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第30話 飛び越す手段

昨日は、礼拝堂を階段だけ全面坂道にという某リフォーム番組も真っ青な奇抜すぎる改装を施し、名前は知らないメタボな貴族へ人間団子を突っ込ませた。

それだけだがひどく疲れてしまい、寝て起きた時にはお昼だった。腕時計で逆算する限り、丸1日は眠っていたようだ。

「まずい、寝すぎた…」


客用寝室のドアを開けたら、ドア前でスタンバイしていたメイドさんが人を呼びに走り、トリスさんとアレクサンダーさんがすっ飛んで来たので説明する事になった。

「ははあ、そういう訳だったんですね。息子に説明を求めようにも、昨日は揺すっても起きず、今朝は青い顔で急いで出仕しておりまして状況が見当もつかなかったのです」

「アレクサンダーさん、申し訳ない。ご心配をおかけしました」

そりゃ心配するわ。もうこの場合は深々と頭を下げる他ない。

「どうぞ頭を上げてください。それと、あなたが寝込んだ原因もおおよその見当はついております」

え、そんな簡単に分かるものなのか?

聞いてみたら、「魔力切れによる昏倒」らしい。布団に入るまで意識ははっきりしてたから「昏倒」と言う言葉に当てはまるかどうかは疑問なんだが、まあ黙って聞くことにしよう。

主に短時間で大量に魔力を融通した場合か、魔力を大量消費した場合に見られるそうだ。

勿論、心当たりはある。

「魔力に慣れていない状態で融通したなら、昏倒するのは目に見えておりますよ。これから少しずつ鍛練していけば大丈夫でしょう。私も若い頃は何回魔力切れになったことか、ハッハッハッ」

敢えてガス欠させて魔力量を増やしたい訳じゃないから、俺の鍛練はほどほどにしてくれと頼んでおいた。揃って残念そうな顔をされたが、そこは譲れないし、俺にMの気はない。

「時に来賢様、市場に行きませんか?」

「行きたいです。が、その前にロベルタさんの血圧測定をしてから行きます!」

きっと心配していただろうから事情を話しておかないと。




ロベルタさんの血圧を測定しながら丸1日寝ていた事を説明したら、「そういう事なら、魔力の鍛錬はきちんとなさいませ」と言われた。

「訓練しておけば、いざという時に足が竦まず冷静でいられますよ。そういえば私が昔こなしていた訓練の一覧がどこかにあるはずだけど……そうそう、これよ。参考になるかしら?」

文箱から出した1つの巻物にびっしりと書かれていたのはロベルタさんの訓練の内容だそうだが、筋トレに剣やら槍、弓の訓練の後ろに続けて魔法の属性が火、水、風、土…んん?

「あの、ロベルタさんは何属性なのか聞いてもいいですか?」

「私ですか?若い頃ならフォースレットの(じょう)よ。一応詐称してトリプレットと言ってたけど、今はどうかしらね。もうおばあちゃんだし」

「そのうち身体の調子がいい時に、少しずつ調べてみるのもいいと思いますよ。魔法についてのお話も色々伺いたいですし、熟練者の話を聞くのは好きです」

「ふふふ、お上手だこと。ええ、楽しみですわ」



玄関まで急いで駆け戻ると、「お待たせしました」と詫びて馬車へ乗り込んだ。

馬車ってステップが小さいし幅も狭いから踏み外しそうでヒヤヒヤするんだよな。俺は踏ん張れるけど、お年寄りや女性にはキツいだろう。せめて手すりが欲しいけど、馬車だとどこに収納するかも問題になるか。

「何やら思案げな顔をされておりますが、どうかなさいましたか?」

「え?ああ、職業病と申しますか。つい問題や困りごとがあると『どうしたら状況がよくなるだろうか』と考えてしまうんです。

そうですね。例えば、目の前に我々男性なら乗り越えるのはどうという事がない段差が1つあるとします。

でも、女性やお年を召した方、あるいは子供にはその段差がとても大きく感じられて、1つ越えるだけでも大変です。そういう時に、その大変さを少しでも楽にしたいと思ってはつい考えてしまうんです。

真っ直ぐ行けば段差が大変だ。なら回り道はどうか、道具を使うのはどうだろう、とか」


うーん、いまいち反応が見えてこない。もうちょっと説明を工夫してみるか。


「元竜騎士のアレクサンダーさんで言うなら、ある区域を飛行する警戒任務があるとします。

その警戒任務ですが、色々工夫しようと思えば工夫できますよね?

相棒の竜とどう飛べばいいか何回も練習したり、味方との綿密な飛行計画の打ち合わせ、いい鞍や温かい装備を着込むことも。私が思いつくのはこれくらいですが、熟練者なアレクサンダーさんなら他にも考え付いた事がありますでしょう?」

「ありすぎてどれから言ったらいいか困るほどですよ。なるほど、素晴らしい。話術まで達者でいらっしゃるとは」

「仕事で培った部分もありますね。これでも昔は口下手でした」

本当なんだから、そんなに「嘘だ」って顔でじろじろ見ないでほしいなあ。



市場の近くの、荷車がひっきりなしに出たり入ったりしている広場の隅で馬車を降りる。

アレクサンダーさんが馬車を降りる際に「こうしたらきっと降りやすいですよ」と、杖、左足、右足の順でステップを降りるように提案してみたら、馬車から降りて「いつもよりも楽でした」と感想をもらえた。

俺が寝ている1日に雨が降ったのか、地面は若干濡れて滑りやすくなっている。

「滑りやすいので足元に気をつけてくださいね」

最後まで言わないうちに、アレクサンダーさんはぬかるみに杖をとられてコケそうになっていたので、さっと左脇に腕を突っ込んで引き寄せたので転ぶのは阻止した。

少々強引だが、左腕をがっちり捕まえたままでトリスさんに道案内をお願いする。

「トリスさん、少しゆっくりと道を先導してもらっていいですか?景色を楽しみたいので」

「かしこまりました」

「な、何故私の左側を歩かれるので?」

「右では杖をつくのに邪魔になるし、もし転んだ時に右腕を引かれたら踏ん張りが利かないでしょう?

