存在
「リサ。」
「なに?」
「私は、変な人だと言われました。」
「へっ。」
「私は変な人なのでしょうか?」
「そんなこと、ない」と思うけどな、と、リサはつぶやく。
少しの間を挟み、彼女は言った。
「いつもよりも、不自然な間が文章中に挟まれました。リサ自身も私とは目を合わせず、呼吸が先ほどに比べ不規則になっています。脈拍は80/mから95/mへと上がり、明らかな緊張状態だとリサの状態を把握します。よってリサのさきほどの、『そんなことない』は信憑性がないものと考えます。」
「どうして、そこだけそんなに細かいのよ!」
「話をずらさないでください。」と、彼女はリサに詰め寄った。
「私は傷ついているのですよ?」
リサは、何度かまばたきをする。
「そうなの?」
彼女はその言葉を聞き、身を引き、考えるそぶりをした。
「……ショックを受けている? ……ヘコんでいる? ……落ち込んでいる?」
と、いつもの様子の彼女にリサはおずおずと聞く。
「そうなの?」
リサにはそう見えていなかったために、素直な質問であった。
「……」
その言葉を聞いた彼女は考えるのをやめると、口を開いた。
「人は、このような状況になると、そのような反応をするものではないのでしょうか?」
リサは黙って聞いていた。
「正直な所、私たちには感情面では人の表現力にはかなりのところ劣っています。それはデータとして現れ、事実、私たちを取り巻く人々の反応はあまり芳しくありません。中には、あからさまな嫌悪感や敵意に似た態度や仕草を送ってくる人もいます。」
「……」リサは何も言えなかった。
「……話を戻しますが。」
「……!」
「私が変な人に見られるということは、同一の遺伝子であるリサ自身も変な人に見られていることだと、私は考えます。」
「……ちょっと待って!」
リサが慌てるが、彼女は躊躇なく続ける。
「メラビアンの法則からも分かるように、人への印象は見た目の7割が占めています。つまり、私が変な人、イコール、リサも変な人、こうなる可能性はとても高いものかと。
「ちょっと待ってよ! 私は変な人じゃないもん!」
彼女はその言葉を聞くと、嘆息し、頭を横に振った後にリサをじっと見つめた。
「変な人はみな、自分がへんではないといいます。犯罪者にあなたは犯罪者ですかと聞くのと同じです。そうですね、もう一度聞いて見ましょう。リサは、変な人ですか?」
リサは勢いよく答えた。
「そうそう! 私すっごく変な人なの、何もかも変で、普通なところがないくら……」
そこまで言って、リサはハッとした。リサを見つめる彼女は悲しそうな面持ちだった。
「そうなのですね、リサは変な人だったのですか……」
リサはそこで気がついた。
「酷い、これは誘導尋問だ!」
「……いいえ、ただ私が変な人ですか? と聞いて、リサが変な人です、と答えただけですので」
リサは、うーと唸る。
「意地悪!」
それを聞いて、きょとんとした彼女は、少し考えた。
「そうですね。そうかもしれません。ですが、……」
「……?」
「これで、リサとわたしたちは同じですね」
そう答える、彼女はどこか安心したように呟き、それを見ていたリサは、なんと答えればいいのかわからなくなり、ふんっと、照れ隠しから鼻を鳴らしたのだった。
会話も落ち着き、リサはいつものように彼女に聞いていた。
「ねえ……」
「窓の外ですか?」
「……ううん。」
いつもと様子の違うリサに、彼女が首をかしげる。
「リサ、……どうしたのですか?」
「……あのさ」
「はい」
「お父さん、いつになったら来てくれるのかな?」