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第22話 一転、二転の次は斜め上

翌朝、すっきり目を覚ましたらちょうど6時。

身支度を整えてから、ロベルタさんの朝の容態の確認と血圧測定に向かう。

隠し階段を上がって、ドアをノックしてから声をかける。

「おはようございます、樹です。朝の血圧測定に来ました。入っても大丈夫でしょうか?」

「まあ来賢様、どうぞお入りください」

「失礼します。おはようございます。よくお休みになれましたか?」

メイドさんが開けてくれたので挨拶し笑顔で尋ねると、「ええ、ぐっすり眠れました。それに髪も肌も調子が良くて」と、嬉しくてたまらないという表情だ。しきりにサラサラの髪や顔に触れては微笑んでいる。

「喜んで頂いて嬉しいです」

俺もつられて笑顔になり、終始和やかな雰囲気で血圧測定と脈拍、顔色などを確認し、記入していく。


隠し階段から出て、時間を見るとそろそろ朝食の時間だ。廊下を進んでいると、近くからサラの声が聞こえた。

「もう!今日の髪は特に決まらないわ。せっかく綺麗になったのに…」

女の子は髪の毛とお化粧、それに服が決まらないとその日1日が憂鬱だよな。

部屋から頬を可愛らしく膨らませて出てきたサラへ挨拶する。

「サラさん、おはようございます。綺麗な髪ですね」

すげぇ、天使の輪が出来てる。初めて見た。

「まあ、来賢様!おはようございます!うふふ、ありがとうございます」

つい数秒前まで頬を膨らませていたのがころっとご機嫌になり、淡褐色の瞳を輝かせて喜ぶサラの後ろに、年嵩の女性が追いついた。厳しそうな顔立ちの彼女が声をかける。

「サラ様、まだ髪が結い終わっておりませんよ。今日は外出なさるのですから、髪もしっかり整えませんと」

「へえ、よければどこへ行くのか聞いてもいいですか?」

「今日はお母様と一緒にサルーンへ参ります」

好奇心から聞いてみたが、今思えば聞くんじゃなかった。

人脈やコネを築くことが出来たので完全にマイナスではないが、それでも大変な目に遭った。…こっちに来てから大変な事ばかりだ。


「来賢様、サラから聞きましたがサルーンにご興味があるようですね?」

朝食後、にこにこと微笑んだジャクリーンさんに引きとめられた。

「もしかして、誰かと引き合わせるご予定でしたか?」

「ええ、色々と興味深い人もおりますし、一度お会いしたいと仰る方が多いものですから」

率直に言うと、勘弁してくれ。どうにか「心細いので」と非番だったアイザックも同席させてもらい、馬車に乗せられた。玄関に着くまでに謝ったが「大丈夫ですよ」と微笑まれて、ますます罪悪感を感じる。

行きの馬車の中で、窓際にアイザック、真ん中に俺、隣にサラ。俺の前にはジャクリーンさん、その右隣にはサラ専属の侍女が同乗した。

「馬車に乗る時に一番上位の人はここだという、席順とかありますか?」

「まあ、よくご存じですね。ええ、勿論あります。あなたが今座っている位置が、一番上位の人が座る場所です」と言われた。……もう冗談半分で物を聞くのはやめよう。



胃が痛い馬車でのドライブは、王城に近いバラン家より更に広大な門構えを通り、大きい車回しで馬車が止まった。

先にアイザックと侍女が降りてから馬車のドアが開き、サラ、ジャクリーンさん、最後に俺の順で降りる。

玄関を入ってすぐに声をかけてきたのは、ジャクリーンさんより年上なのか、灰色の髪を結い上げて落ち着いた色味のドレスを着た女性だ。恐らくこのサルーンの女主人だろう。

「まあジャクリーン、よく来てくれたわね。サラさんもますます綺麗になって。アイザックも元気そうね。それに、そちらは噂の来賢様。ようこそいらっしゃいました」

「はじめまして。丸橋と申します」

頼むから視線で舌なめずりせんでくれ。いや、琥珀色の目が怖いこと怖いこと。

内心縮み上がりながら無難に挨拶して、「こちらへ」と誘導されていく途中だが、もう鼻ではなく口で呼吸する羽目になっている。

人いきれに数多の香水の香りが筆舌尽くしがたい威力で鼻の粘膜を攻撃してくる。油断すると涙が出そう。

「ジャクリーン、今日はいつもとは違うようだけど、何か変えた?お化粧?香水?」

「まあローリー、そう焦らないで。少し風通しのいい所で話したいの」

琥珀色の目が数秒じっと睨み、「だったらこっちね」と別の場所へ異動した。


庭の東屋に案内され、繊細な絵付けのティーカップで紅茶が供される。

「ローリー、さっきの答えだけど、石鹸と酢よ。石鹸でよく体と髪を洗って、仕上げに髪を酢で」

「冗談でしょう?!」

冷静そうなローリーが声を荒げた。そんなに信じられないのか。そんなんじゃ日本で生きていけないぞ。

「でも事実よ。それに、これを教えてくれたのは来賢様なの」

「普通なら正気の沙汰じゃないと考えますよね。もし私がジャクリーンさんやローリーさんの立場なら、『この人、頭おかしいのかしら』って勿論思います。ああ、今の目です」

にっこり微笑んだが、随分怯えたような目で見られた気がする。



またも現代知識で盛大にぶん殴ってしまったが、ローリーさんの去り際にこう付け足した。

「来賢の意見だとて、一朝一夕で受け入れられないのは私も承知の上です。こちらの国独自の考え方や風習もありますから、その上で申し上げます。

ゆっくりで構わないので、この知識を広めてください。もし関連事業などで利益が出たなら、そちらが適切だと思う価格をつけてください。私は商売は全く分からないのでお任せします」

最悪手の丸投げだと言われるかもしれないが、俺の知った事じゃない。もしごっそり中抜きされたら、そういう相手だというだけで落ち込みはするが、次を探す。それだけだ。

東屋でぐったりしていたのは俺だけじゃなかった。全員が口を揃えて「悪臭地獄」としか言わなかった辺り、疲労度が伺える。

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