第4話 えらい事になってしまった
ボディメカニクスに目の色を変えて一頻り興奮したアイザックさんが、「先程のような秘術、まだ他にもございますか!?」とずいっと体を寄せてきた。なまじ顔立ちが整っているし大柄な分、怖い。
「ですから、秘術なんて大層なものではなくて、『どうやったら少ない力で人を介護できるか』という技術です。私のような介護従事者の8割、つまり10人に8人は肩こりや腰痛に苦しんでいます。人って結構重たいんですよ?」
米10キロ1袋なら耐えられるだろうが、これが5つ6つ7つとなると確実に腰をやる。
俺は新人が来た場合、口を酸っぱくしてボディメカニクスの要点を教える。
足幅を前後左右に広く取る。(立った状態が安定する)
膝を曲げて腰を低く落とす。(重心を低くとると安定する)
水平に滑らせるように移動させる。(持ち上げると腰が死ぬ。この時、足先を行き先へ向けると楽)
相手に近づく。(距離が遠いと介助する側に負担が大きいので距離を詰める)
てこの原理を使う。(肘や膝を使う)
身体を小さくコンパクトにまとめる。(両手両足を伸ばしたままだと動かしづらい)
大きい筋肉を意識する。(大胸筋、大腿四頭筋、大臀筋、腹直筋、後背筋など。腕や足だけの時より大きい力が出せるので作業効率もいい)
「しかし、そう重そうには見えないのですが…。失礼しますよ」
「どうわっ?!」
目の前でいきなり屈んだと思ったら横抱きにされたので、慌てて目の前の首筋にしがみつく。
「ふむ、軽いですな」
笑顔で言うな、自分が情けなくなる…。
これでも身長は175cmだし筋肉もあるのに軽々と横抱きされるとは。
「…アイザックさん、下ろしてくれないなら秘術教えませんよ?」
「え」
「たいちょー、明日の訓練っすけど……お邪魔しましたごゆっくり」
「アラン待て!!」
無事に下りられたのはいいが、ドアをノックせずに開けた誰かのおかげでまたえらい目に遭いそうだ。
廊下を走って遠ざかる重い足音に溜め息が出た。




