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第6話 実は白衣の天使って武闘派なんだよ?

※ 今回は残酷な描写、暴力表現があります。苦手な方は読まないようにお願いします。


嗅ぎつけたのは、仕事を続けて十ウン年の間に何度となく嗅いだ臭いだ。

血と糞便、それに垢と埃に脂が混ざった何とも言えないえた臭い。

もうとっくの昔に新人じゃないので大袈裟に騒いだりしないが、一瞬顔が歪むのは仕方ない。鼻が慣れるまでの辛抱だ。

「お二人とも、布で口を覆うようにすると少しは楽になりますよ」

「ありがとうございます。何とも言えない臭いですな」

隣ではアランが盛大に顔を顰めている。経験浅いならこの反応も仕方ないよな。

「私も新人の頃はアランと同じ反応して上司に怒られましたよ。懐かしい」

…そういや、俺何歳でこの仕事始めたっけ?


臭いを辿って着いた先には1つのドアがあり、開けた左側には牢屋があった。

臭いの発生源はここのようだ。

「誰かいるか?」

「おやおや、誰かと思ったら『ライケン』じゃないか。最高だ、何てツイてるんだ」

右側は少し広い部屋になっていて、そこで男が待ち構えていた。

俺は特に最悪だよ。完全にラリってる目じゃないか、あれは。

「美しいお前に『ライケン』の血を吸わせてやろう」

細身のサーベルが鞘から抜かれ、銀色の刀身が現れた。

「ううう、何なんすかこいつ。不気味っす」

「タツキ殿、下がってください」

「それは無理だ、こいつは俺を獲物として見てる。すまない、アイザック」

仮にアイザックが前に出ても、恐らく隙を見て俺へ飛びかかるだろう。

半身に構えて緩く握った手を持ち上げる。


「ぜぇいっ!」

気合いと共に右上上段からの振り下ろし。

間合いに踏み込み、右手で相手の手首を掴むとそのまま脇へ回って身体を捻り、捻られた肘につられて上半身が倒れている相手のこめかみへ、左の肘鉄を入れる。追撃する代わりに剣を奪って背後へ投げて間合いを取る。

普通ならこめかみ強打されたらちょっとは顔顰めたりフラフラしたりするもんだが、痛覚が働いていないんだろう。厄介だ。

「僕の剣!返せえぇぇっ!」

両手を前に突き出し、がむしゃらに突っ込んできた。

避けるか?避けるには距離が足らない。よし、後ろは確認した。投げよう。

掴みかかってくるのとタイミングを合わせて後ろへ倒れこみながら、襟を掴んで折り曲げた足をお腹へ宛がい、全力で蹴飛ばす。

相手は牢屋の格子に上下逆さになって衝突し、頭から床に落ちた。

1、2、3…。10数えても起き上がってこない。意識があるかどうか確認したい、しかし近づきたくはない。周囲を見回すと空の瓶が5本、机、椅子が4脚、固表紙の本が3冊。

手段で物を投げる事を選択した俺は悪くないはずだ。


瓶を1本顔面へ投げて、そこそこの勢いでぶつかったもののぴくりともしないのでそろそろと近づいた。

よく見れば首が妙な角度へ曲がっている。きっかけはどうであれ、これで俺も立派な人殺しだ。

だが万全を期そう。

相手の落としたサーベルで両脚の大腿動脈を切断。もし仮に生きていても、早急に止血しなければ確実に死ぬ。


「そやつを、殺したのか?」

牢の中から聞こえた鎖の擦れる音としわがれ声。

「ええ、殺してとどめも刺しました。いい人でしたか?」

「ふ、せいせいしたわい」声の裏にごろごろと喉が鳴って聞き取りが若干不明瞭。湿った音は痰だろうか。

カルテに擦過傷、打撲、栄養失調に手足の拘縮、その後ろへ肺炎もプラスし、殺した相手のポケットを漁り始めた。

「あなたが誰であれ、ここから出ましょう。病人をこんな所へ置いておけません」

僅かな沈黙。

鍵は開かれ、人の姿をした悪臭の塊をファイヤーマンズキャリーで担ぎ上げた。

この虜囚が善人であれ悪人であれ、俺は病人を無視できない。


……お風呂が凄い事になりそうだ。

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