014
「じゃあ始めましょうか」
後ろに立つ彼女は両手をパンと合わせ微笑み言う。
………。
なんというか、なんだろう。思ったのと違った。
間の抜けた合図だった。
美しさの近寄りがたさとは異なり、そうは思わせない感じだった。
気品と勇ましさをもつ座っている彼女とは異なり、まるで母親のような。なんでも許してくれる聖母のような優しい顔つき、大きく金の瞳に金のフワッとした外にウエーブかかったフワフワで腰まである長い髪。その上、真っ白い豊満なスタイルの良い全身を隠す、いくたものレースとフリルで飾られたドレス。極めつけは真っ白な自身の体よりも長い杖。銀の杖の先端は羽の翼の形をした、金色の金属が広がってその下に黄金の金がついており、それを自分の横に縦に浮かせている。
この中で唯一、一目で女神と分かる姿とでもいえる。
ありきたりな分かりやすい見た目だが、だからこそこの中で最も存在感を彼女は放っていた。
けれど……なんというか、座っている方の彼女が精緻な鋭い顔つきをしているからだろうか。彼女とのギャップもあり、なんだか抜けているような感じがした。
というより、何を始めるんだ……。
「戦争ですわ」
僕が疑問持っていると、ふと正面に座す白い彼女は静かに告げた。
その時、ソレを聞いた他の女神と同じように僕の横に立つミレアが笑った。
「きゃはは――正気?きゃはは」
勿論、表情などない棒読みだ。奇怪であるが、楽しんでいるようにも見える。
「ええ」
「誰と?誰が?」
「わが師、勇者と我々が……」
きゃはは。
きゃははは――。
きゃはははは―――。
ミレアが壊れたように笑い始めて、その声が大きなこの部屋へとこだまする。
その時、錯覚だろうか、一瞬口元が引いて僕はミレアが笑っているように見えた。無論、そんなことはない気のせいだ。ただ――そんな気が一瞬しただけだ。
本気で楽しんでる?
わからない。けれど――。
「アナタが言うと滑稽ねえ。きゃはは――」
ミレアはいつものようにひにくを垂れた。
ミレア?
「少年。アナタも笑ってあげなさいや」
そう言って、座っている僕へ突然横から抱き着くと、耳元で、
「あの子は勇者の守護者よ?きゃはは――」
などと言ってくる。
「守護者って……」
フィーと同じ勇者を守る守護者。そんな人がなんでここに……。
「蒼薔薇のティアラ。確かに……ワタクシはあの方を守る守護者でありますわ。ですが――ここにいるワタクシは、今は光の国の王として居ますのよ。光の国の王――ティアラ・ローレライとして」
だからと言って、勇者と戦争と言うのは……。
「裏切り……きゃはは――」
そう、ミレアは僕に抱き着いたままつぶやいた。