慣れていますから安心してください。ぬかるみや段差などがあったらお知らせしますから。さあ、行きましょう」

とどめでにっこり微笑んだら、何やらモゴモゴと呟きながら目を泳がせていた。

若いお嬢さんなら連れ立って歩くのは色々楽しいかもしれないけどね。




市場の賑わいから少し離れた、寂れた雰囲気が漂う一軒の店の前に立つ。

看板は象形文字の隣に日本語で【鍛冶屋】と表示が浮かんでいるし、看板と一緒に吊るされているのはハンマーと金床の絵。

「親方、いらっしゃいますか?入りますよ!」

「ああん?おう、トリスと大旦那か。そっちの若いのは誰だ?」

のっそりとカウンターの後ろに姿を現したのは、ごわごわでボリュームのある強い黒い髭、袖を切り落としたシャツから覗く太い両腕がムッキムキのおっさんだ。身長は…頭の高さが俺の肩くらいだから大体150cmほどだろうか。

鍛冶屋と聞くとイコールドワーフと安直に連想してしまうが、ハンマーを振るう仕事ならあれくらい筋肉がないとやっていけないだろう。

「はじめまして。丸橋と申します。お名前をお伺いしてもいいですか?」

「お、おお?わしはヴァレンじゃ。何じゃお前さん、お貴族みたいな話し方じゃのう。大旦那、こいつぁどっかの若様か、それともお嬢さんかい?」

「残念ながらは市井の民だと言っているよ。話し方は初対面の時からこうだが、故郷では皆そのような話し方なのかね?」

「そうですね、殆どの働いている人はやはりこういう『外で働いている時の話し方』です。もっと畏まった礼儀を重視した口調や逆に砕けた口調もありますが、概ねこうかと」

「ふうん。背中がむず痒くなるがまあ、慣れるしかなさそうじゃの。で、大旦那、今日は調整ですかい?」

「ああ、頼む」

店内に置いてある椅子の1脚に腰かけ、靴を苦労しながら脱いだアレクサンダーさんの左足の踵には、銀色の塊が嵌り込んでいた。

目が釘付けな俺を尻目に、ヴァレンさんは銀色の塊を足から外してやすりがけしていたと思ったら溜め息をついて、やすりの先で銀色の塊を指さす。

「大旦那、そろそろこいつも駄目ですね。またひび割れてきていやす。ほれ、ここが」

薄い茶色の目を険しくさせたアレクサンダーさんは銀色の塊を手に取って表面に指を何回も滑らせ、こちらも溜め息をついた。

「そうか…ヴァレン、これで何個めだ?」

「ひのふの…かれこれ20以上ですなあ。でも最初の頃よりは長くもっていまさあ」

揃って溜め息をつく2人とつられて困り顔のトリスさん、そしてさっぱり状況が読めない俺。

……あの銀色の塊って足につける装具の代わりか?左足は踵の塊を外したら徐々に足先が床を向いている。

あれは下垂足か。あれを防ぐには装具とリハビリが重要だが、リハビリは多分十分。

「その塊って何ですか?」

敢えて空気を読まず聞いてみた。視線で「何言ってんだこいつ」が1つ、何を言い出すのかと戦々恐々が1、若干ワクワクしているのが1つ。

抱えた問題が解決できることなら手伝うし、手に余るなら適任者の手へ。

「ああ、そういえばそうでしたね。これは鉄です。ヴァレン、言い忘れていたがマルハシ様は外国の方だ」

「え゛」

「…鉄をやすって踵に…。ヴァレンさん、粘土と箱、それと板と炭を用意してください。作り方と使い方、材料を図に描いて説明します」

信じられないのはこっちだよ、何で鉄をやすった程度で踵の欠損部に突っ込んで装具になると思ったんだ!!そりゃ歩きづらいわけだ!


「まず作り方から説明します。最初に、足型をとります」

箱にみっちり詰め込んだ粘土に足を突っ込んでもらい、左右の足型を採取する。採取する際にどうしても生じる粘土の変形や収縮も計算して、足はそのまま抜かずに小さいナイフで粘土を左右2つに割る。

割った型を元通りに戻し、固定したら水で練った石膏を投入。これが固まれば足型が出来上がる。

出来た足型を参考に、鉄を鋳造するなり鍛造するなりして作れば、今までのように塊を突っ込むよりはフィット感も歩き易さもいいだろう。…今までよく歩けてたな、ほんと。

「固定するには革や布を足の甲で縛るのがいいかと。材質は好きな方で選んで頂けますが、幅広が望ましいですね」

…………ここまで喋っていたが、困った事に誰も反応してくれない。

容量以上に詰め込み、処理落ち(オーバーフロー)させてしまったようだ。うっかり熱弁奮った俺も悪いな。

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