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正しき魔王の旅記  作者: テケ
四章 偽善ヴァイス
105/175

014

「じゃあ始めましょうか」



 後ろに立つ彼女は両手をパンと合わせ微笑み言う。

 

 ………。

 

 なんというか、なんだろう。思ったのと違った。

 間の抜けた合図だった。

 

 美しさの近寄りがたさとは異なり、そうは思わせない感じだった。

 

 気品と勇ましさをもつ座っている彼女とは異なり、まるで母親のような。なんでも許してくれる聖母のような優しい顔つき、大きく金の瞳に金のフワッとした外にウエーブかかったフワフワで腰まである長い髪。その上、真っ白い豊満なスタイルの良い全身を隠す、いくたものレースとフリルで飾られたドレス。極めつけは真っ白な自身の体よりも長い杖。銀の杖の先端は羽の翼の形をした、金色の金属が広がってその下に黄金の金がついており、それを自分の横に縦に浮かせている。

 この中で唯一、一目で女神と分かる姿とでもいえる。

 

 ありきたりな分かりやすい見た目だが、だからこそこの中で最も存在感を彼女は放っていた。

 

 けれど……なんというか、座っている方の彼女が精緻な鋭い顔つきをしているからだろうか。彼女とのギャップもあり、なんだか抜けているような感じがした。

 

 

 というより、何を始めるんだ……。

 

 

「戦争ですわ」



 僕が疑問持っていると、ふと正面に座す白い彼女は静かに告げた。

 

 その時、ソレを聞いた他の女神と同じように僕の横に立つミレアが笑った。

 

 

「きゃはは――正気?きゃはは」



 勿論、表情などない棒読みだ。奇怪であるが、楽しんでいるようにも見える。

 

 

「ええ」



「誰と?誰が?」



「わが師、勇者と我々が……」




 きゃはは。

 きゃははは――。

 きゃはははは―――。

 

 

 ミレアが壊れたように笑い始めて、その声が大きなこの部屋へとこだまする。

 

 

 その時、錯覚だろうか、一瞬口元が引いて僕はミレアが笑っているように見えた。無論、そんなことはない気のせいだ。ただ――そんな気が一瞬しただけだ。

 本気で楽しんでる?

 わからない。けれど――。

 

 

「アナタが言うと滑稽ねえ。きゃはは――」



 ミレアはいつものようにひにくを垂れた。



 ミレア?



「少年。アナタも笑ってあげなさいや」



 そう言って、座っている僕へ突然横から抱き着くと、耳元で、

 

 

「あの子は勇者の守護者よ?きゃはは――」



 などと言ってくる。



「守護者って……」



 フィーと同じ勇者を守る守護者。そんな人がなんでここに……。

 

 

「蒼薔薇のティアラ。確かに……ワタクシはあの方を守る守護者でありますわ。ですが――ここにいるワタクシは、今は光の国の王として居ますのよ。光の国の王――ティアラ・ローレライとして」



 だからと言って、勇者と戦争と言うのは……。

 

 

「裏切り……きゃはは――」



 そう、ミレアは僕に抱き着いたままつぶやいた。

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