第3話 町に出て
「へー、美味しい。料理上手いんだね、君」
「そう?和食だけど、口に合ったなら良かった」
あの後、昨日のアリスの宣言通り俺が料理を作ることとなった。和食が口に合うかは心配だったが、少し安心した。なんせレパートリーのほとんどが和食だからな……これで和食無理だったらどうしようかと……
「で、チームの事なんだけどね?」
「ん、ああそうそう。チーム」
「……別に説明しなくても分かるよね?」
「おい分かんないよ、分かるのは精々言葉のニュアンスくらいだよ」
「うーん面倒くさいなあ……ボク説明とかやっぱり苦手」
いきなり説明放棄したよこいつ……こんなので本当に大丈夫なのか……?
「じゃあ食べながらゆっくり説明するね?」
そう言うと一旦箸をおきお茶を飲み、落ち着いたところで話し始めた。
「まず大前提として、ボクたちは協会から依頼を受け、その依頼をこなして賃金をもらうんだ」
「パートナー制度とかも依頼?」
「うん、確かに近いかもね。で、良い依頼を受けるためには信用とか評価とかも必要なんだけど……あ、そこのお醤油取って」
「はい醤油。それで?」
「ありがと。やっぱりそういう依頼には危険が付きものなんだよ。だからチームを組んで、戦力的にも情報的にも有利に挑めるようにするんだ。まあその分、取り分とかも少なくなるんだけど。ここまで分かった?」
なるほど。ハイリスクハイリターンを取るか、ローリスクローリターンで取るか。ゲームじゃないんだ、確かに単独行動よりも二人以上でチームを組んだほうが危険も少なくていいよな。
「ああ、取りあえずは大丈夫。で、俺らのチームはロビンフッドなの?」
「うん、まだ正式認可されてないけど。二人以上なら手続きできるから」
「あ、まだ二人なの?」
「うん」
つまりはえっと……アリスってこれまでソロでやってたって事か?じゃあなんでいきなりチームに……?
そんなことを考えていると、アリスは次の話題に移っていた。
「じゃあ次は町の人たちに挨拶しに行こうか。正宗には少し遠いかもしれないけど」
「え?町とかあるの?どこら辺に?」
「ここから東に3㎞ってところかな?ボクは飛べるけど……」
そっか、なるほど。つまり俺は走るか、再び飛ばないといけないわけだ。
「走らせてくださいお願いします」
「むう……飛んでいったほうが楽なのに……」
「無理無理無理無理」
「りむりむ?」
「やかましいわ」
とりあえず飛行だけは絶対嫌だ。町に着くまでに死ねる自信がある。
「しょうがないなあ、けど……」
「けど?」
「んー……何でもない」
「え、何?」
「何でもないって。ほら、早く食べて行こう?」
「あ、うん」
よく見るとアリスはもう食べ終わっていた。どうやら俺は話に夢中で食べるのが遅れていたみたいだ。そう気づき、急いで残りを口に入れる。
「ごちそうさまでした」
「ふぉちふぉうはまふぇひた」
「お行儀悪いよ?」
ゴクリ、と口になかのものを全て飲み込み、片づけを始める。全て片付け終わったころには、もう8時を過ぎていた。
「じゃあ行こうか。正宗が来たから服とか色々買わないとね!」
「あ、そっか……何にも考えてなかった」
「大丈夫、なんでもあるから。ボクに任せてよ!」
アリスにそう言われると心強い。つくづく思う、一人じゃなくてよかったと。
「けど自分の荷物は自分で持ってね?」
「それは勿論。自分のものくらい自分で持つよ」
しかしこの後、俺は自分の発現に深く後悔することとなった。
「やーっと着いた。歩くとやっぱり疲れるなあ。正宗は大丈夫?……じゃなさそうだね」
「おー……おれはー……だいじょうぶだぞー……」
あれが歩く?冗談じゃない!俺は走ってたのに息も切らさずに横に居る。ここではこれが普通なのか?
