金のノグに手を掛け、扉を押し込み開ける。

 

 中はなんだろう。キラキラしている、粉のようなモノが舞う渦か何かが見える。

 異次元、そういうものなのだろうか?今までもみたこともない風景が扉の先はあった。

 

「いきますわよ」



 王や女神と顔を合わせ、彼女達は扉の中へ入って行った。

 扉はキィっと音を立てて締まり、後には、煽薔薇のステンドグラスの扉だけが残った。

 

 

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