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あの時のあの子

作者: 梨

すっかり寒い時期になったとは言え、大阪の冬より東京の冬のほうが厳しく感じる。

手袋は手汗が出るから、マフラーは首元がかゆくなって不快だなどと言って避けてきたが

そんなこと言っている場合じゃないなと思い、一人自分の中で折れた

防寒できるものを求めて吉祥寺を彷徨っていた

家を出たのがすでに5時過ぎだったためか、吉祥寺を彷徨っていたころにはもう暗くなっていた

暗いはずの街は街灯でまぶしかった

自然とややうつむき気味でまぶしさの中を歩いていていると自分が、自分の足が勝手に向かってゆくような感覚に陥った

自分の通っていた高校の制服に似た制服を着た生徒が3人ほどショッピングモールの前に立って喋っている

そのなかでも一番喋っている彼女をあの彼女だと錯覚した

まぶしいなか歩いていたせいで幻覚か夢でも見ているのかと思った

ふらふらと歩いていたか、よぼよぼと歩いていたかあと彼女まで4、5メートルといったところまで歩いたところでふと我に返り

「いるわけないか」

と口にしたかしてないか、すぐ目の前にあった扉にすっととにかく消え入ることで事なきを得た

だが一歩間違えれば「女子高生に声かけ事案」としてネットニュース行き、もしくは周りの正義漢どもに取り押さえられ窒息死といったところだったかもしれない

しかし、こうしてあのときを振り返るとき別に自己嫌悪なども感じないのである

大阪にいるはずの彼女が東京にいないのは承知だが

彼女が口元をおさえて笑う仕草、笑い声、笑った時に三日月をひっくり返したような二つの目、身長、制服のデザイン

どれもあの彼女であったのだ


もう高校など卒業して随分経っているのにもうあの彼女の思いださせる姿は高校生の姿であったのだ

彼女は離れて生きている

僕もこうして生きている

僕の思うあの彼女はもう大阪にいる彼女とは別の者になってしまったのだろう

もしかしたら、世の中で生徒に声をかける「変質者達」も昔の彼女、彼の像を追ってしまったのかもしれない。


幼少期に5年住んだ静岡から大阪に引っ越したのだが、その引っ越しから数年経ったある夜見た夢を思い出した。

夢の中で僕は教室で頭を抱えて泣いていた。するとちょうど僕が静岡の友人たちが、そして担任の先生が僕にどうしたのかと聞いてくるのだ。

僕はたちまち涙をぬぐって彼らにいかに大阪の生活が忙しなく寂しいものかを語る。

そしていつも遊んでいたグラウンドに駆け出してゆくという夢だった。

ここでも夢のなかで見た彼らの姿は数年前、つまり僕が静岡を出たときのままだった。

小学生だった僕は一瞬、その現実を飲み込めなかった。

僕の知る彼らは彼らなのだ。だから夢に出てきた。

しかし、もう数年経つ今となっては僕の知る彼らではないのだ。

身長も伸びているだろう。もう僕のことを忘れているのかもしれない。

そんな現実を考えた時に

そもそも僕の知っていた静岡

なんてものは残っているのかとさえ思った。


そんなものはただの僕の中の像でしかないと思ったとき

夢はやっぱり夢なんだと言い聞かせながら、孤独を温かい布団に包まれながら感じた。

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