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逃げた彼女と、ヒモになった僕  作者: 縁藤だいず
6章 元夕霞中生の夏休み
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6-15 第二……第一ボタンについて


「理由? んなもん決まってるでしょ、アンタがトッシ~に惚れてたから。以上、終了、キュ~イ~ディ~」


 華暖がラップみたいな口調でバッサリ切り捨てる。


「だからそれはさっき違うって言ったでしょ」


「それ以外になんの理由があんのよ!?」


「それがわからないから困ってるんじゃない」


「そんなの知らないわよっ!」


 華暖は拳の血管を浮き上がらせてワナワナと震えている、なにをそんなに怒っているのか理解できない。


「あ、間違えたわ。これは第一ボタンだった」


「なあんだ、そっかあ♪ って、どっちでも同じようなもんでしょ!」


「で、なんで私、纏場にボタンをもらったのだと思う?」


「知らないわよ! アンタが自分で分からないことが、アタシに分かるわけないでしょ!」


「そうね、でもこのことを急を要するの」


「なんでよ!?」


「強いて言うなら、女の勘」


「バッカじゃないの!」


「そうね、馬鹿だと思うわ。でも……本気なの」


 この理由がわからないと、多分……だけど纏場と優佳さんは上手く行かない。


 理屈じゃないんだ、理由がわかったから解決できる糸口になるわけでもない。でもこれは”そういうもの”だった。


 ただ私は今更になって気になったことを、あたかも重大なことだと勘違いしているだけかもしれない。でも答えは付きとめなければいけない、自然とそう思えた。


「まあ、エーコがそこまで真剣に言うなら、わかったわよ」


「ほんと? ありがとう」


「い~のよ、どうせ今日はもうヒマだし」


 華暖がそう言って気だるげな様子で軽く笑う、なんだかんだで付き合いがいい。


「じゃあ仮定するわね。華暖がどうでもいいと思ってる男の人に、なぜか第二ボタンを欲しいと言ってしまった。その理由はなんだと思う?」


「このオトコとなら寝てもいいと思ったから」


 鼻水を噴き出した。


「……あなた、ホントにキャラにブレがないのね」


「ふふ~ん、だってそれくらいしか思いつかなかったから」


 華暖は唇に人差し指を当て、目を薄く閉じ蠱惑的な笑みを浮かべる。


「男の人に対して、そう言う感情しか思い浮かべられないの?」


「ん~だって急にオトコって言われてもねえ」


「じゃあ仮に女の人に言ってしまったら?」


「ん~女かあ、憧れの先輩。う~ん、なんか同性愛みたいな図しか思い浮かばないなあ」


「ほら、格好いいと思ってる年上の女の人とか、一人くらいいないの?」


「ん~いないことは無いけど……あの人だったら、そういうスキとは別だけど?」


 誰のことか分からないけれど、華暖の頭にはそれらしき人が思い浮かべられているようだ。


「そう、その人! もしなにかのはずみで第二ボタン下さいって言ってしまった、その時の気持ち!」


「大喜利かよ、ちょっと待って」


 華暖がう~んと腕を組みながら考え始める。


「……って、もう半分答え出てない?」


「どういうこと?」


「だってその先輩は、憧れの先輩じゃん? 憧れてるって好意があんだよね? そしたらその人のモノを取っておきたいって思うのは、別に普通の感情だと思うけど」


 あっけらかんと華暖が口にする。


「だからその気持ちを分解してみて」


「いや好意の種類が憧れなんだからもう分解できてるじゃん、なにそんな難しく考えてんの?」


「だってそしたら私が纏場に好意を持ってるってことになるじゃない」


「そうでしょ? エーコ、トッシ~のことキライなの?」


「嫌いじゃ、ないわよ……」


「じゃあ好き?」


「……惚れてはいないけどね?」


「もうそれはわかってる。でアンタは好意はあるけど惚れてはいない、それでいいんじゃない?」


「本当に?」


「アンタの欲しい答えがわからないんだから、アタシにはわかんないわよ。ただそれで完結していいんじゃないって思ったから、そう言ってるだけ」


 本当にそうなのだろうか? 纏場のことは嫌いじゃない、いや好きなんだと思う。それはもちろん友達として。

 ただそれを素直に認めるのが恥ずかしくて、こうやって回りくどく考えているだけなのだろうか。


「私は、纏場のことが好き」


「え……なに?」


 華暖がいぶかしげな眼で私を見る。


「私が友達として好きだと思うことに照れてるから、複雑に考えてるのかなって。だから声に出してみた」


「……アンタも相当、変わりものね」


「言わないでよ」


 さすがにいまのは恥ずかしかった。


「で、言ってみた感想は?」


「少しは恥ずかしかったけど、別に恥じることもないかなって」


「じゃあ、それでスッキリ解決?」


「……いえ、やっぱり私が纏場に好意を持ってることとは、関係ないんだと思う」


 そう、やっぱり違う。私は纏場に好意があるからボタンをもらったのではない。そこにはなにか別の理由が介在している。強いて言えば纏場すら関係ない別の理由が。


「なによぉ~めんどくさいわねえ」


「華暖には悪いとは思うわ、けどこれはハッキリさせなきゃいけないことだと思うの」


「こだわるわね」


「過去を全部清算する、いい機会だと思って」


「じゃあ逆に質問しま~す」


「なによ?」


「その相手がトッシ~じゃなかったとして! 仮にあんたの言うような憧れの先輩だった場合、第二ボタンを求める理由ってなんだと思う?」


 私はドキッとした、だって憧れの先輩って言ったら傑さんくらいしか……


「あ、もち私と同じ条件でオンナの先輩ね」


「……そしたら優佳さんしかいない」


「そ。だったらユ~カさんにボタンをネダった理由ってなんだと思う?」


「そんなの大好きな、憧れの先輩だからに決まってるでしょ」


 華暖が舌打ちをする。


「……アタシにはなんだかんだ注文付けて、自分の時はそう言い切るってアンタ何様のつもり?」


「じ、冗談よ」


 マズイ、今のは本気で怒ってた……少し真剣に考えてみよう。


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