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第17話 文字

ヒルさんが先導し、城下町の中央、商店や露店で賑わう大通りの一角の建物の前まで来た。

「俺のを両替するついでにあんたのもやってくるよ、マルハシ。時間はかかるだろうから、そこらを適当にブラブラしてな。終わったら追いつくから遠くに行くんじゃないぞ」

俺の手持ちの1枚と渡した1枚、都合2枚のセラトニア金貨を携えたヒルさんに送り出される。

そういえばこっちの字も覚えなきゃいけないよな。さすがにいつまでもバラン家におんぶにだっこという訳にもいかないし、カルテや記録で情報共有できないのは痛手だ。

象形文字のような字の書いてある看板を見上げながら、まずは本屋に目標を定めた。

日本でいう幼児向けドリルは望めないかもしれないが、さすがに絵本の類いはあるだろう。


一番手近な本屋は、明り取りの窓も小さい上にところどころにランプが置かれて独特な雰囲気をしていた。

「ごめんください」と挨拶しながら入って、続く足音がないので振り向いた。

「アイザック、どうしたんですか?」

「いえ、度胸があるんだなと。それで、どんな本を探しているんです?」

本屋、と聞くと大きい声で話すのは憚られるので少し屈んでもらって耳元に囁く。

「子供向き、と言いたいところですが、ここは専門書のお店なので少し見て行きます」

囁いたらビクッとしたけど、耳が弱かったんだろうか。だったら悪いことしたな。


今は大判の美術書のような本をぱらぱらとめくっているが、描かれている絵はどこかで見たような、そうでもないような違和感がある。俺が今見ているのは壁紙の図案集だが、どことなくウィリアム・モリスを彷彿とさせる。

「そちらの本がお好きですか、男装の美しいお嬢さん?」

二枚目な顔と洒落た服だが、好色そうな笑顔が台無しにしている若い男が近づいてきたが、ちょっと待て、今こいつは俺の事を何だって?

「何か御用でしょうか?」

声をかけてきた若い男の背後に立ち塞がるアイザック。普段より顔が怖いが、今回ばかりは止めないぞ。

「そうね。他にも見たい本があるから、少し外で男同士『楽しくお話し』してきたら?ここで待ってるわ」

襟首を掴まれ青い顔になっている男を引っ立てて近くの路地の奥へ消える2人へ、にっこり微笑んで見送ると、ほぼすれ違いでヒルさんが歩いてきた。

「悪りぃ、待たせたな。ん?バランはどうした。いっつもあんたの後ろにいるのに」

「ちょっと近くで立ち話です。ああ噂をすれば、おかえりなさいアイザック。怪我はないですか?」

「ただいま戻りました。勿論無事です。それと後で少しお耳に入れたい事が。ヒル殿もおかえりなさい」

「おう。そういや市場には行ったか?まだ?よし。案内するぜ」

にやっと笑って先導するヒルさんがあちこちで買い物する後ろをついて行く。すれ違う人が全員俺の後ろをギョッとした顔で二度見するのは慣れで無視。

「賑やかでいい市場ですね」

「戦前だからかもな。ちょっと前はもっと大人しかったと思うぞ」

確かに戦前なら穀物や保存食の買占めに伴う供給増で好景気かもしれない。

知識があれば食糧供給と需要の安定性とかできるだろうけど、相当難しいだろう。でも知識目当てに暗殺されるのはもっと冗談じゃない。

顔は笑顔、心は下降状態でバラン家に戻った。

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