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第18話 見かけと中身

バラン家に戻ると客用寝室にアイザックを招き入れて「大事な話」を聞く態勢をとる。

「それで、どんなお話ですか?」

「先程絡んできた男についてですが、その前に確認したい事が。身体に触られませんでしたか?それと、男装とはどういう事です?」

さっきの男はそんな警戒する程に女癖が酷いのか。でも咄嗟に型紙集でブン殴らなくて良かった。手持ちが1000万単位の金貨しか持ってなかったから、本屋もこっちも困るどころじゃなかったな。

「全くないです。アイザックのおかげですよ。しかし、男装については私もさっぱりです。正真正銘男だというのに困ったものですね」

色白で役得だった事なんて、俺が覚えている限りない。精々が会話の弾まない時に女性から羨まれる程度で。

「………男?」

おい、そんなにショックか。これくらいの顔なら日本には相当数がいるぞ。

「では、髪をこのように短くした女性というのはこちらにはおられますか?日本ではさほど珍しくはありませんでしたが」

「私は女性の身の回りの事に関してはあまり詳しくはないですが、そう言われてみれば貴族でも農民でも、髪の短い女性は見かけた事がないですな」

やっぱりな。女性が髪を切るのは割と最近の年代だとか何とか聞いた覚えがあった。それまでは長く伸ばしてたし、複雑に結っていたとか何とか。…衛生的に色々言いたいけど黙っておこう。

「髪もそうですし、喉仏だってあるのに。ほら」

喉がよく見えるように、襟元のスカーフを少し緩めて顎を少し持ち上げる。

「確かに。ではあやつめ何を考えて…?」

「ちょっと待ってください。先程の方をご存知なんですか?」

そして何やら窓がガタガタうるさい。

「……窓の害虫駆除してから続きをお願いします」

「投降しますから命まではとらないで!!」

チッ。



窓をガタガタいわせていた相手はさっきの男だが、赤褐色の髪に灰緑の瞳、すらりとした細身に整った細面。好色そうな笑顔が引っ込むだけでもそこそこ見られた男だと思う。口さえ開かなければ。

「お名前をお聞かせ頂けませんか?それとも御髪の色から『黒繻子の君』とでもお呼びした方が?

僕はオーガスタス・ジェームズ・カムデンです。いやぁ、美しい女性が男装していらっしゃると思ってふらふら近寄ったらザックが背後に立ってて死ぬかと思いました!あっはっは!」

「お前が見誤るとは珍しいな。こちらの方は残念だが男性だ」

「は?いやいや冗談でしょ、ザック。こんな美人が男性だなんて、ちょっと君ったらいつからそんな冗談」

「まずは眼科へ行かれる事をお勧めします」

多少なりとも解剖学をかじっていれば、男性は肩幅広くて腰狭い、女性は肩幅狭くて腰広いと区別つくぞ。衣装や化粧、歩き方や仕草とか本気で誤魔化されたら分からんけどな。あと口説くな。鳥肌が立った。

顎を少し上げて喉仏を示すと相手は形容しがたい短い悲鳴を上げてのけぞった。


「ひどい…あんまりだ」

何故か横座りして顔を覆っているカムデンを放置して話を聞く。

この男、近衛兵の副隊長で元同僚だという。名うての女泣かせだが従騎士時代から不思議と馬が合い、片方が昇進して近衛兵、もう片方は騎士になっても年に1回は酒を酌み交わす親友だそうだ。

「女泣かせと言うが、それは違うぞ。僕はまず相手を選ぶし、そして交際は情報収集も兼ねてる。女性達の情報収集能力は素晴らしいね」

「とりあえず、刺されたら安全に手当て出来るまでナイフや刃物は抜かないでくださいね。下手すると血を流しすぎて死にますから」

「止めて怖い!!」

別れ話が拗れたり何だかんだあった時の為に忠告したらドン引きされた。絶対知っておくべきだと思うのに。



「それはそうと、来勇様達の方が若くて可愛いですからあちらを構ってきては?」

「あー、あっちはあっちで熾烈でした。女性1人に5人10人が鎬削ってましたよ。男性には女性が3、4人がかりだったかな。それに俺、子供は守備範囲外です」

地獄か。やっぱり王城から逃げてよかった。

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