第1話 これ、どうするよ?
序文
「男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり」
この序文を聞いて正解がわかった人は古典の授業をさぞ熱心に聞いておられただろう。正解おめでとう。ボタン連打しても賞品もファンファーレも鳴らないが。
近くには喜色満面で跳ねまわり、「異世界召喚キター!」などとガッツポーズして三々五々群れている青少年達がいる。ざっと数えた限り、30人ほどはいる。
制服は仕事場近くの有名な私立高校のものだ。同僚の誰だったか、子供が制服目当てで志望校に記入していたと聞いた覚えがある。
「ええと、あなたは…?」
恐る恐る声をかけてきた近くの女子高生たちに努めて優しい声を返した。同僚がいたら「猫なで声」などと言うだろうが、生憎俺は犬派であり、鳥派でもある。
「丸橋樹だ。君たちは〇〇高校の生徒さんだね?よければ、どういう状況なのかお互い擦り合わせしたいんだが、どうかな?」
「は、はい。あたしは山城道子で、こっちは吉舎明です。確か、クラスのレクレーションでバスに乗って…」
山城さんが仲介してくれた吉舎さんは言葉少なに挨拶しただけだが、まだ挨拶してくれるだけ可愛いし素直なもんだ。
状況をまとめると、彼女たちはレクレーションで少し遠方の水族館に行く道中だったそうだ。
一方、召喚した側の国では飢饉に疫病、戦争に継ぐ戦争と疲弊していたが、ここで国を挙げての大儀式で一挙に巻き返しを図ったそうだ。説明をきらきら輝いた目で聞く青少年達を置いて部外者はとっとと逃げさせてもらおう。
白状、卑怯と言うなかれ。