012
「さての。ワシを安全なとこに誘導した後どこかへ行ったようじゃが……生きておるなら今頃主のところにでも戻っているのではないか?」
なら――勇者のところか。
「ところでお主。アンジェはどうした?」
「アンジェは……」
いない……。
だって……。
「いや――よい。身なりを見るに大体分かる。お主、見ぬ間に随分と酷い眼になったのう。焼け焦げて灰になった木のような眼をしておる。はて、何人殺した?」
それはどんな眼だよ。
ああ――まあ。
何人殺したなんかなんて分からない。何人なんて人数なんてどうでもよかったし。アンジェのこと以外僕にとってはきっと殺人ではない。
ただの作業にしか過ぎなかった。
「詰らぬ男になったものよ」
煙を吐き出し、そう言ってネベリアさんは脱力した。
詰まらないか……。
むしろ――前の僕はつまらなくなかったのか?という。
大体、変わらずにはいられなかったし、何よりも変わらなければもうなにも成し遂げられないのは十分に理解した。だから――変わったのだ。何もかも酷使して僕はアンジェの為にと……。
それをつまらないと言われるのは、なんだか自分のしていること全てが否定されているみたいで、嫌に感じる。
「はっ!だが――兵士としては一級品だ!」
気を落としてしまったクラリアさんとは別に、クラリアさんとは正面ほどに座っていた男が声を上げた。
オールバックの真っ赤な髪。若さと煌めきがある表情に燃えるようなオレンジの瞳の男だ。その男は赤いマントの付いた銀のプレートの鎧姿で、西洋の騎士を思わせる格好でいた。
「小僧――お前が砦に居たっていう異界人か」
押しの強い口調で、その男は僕へと問うた。
砦の一件を知っている……。
あそこに僕たちが居たのを知っているのはクラリアさんぐらいだと思ったけれど……。
「まあそう警戒するな!――オレ様は火の国の――アーガスト・ベルクホルンだ。でこっち女神のユーリ……なんつったっけ?」
「ユーリ・ベルクホルン・サラマンダーだ。お前すぐ忘れるな……」
アーガストが親指で後ろに居る女性を刺して言うと。後ろに居る彼女が答えた。
ユーリと同じように煌めくような赤くオレンジかかった大きな瞳に、鋭さのある丸い顔立ちに短い燃えるような赤オレンジの短髪。それに身長の低くさが合わさり男の子っぽさを感じさせられる。ただ――服装こそは女神という感じで、薄く赤い羽衣を纏う踊り子のような恰好。小さく細い体を大きく露出している。
火の国ということは火の女神なのだろう。彼女はため息をして呆れた。
「なんで――僕がこの世界の人間じゃないって……。それに、どうして砦のことを……」
あの砦の人たちは全員アンジェが皆殺しにしたはずである。だから、直接話したクラリアさんとラナ以外は砦の一件も僕が別の世界から来たことは知らない筈なのだが……。
……いや、別の世界の人間と言うことは分かるのか。
ラナがそうであったように、女神であるこの火の女神にもそれがバレていてもおかしくはない。
だとしても――砦の一件は分からない筈ないはずだ。