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第3話 手品じゃない。ボディメカニクスだ。

アイザックさんへ自分の仕事を説明したので揃ってしばしクールダウン。

ああ、紅茶が美味しい。

「いい香りの紅茶ですね。気持ちが安らぎます」

「ありがとうございます。実は紅茶を淹れるのが趣味でして」

ほほう。ハマるのも分かる。奥が深いからな。

「……タツキ殿は笑わないので?」

う、何だ。目が怖い。まさか褒めちゃいけなかったのか?ええい、ここはゴリ押しだ。褒められて悪い気分になる奴なんていないもんな!

「何故笑う必要があるのですか?とても美味しいですよ。アイザック殿の淹れ方が上手なんですね」


零れ落ちた水滴は滂沱になった。ついでにおいおい泣くアイザックさんからベアハッグもかまされている。

どうにか無事に脱出できた右手で背中を優しく摩る。……肩がますます湿ってきたがこれ程度我慢だ我慢。


どうにか落ち着いたアイザックさんはすごく気まずそうにしていたが、「気にしてませんよ」とにっこり微笑み返して冷めた紅茶に口をつけた。

あちこちつっかえ口ごもりながら打ち明けてくれた話をまとめると、昔から嫌味やあてこすりを言われたりからかわれた事があり、気にしていたそうだ。

馬鹿なことするもんだ。こんなに美味しいのに。

「アイザック殿、この後お仕事やご来客のご予定は?」

「いいえ、ありませんが、それが何か?」

「ええ、泣き腫らした瞼でお客様とご対面してあらぬ誤解を招くのはまずいですからね。水差しをお借りしますよ」

トートバッグの中を探ってハンドタオルを出す。一応危険物ではないが念のために確認してもらった。

「随分肌触りがいい柔らかい布ですね」「安物ですが丈夫で使い勝手がいいですよ」

「安物…?」「……後で貨幣とか教えてください」


水差しの水で湿らせたタオルで瞼を冷やす。コの字型に配置してあるソファセットは上辺と下辺が3人がけのソファ、縦線の部分が1人がけのソファだったのでちょうど対面の3人がけソファへ追い立て、渋る彼を横にさせた。気付いたら寝息を立てている。疲れているのだろう。そっとしておこう。

起きるまでの暇つぶしにもならないかもしれないが、トートバックから事例研究発表書を出して読み始めた。意外と事例研究書も馬鹿にできない事がある。



そう長くはなかったが、腕時計で確認すると1時間ほど経っていた。

「よく眠れましたか?」「ええ、ありがとうございます」

だがすぐ立つかと思っていた相手は身を起こしたものの、一向に動く気配がない。

「気分はどうですか?もしくはどこか痛みますか?」「いえ、どうも腰が抜けたようです…。お恥ずかしい」

ふむ、だがこれはいい機会だ。

「アイザック殿、少しお手を拝借しますね」


「ななな何をしたんですか?!さっきまで立てなかったのに!」

「簡単ですよ。ボディメカニクス、要はどこをどうすれば体に負担なく介助できるかの技術です」

原理は簡単だ。椅子に腰かけた相手の足を少し引いて、相手にお辞儀してもらいながら手を下から上へ引いたらあら不思議。少しの力で相手を立たせられました、という訳だ。

……俺にとっては珍しくもないんだが、何でここまで興奮しているんだろうこの人…?

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