「どう見ても大丈夫じゃないね。とりあえず正宗は体力からつけよっか」
やれやれと呆れられるが、疲れて何も言い返せない。
「じゃあ息整えて、早くいくよー」
「お、おー……」
やばい、早速ここで生きていく自信が無くなった……俺ってこんなに体力無かったのか……
それからしばらくは街の中を見回って、挨拶に回ったり生活必需品を揃えたりした。しかし大きさ的に町というか村というか……まあそこの辺りは置いておいて、いくつか分かったことがある。
一つ目は町の人が優しい。もうべらぼうに優しい。歩いているだけで声をかけて、何かしら差し入れをくれる。
二つ目は、アリスが中々鬼だということだ……生活必需品はまあ……俺のだ。差し入れも……まあ良い。良くないけど。けど自分の買い物まで俺に持たせるって言うのはどうなんですかね。しかもそれを言った時のアリスは……
「ん?何か言った?」
笑顔で人を脅す……やっぱ増々不安になってくる……!
けどまあそれでも……
「アリスってさ」
「何?荷物なら持たないよ?」
「いや……やっぱ優しいんだなって」
そう言うとアリスは、何かやばいものでも見るような目でこちらを見つめてきた。
「……これだけボクに荷物を持たされて出てくる感想がそれって……もしかして正宗ってMの人……?」
「ドン引きしないでくれません?俺はそんな特殊な人じゃないっての」
「じゃあなんでまた優しいなんて……?」
「いやそれは……」
言おうか言うまいか迷っていると、アリスはこんなことを言い出す。
「教えてくれないならこの塔みたいに積みあがった荷物の上に乗っちゃうよ?良いの?」
「待って、マジで崩れるって!目の前見えてないんだけど?」
「どうしよっかなー」
「分かった、言うから!」
「で、君は何をとち狂ってボクが優しいなんて言ったの?」
流石にこれ以上は身が持たないのでおとなしく言うことにする。
「いや……町の人達に好かれてるからさ。アリスを見かけるたびに何かしら声をかけてくれるし、子供にも好かれてるし。アリスはやっぱり優しいんだなって」
「……ふーん」
まあこんなことされてるから鬼なんじゃないかと疑い始めてるけどな。
気が付くと、アリスは黙って俯いていた。
「…………」
「えっと……そんなに気に食わなかった?」
「ううん、そういう訳じゃないけど……面と向かって、皮肉じゃなくて優しいなんて言われたの久しぶりだから……ちょっと恥ずかしくなっちゃって」
あれ?そう思うと俺も結構恥ずかしいこと言ってる……?やばいどうしよう、俺も恥ずかしくなってきた。
「……正宗」
「ん、何?」
妙に深刻そうなその声に、少し警戒しながら返事をする。そんなに恥ずかしかったのだろうか。
「正宗は……殺したいと思うほど恨んでる人っている?」
「……なんだよ藪から棒に物騒なことを……」
顔は見えなかったが、雰囲気でアリスが本気なのは分かる。一瞬冗談で返そうかとも思ったが、流石にそれは出来なかった。
「……いないよ」
「本当に?君は冤罪でこんなところまで来ちゃったんだろ?全く恨まないのかい?」
「……やけに突っかかってくるな」
「大事なことだよ」
「……全く恨まないなんてことはない」
「じゃあなんで……!」
まるで自分の正しさを否定されたくないかのような、アリスの必至な問いかけ。迷った末に、俺は……
「恨みはした……警察も、裁判官も、傍聴席で喚く奴らも、事件を引き起こした真犯人も、あの時は全員を恨んだ。けど……」
「……けど?」
「そうだな……息もつけずにこんなところまで来てしまったせいかもしれないけど、恨みが殺意にまで変わることはなかった。それに、殺したいと思えるほど、恨んだ奴の事を知ってるわけでもないし……」
「じゃあ君は……いつかそいつらと会ってよく知ったら殺すの?」
「さあ?」
「さあ??」
「だって俺、未来の事なんてわからないし。そもそも今日生きるので精一杯なのに、明日の復讐なんか考えることも出来ないって」
あっけらかんとした俺の答えに、アリスはポカンとした後、いきなり毒気を抜かれたように笑い出した。
「あははは!!確かに!あー、おかしい!!ヒー!」
「いや、そんなに腹よじれるほど笑われても困るんですけど……」
「ごめんごめん!ボクも変なこと聞いたね!帰ろっか、お昼ごはんの準備しないとね!」
さっきまでの思い詰めたような雰囲気とは打って変わって、いきなり明るくなる。女って何が何だか……
「さ、家にGO!」
「ちょっ、走るな追いつけないから!」
今思えば、これがアリスの見せた初めての本音だったのかもしれない。
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