第27話 顛末と原因
風邪を引いて遅くなりました。
俺の話す案を聞いてサラと一緒に驚いたり笑顔になったりしているベレンガリアには悪いが、そろそろご両親の下へ帰さなくてはいけないので心を鬼にして声をかけた。
「ベレンガリア様、そろそろお戻りになる時間です」
「うぅ…」
少し垂れ気味の目が温厚そうな印象を与えるベレンガリアが、眉をハの字にするだけでも相当に堪える。
「どうしてもご両親がコルセットをしていないとダメだと言うなら、その言葉の裏をかきましょう。ご両親が見ていない隙に緩めてしまえばいいのです」
「でも、ばあやもいますし、大丈夫とは思えないのですが…」
「ええ、ですからこちらはあくまでご両親が説得に応じてくれなかった時の為。説得に応じてくれたら使わずに済みますとも。どうか普段通りにして」
過換気症候群になる人を分析すると、年齢は20代から30代の若い人。
几帳面だったり神経質な人、不安、緊張や強いストレスのかかった時、他にも要素はあるけど大体はこんなところだろうか。
パニック障害や肺疾患の可能性もあるかもしれないが、可能性を1つずつ潰すしかない。
「お待たせ致しました。ムーフォウ男爵様、奥方様、ご説明させて頂きますので中へお入りください」
ドアを開けて、俺ではなくジャクリーンさんが男爵夫妻を室内へ招き入れる。ついでに部屋の前で随分と立たせてしまったアイザックも招き入れて、ドアを閉める。
そういえば、部屋の外で手薬煉引いて話を聞こうと待っている人達がいないのはどういう事なんだろう。
「ああ、部屋の外の方々はロレーヌ様が帰らせていましたよ。渋る相手には個々に対応していました」
ジャクリーンさんが『ローリー』と呼んでいたけど、本当は『ロレーヌ』さんか。
「本日対応させて頂きました、丸橋と申します。旦那様、奥方様、お名前をお願いします」
「マーリーンです。こちらは主人のジルベルト。今代の来賢様にお会いできて光栄ですわ」
浅黒い肌に少し垂れ気味の優しそうな目、ほっそりした体の女性が隣の男性を紹介してくれた。
旦那さんは口を引き結んでむっとした顔のままだ。不信感バリバリだ。
「マーリーン様、ジルベルト様。ベレンガリアお嬢様の倒れた理由は過換気症候群、分かりやすく説明しますと」
「貴様の説明なぞどうでもいい。それで、いつ帰れるのだ?」
いきなり説明をぶったぎられた。いきなりの暴挙に隣のマーリーンさんは目を白黒させている。
「帰ると仰いますと、どちらへ?」
「どちらもこちらもあるか。家に決まっておろう。ベレンガリア、マーリーン、いつまで呆けているつもりだ。…もしや、お前が惚れている男はこいつか?」
おい、そこで矛先が向くのが俺か!?巻き込むにしてもひどいぞこの親父!
「お父様!来賢様に何て事を!」
「お前がそいつに惚れておるからわざと倒れたんだろう?違うのか?」
…あー、まあそういう視点もあるか。だが少しキツく言っておこう。
「よく聞いてくださいジルベルト様。私の故郷では、人と話をする時に決して話題にしてはいけない暗黙の掟があります」
「う、うむ?」
掟は言い過ぎかもしれんが、『宗教』、『政治』、『野球』は振ってはいけない三大話題だというのはビジネス分野を問わず広く知られている。
「大まかな掟では、『人が信じ祈りを捧げる対象を笑ってはならない』、『政の議論はしてはならない』、『球技の話はしてはいけない』です。もしこの掟を破ったらどうなるかというと、死にます。(主に時間と精神と体力が)」
「死ぬ!!?」
全員飛び上がるわ顔色悪くなるわで大騒ぎだが、騒ぎに乗じて追加する。
「ついでに細かい掟となると山ほどありますが、その中でも軽くて重い掟があります。『人の恋路を邪魔するな』です。しかし今は恋路の問題よりも、お嬢様の体調の方が問題です。さあ、椅子にかけてください」
まだ話は終わっていないからな。にっこり笑顔で接しているというのに、ジルベルトさんの顔色はますます悪くなっていく。
どうにかこうにか顔色が悪いジルベルトさんから聞き出した理由は、「娘の将来の為」というまともさ故に性質が悪いものだった。
こちらの世界でもやはり、女性はいい家柄の相手と結婚、出産する事が幸せだと言われている。
嫁と娘に怒られる姿を見ながら、日本では30歳越えても結婚していない男女の方が多いという話をしたらどうなるかと思ったが黙っておいた。
「アイザック、仮に人を宥める時には食べ物を送るといいですよ。美味しいものを食べながら怒る事は出来ないですから」「は、はあ」




