番外編 ある晴れた日の
超短いです。
穏やかな春の日差しが降り注ぐ朝、とある男女は足並みを揃えある場所に向かっていた。
茶色いくせっ毛の髪が特徴的な男の名前は火野正宗。隣を歩く勝気そうな、セミロングの黒髪の女性は彼の妹である火野春香だ。
二人は正真正銘の兄弟ではあるが、中身はまるで違う。要するに出来の悪い兄と出来の良い妹の関係だ。
平凡以下の正宗に、何でもそつなくこなす春香。しかし二人はお互いのことが嫌いではなかったし、両親も二人を分け隔てなく愛した。そんな日々が幸せだった。
しかし幸せとは永遠に続くものではなく、父の死によって終わりは唐突に訪れた。
原因は癌。発見時には末期で転移は広がり、有り体に言えばその時点で既に手遅れだった。
病床に伏せる父を見て、家族で幾度も涙した。そして長い闘病の末、父、火野晴之は5年前の今日亡くなった。
あの日から家族は変わった。もともと体の弱かった母はその日を境に入退院を繰り返し、安定した収入は無くなった。
春香からは笑顔が減り、他人と言葉を交わすことも少なくなった。こうして隣りに居ても会話が無いことがその証拠と言える。
そして正宗は外見上は何も変わらなかった。学校では父が死んだとは思えないほど友人達に明るく接し、家庭では何とかして妹との会話を取り戻そうとした。ただしそれはあくまでも外見上の話だ。正宗の内面は自分自身でも気が付かないうちに変質していた。
絶望的な生存率でも死ぬまで生きることを止めなかった父の姿は、今でも瞼の裏に焼き付いている。それゆえに、正宗は生きる。どんな理不尽にぶつかっても、どんな苦痛に苛まれたとしても、どんな怒りに流されたとしても。偉大な英雄がそうだったように、心だけは折れないように。
航路は不明、羅針盤もなく、天気は曇天、コンディションはオールレッド。ある晴れた日の事だった。
過去一番苦労しました(まだ短いですが)




