第11話 家族とサラダとアレルギー
今回は医療用語が多いです。
食べ物に関してアレルギーのある人へ、原因となる野菜や果物、穀物などを強要して食べさせることは絶対にしないでください。
アイザックさんの家はそこそこ大きい屋敷だった。騎士でこれくらいだとしたら、古参貴族なんてどれだけでかい家なんだが想像つかない。
厩舎でジョージの鞍を下ろしたら厩番の人へ後を頼み、玄関へ向かう。
「ただいま戻りました」
「兄様おかえりなさい!」
「兄さんおかえり!」
正面玄関のドアを開けたら、2階へ続く階段から美少女と美少年が駆け下りてきてアイザックさんへ飛びついた。
薔薇色の頬に輝く瞳の美少女は濃い茶色の肩まで届く長さの髪をハーフアップにして、華やかな色味に可愛らしいリボンとレースがあしらわれたドレスを着ている。
同じ色の長い髪を後ろで一纏めにした美少年は生成り色のシャツにベスト、黒いズボンをはいている。
「ただいま、サラ、コンスタンス。父上と母上はまだ起きておられるかな?今日はこちらのお客様をお連れしたんだ。こちらのマルハシ殿は今代の来賢様だ。ご挨拶を」
「はじめまして、丸橋 樹と申します。どうぞよろしくお願いします」
「私はサラ・バランです」「僕はコンスタンス・バラン」
美少女がサラ、美少年がコンスタンスというそうだ。
「さあ、父上と母上にお知らせしてきてくれ」
「はぁい、行ってきます!」「待ってよサラ!」
素早く駆け出したサラの後をコンスタンスが慌てて追いかけていき、軽やかな足音が消えると玄関ホールは静かになった。
「賑やかでいいですね」
「元気なのはいいですが、悪戯好きで乳母や侍女がヒヤヒヤする事もあるそうです。さあ、こちらへ」
手燭片手に案内された先は、優に30畳はあるかなり広い部屋だ。
暖炉近くの椅子とソファに座っていた、フロックコートを着た男性と装飾が控えめなドレスを着た女性が立ち上がる。
濃い茶色の髪だが鬢に白髪が目立つ男性は右手で杖をついているが、すっと伸びた背筋や威厳ある顔立ちに背筋が伸びる思いがする。
ふっくらした顔立ちの女性は穏やかさを感じさせ、目がはっとする程美しい緑色をしている。アイザックさんの目はお母さん譲りか。
「父上、母上、サラとコンスタンスから聞いたと思いますがこちらの方が今代の来賢殿、マルハシ殿です」
紹介されて、夜遅くに急な訪問になって申し訳ないと伝えた。
「ほう、来賢殿か。遠路はるばるよういらっしゃった。我が家にお迎えできて光栄です。家長のアレクサンダーと申します。こちらは妻のジャクリーンです」
「ジャクリーンです。来賢様、お食事はお済みですか?もしまだでしたらご一緒にいかがですか」
「ありがとうございます。是非ご一緒させてください」
いやあ、王城でドタバタしてた時は気づかなかったけど、気付いたらお腹ぺこぺこでした。
先ほど通されたのは居間で、今度は食堂に案内された。居間も広かったが食堂も広いね!ちょっと落ち着かない。
食事をしながらアレクサンダーさんに出身地やどんな職業なのか、はたまたこの都市の印象など聞かれこちらも答えていたが、ふとサラがサラダに手をつけていないのが目に入った。
「サラ、どうしたんだ?体調が悪いのか?」
「サラダ、食べたくないです」
ん?このサラダに何か苦手な物が入っているのか?
「どういう事だ」
「その、サラダを食べると身体が変になるんです」
泣きそうな顔の彼女の訴え。…どうする、問診してみるか?
「ふうむ。私は何ともないが。ジャクリーンはどうだ?」
「いいえ、私も」
残るアイザックさんとコンスタンスも首を横に振る。
「失礼します。サラさん、このサラダのどの野菜を食べるとどう変なのか、お話し頂けますか?」
もしかしたら助けになれるかもしれない。万が一助けになれなかった場合でも、対処法は教えられる可能性だってある。
「ええと、キュウリを食べると喉の奥が痒くなります。それに顔がむくんでしまって困ってます。あの、どうしてそんな事をお聞きになるんですか?」
家族中の視線が「どういう事だ」と俺に集中する。
「私は医術に携わる仕事に従事しています。あなたの症状については心当たりがあります。キュウリの他に、果物で同じような状態になった事はありませんか?」
「は、はい!あります!」
「タツキ殿、先ほどから何をおっしゃっているのか教えて頂けますか?妹には何があるのです?」
焦れたアイザックさんからも問いかけられたので答えを提示する。
「サラさんはバラ科アレルギーです」
……全員、見事にポカーン顔だ。無理もない。
「要は、特定の野菜や果物を食べると気分が悪くなったり、息が苦しくなったりと色々な症状が現れる事です。喉の奥が痒くなる、顔がむくむのも症状の一環です」
ざっくり噛み砕くとこうなる。免疫細胞やら交差反応を説明しても現代の医療系ならいざ知らず、中世か近世っぽい異世界では絶対分からないだろうし。
「対処法としては、キュウリを食べる時は加熱する、もしくはキュウリを食べない事です」
「そんな簡単な方法でいいんですか?瀉血などはしなくても構わないので?」
「アレルギーは瀉血をしても解決しないのです」
ああ、やっぱりこの異世界でもあるんだ、瀉血。あれは多血症にも効果あるって聞くけど、あくまで対症療法だ。根本的な治療じゃない。
いかん、せっかくの団欒の時間が台無しになってしまった。
「失礼しました。お食事の時間に変な話をしてしまって」
ああ、無言がキツい。




