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第16話 ツケとお支払い

熱意と迫力たっぷりの訓練が終わった後、至急仕上げるような書類もなかったのでバラン家に戻ることにした。

厩舎に向かって廊下を歩いていると、向こうの曲がり角からのっしのっしと歩いてきたのはヒルさんだ。

歩幅と歩き方、それにイライラして牙を剥きそうな顔をしていたので本当は話しかけない方がいいが、辺境伯を匿ってもらった借りがある。

「ヒルさん!」

日本でのお伺いの常套句「今、大丈夫ですか」も何も言えないうちにすごい力で襟首を掴まれて空き部屋に引っ張りこまれた。



「手荒にして悪かったな。で、用があったから俺を呼んだんだろ?」

「ええ。この間のお支払いがありまして。あの小振りな銅板細工ですよ!」

誰が聞いているか分からないから部屋へ引っ張り込んだんだろう、俺も何とかアドリブで対応する。

「銅板」で先代辺境伯の髪の色をあてはめてみたが、通じるだろうか。

「あれ気に入ったのか?そいつはよかった。で、物は試しなんだが、あんたはアレに幾ら出す?」

何となく合わせてくれたのでちょっと安心したらこれだよ。

「そう聞かれても、私はこちらに来たばかりですし」

「よし言い直そう。相場はどうでもいい。あんたの気持ちだ」

一応すっとぼけてみたが効かなかったようだ。じゃあ仕方ない。

貰った支度金の一部、1万セラトニア金貨の入った袋から数枚の金貨を掴みだした。3、4、5枚。

「ではこれで足りますか?」

笑顔で差し出したというのに嫌そうな顔をして髪を荒っぽく掻き毟った。

「あー、あんたが世事に疎い来賢だとしてもこれはねえだろ。セラトニア金貨1枚でどんだけ買えるか聞かされなかったのか?おい騎士殿、過保護も程々にしとけよ。俺じゃなかったらひっくり返ってたぜ」

「おや、ヒル殿がそんなにヤワだとは過分にして存じ上げず失礼を」

「ケッ、白々しい。仕方ねえから教えてやるよ」

ヒルさんは腰のポーチから5つの袋を出してテーブルへ並べる。

「よし、説明するぞ。左端から半銅貨、銅貨、銀貨、金貨、セラトニア金貨だ。

半銅貨10枚で1銅貨、銅貨10枚で1銀貨、銀貨10枚で1金貨、金貨1000枚でセラトニア金貨1枚。ここまではいいか?」

半銅貨が日本で言う10円だとして、セラトニア金貨1枚で……1000万?!

懐に入れていた布袋が総額でぞっとする価値だと自覚して、一瞬身震いした。強盗とか遭わなくて良かった!アイザックのおかげだ。

いやいやいや引き下がるな俺。手持ちがそれしかないんだし、ここには銀行だってあるのか分からないんだ。

「セラトニア金貨となると金額がデカいから、殆ど土地や家屋売買でしかお目にかかれないな。金貨までなら何とか中央の商店通りで使えるが、それだって相当な量の買い物だぞ。ドレスを扱っている店なら金貨が余裕で飛ぶらしい」

「女性のお洒落にはお金がかかりますからね」

うんうん、仕方ない。ミシンなんてないから全部手縫いだし、レースやリボン、刺繍に宝石なんかついたらどんどんお金も飛ぶよな。お店はお針子さんにもお金払わないといけないし、そりゃ納得だ。

「でもありすぎて困る訳じゃないですよね?船の事はさっぱりですが色々必要な経費もあるでしょうし、どうぞ納めてください」

ごく単純な反論にぐっと言葉に詰まったヒルさんだが、最終的には嫌そうな顔をしながらセラトニア金貨を1枚だけ受け取ってくれた。

…あとは銀行の場所を教えてください。おちおち買い物にも行けない。

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