010
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あれから、結局ミレアはきゃははと笑うだけで、あの話には触れようとすることはなかった。
言いたくないのか、言う意味を持たないから言わないのか、どうなのかは知らないが、ミレアが何かを隠しているのは確かだろう。とは言え、僕だってそんなこと知りたくもないし知った事でもない。
余計な事を知ってこれ以上、僕は僕人身のなすべきことから離れたくはなかった。
と――まあ、あれから特にやりとりもなく、僕たちは最上階の大きな両開きの真っ黒の扉の前へとやってきた。
一体どれだけ登ったのかは知らないが、少なくとも地上10階以上は確実に登っている。
ミレアの力で不死身になっていなければ、疲れ切っていただろう距離だった。
エレベータはないのか……。
「普段は魔法で中央を上がっていくのだがな」
あるのかよ……。
螺旋階段の中央から、上がってきた下の階段を見下ろして途方もない距離を見て嘆くと、ネベリアはそんなことを呟いてくれる。
「ならなんで徒歩で?」
「なに――話をしたかったからな。最も慈悲深くそしてこの国はを捨てたミレア様の契約者どんな者か知りたかったんだよ。なによりも――王の血族としてもね気になったんだ」
ミレアのどこが慈悲深いのか知らないけど、というかそももそも慈悲深くて国を捨てるとかもう意味わかんないけど……、水の国の代表だからきになったんだろう。
自分たちの国の女神が連れてきた契約者が誰なのか。まあ、実際には僕が連れてきた訳だけども……。彼女にとってはそこは別に気にする場所ではない。
むしろ――ミレアと代々契約していた家系ならなおさら、気になったんだろう。僕がどういった奴なのか。
その為に、ざわざわ歩いて登ったのか……。
「そういう意味では――有意義な時間だったぞ。面白い契約者を連れてきてくれたものだ」
「きゃはは――別に連れてきた訳じゃないわ。かってに――少年が来たのよ。きゃはは」
言われたミレアはそっけなく返す。
けど、そうだ――僕が勝手にここに来て勝手にネベリアに見つかっただけ。
ミレアはなにも導いていない。
「そうか、がだだとしたらこれは運命だろう」
「運命?」
そんなのが運命なのならばさっさと断ち切ってしまいたい。何よりも、ここに来た理由はアンジェだとも言ってもいい、それが運命だとするならば、アンジェが死を望んだことも、僕がアンジェを殺したことも運命だとでもいうのか。
ふざけるな、だとしたら、こんなにも僕たちを不幸にするミレアはなんて疫病神だ。
確かに全ての現況がミレアであるのは確かだけども、僕たちの不幸を運命と言うだけで片付けられるのは腹正しい。
「ご不満の様子だね。まあいいだろう――アナタ様にも何か想うことがあるようだ」
「つぎこれを運命って言ったら殺す」
「そうかい――なら、以後はきおつけるようにするよ。他の物にも言っておく」
睨みつける僕にヤレヤレと言わんばかりに、投げやりにネベリア言った。
「さて――この扉の向こうだが、重要自分物が数人いる中にはアナタ様も見知った顔もいらっしゃるが、驚かないで欲しい。これから――世界修復の第二ののろしを上げるのだからね。ことは素早く済ませたい」
見知った顔?僕がこの世界で知っている人の顔なんて数えるほどしかいない。
ただ――その人たちも全員死んでいるか行方不明だが……。
それに、第二ののろしっていうのは、おそらくは悪い事なのだろうが……なにを?
ネベリアは扉の取っ手に手を掛ける。
それを引こうとして――。
「あっ――そうそう、アナタ様、名はなんといったかね?」
一旦扉から手を放しこちらを向き訊いた。
「義善治 正」
「変な名前だ」
「きゃはは」
ネベリアが扉を引き開く。