重さ
「ねえ、ヘレナ」
「はい、何でしょうか?」
「つまらないから、何か話して」
「そうですね、では、リサは命の重さを知っていますか?」
「何物にも変えられないとか、地球より重いとか、そういうの?」
「いいえ、違います」と、ヘレナはリサの前で確かめるように話し始めた。
「昔ある実験が行われたらしいのです。人が生きているときと亡くなられたあとでそれぞれ重さを調べたらという。結果は、亡くなられたとき、体重が少しだけ軽くなったとか。これが俗に言う命とか魂の重さなどと言うものなのです」
リサは息を飲む。とても驚いていたのだ。
「……ですが、この実験自体が怪しげなものらしく、方法や使っていた道具、また倫理的な問題によって、信憑性もほとんど無いものになっています」
そして、リサの前でヘレナは少し黙った後に、続けた。
「ただ、私がそこから推測したことは、人の意識や魂と言った目に見えないものにも重さがあると思いたかった人たちがいる、ということです」
リサは、黙って聞いていた。
「二十一グラム」
「何?」
「今言った重さが、命の重さです」
リサは確かめるように口の中で繰り返した。
「二十一グラム……」
「もし私が私でなくなるとき、私の重さは変わるのですか? それとも、変わらないのでしょうか?」
「……」
リサは、何か言おうと口を開いたが、吐いた息が声になることはなかった。
私は、病室の窓の外を見ていた。今は自分で起き上がれないリサに近づき私は口を開く。
「二十一グラム」
「何?」
「命の重さです」
「ああ、そう言えば、昔そういう話をしたことがあったわね」
「ええ、ヘレナは命の重さは二十一グラムであると言いました」
「どうして、今その話をするの?」
「……リサについて、私には納得できないことがあります」
「……」
「命の重さを測ろうとしてまで、そこに何かあるという実感を持つために重さというものは必要不可欠なはずです。それなのに、どうしてリサはあのときやあのときやあのときや、そして今も枕の下に隠している雑誌のダイエットのページを何度も読み返しているのですか?」
そう言って、私はリサに詰め寄った。私には理解できません、と。
リサは、驚いた後、すぐに顔を赤くして、目を逸らし、呟いた。
意地悪、と。
空気を入れ替えようと病室の窓に近づく。
窓側にたった私に、リサは問いかける。「ねえ、今日の窓の外はどんな景色?」
そうですね、と窓を開けながら私は答えた。風がベッドを囲むカーテンを優しく揺らした。
「やや南よりの柔らかな風が優しく吹き抜け、空は雲一つない真っ青な快晴。木々はとても青々としていて、とても過ごしやすい日ですよ」
「……私の体を起こして、見せて」
「ダメです。」
「どうして?」
「今無理すると、あなたが自分で起き上がれる日が遠ざかってしまうからです。」
「意地悪」
「そういうリサの方こそ私に意地悪ですよ。私は一緒に見られるその日まで、ここにいますから、慌てず焦らないでください」
ぷいっとそっぽを向いたリサは呟く。
「約束だからね。」
「はい、約束です。」
そう言って、私は笑顔で答えた。