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逃げた彼女と、ヒモになった僕  作者: 縁藤だいず
4章 五年前――思い出になる前の、記憶
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4-18 また会う日まで


 二階堂から聞かされた話は、おおよそ僕の理解を超えていた。

 だってそうだろう?僕個人という存在が、自分の預かり知らぬところで事件の鍵になっていたんだから。


 ドラマやマンガの世界が、現実に流れ込んできている。

 当事者意識など、これっぽっちも持つことができなかった。


 ……けれど、この件で二階堂を責めようという気持ちは起こらなかった。

 もし昨日、この話を聞かされていたら、僕は怒り狂っていたかもしれない。


 だって僕の記憶に新しいのは、精神的に弱っていた時、二階堂が僕を庇ってくれたこと。

 その時、一番辛かった時に支えになってくれたこと、それが頭から離れないのである。


 当然、こんな事で情状酌量の余地があるはずもない。

 二階堂が僕を庇った事なんて所詮マッチポンプ、自作自演の理に適わないこと。


 ……ただそれでも僕は心から怒ることができなかった。

 二階堂に助けられたという意識、人間臭い部分を見せられて、すっかり毒気が抜かれてしまっていた。


 でも、これでよかったとも思う。

 だって僕が二階堂に逆上したら、お互いのマイナスにしかならないと思ったから。


 だからいまはこれでいい。

 正常な判断が出来ない麻痺した思考に、体を預けてもいい。そう思えた。


「それで、副会長はこれからどうするんですか……?」


 全てを吐き出し終え、憔悴し切った二階堂に声をかける。


「……当然、職員室に全額を持っていって、全てを話し、頭を下げるさ」


 苦笑を浮かべ、色彩を失った瞳でそう口にする。


 二階堂は有為多望な模範的な生徒だった。

 話に聞けば冬休みには海外留学もすると聞いている。


 そして今回の事が表沙汰になったらどうなるかなんて、考えなくても分かる。

 これまでのした事がすべて無駄になってしまう可能性さえあるんだ。


 けれど頭を下げた僕の前で「自分のキャリアが大事だから自白したくない」なんて、冗談でも口に出来ないだろう。


 でも二階堂には間違いなくその選択肢があったはずなんだ。

 自分の将来の事を考えれば、それを選んでいたとしても何ら不思議ではない。


 僕がその立場にいたら、そうしてしまう可能性だって十分に考えられる。


 だが、そうしなかった。

 二階堂は自分の中の正義を、プライドを守り通した。


 プライドは自惚れのことを指すのではない、誇り・自尊心だ。

 二階堂は真相を打ち明けず、僕に罪を全て押し付け、予定通り順風満帆な生活を選んでも良かったのだ。 


 だが、最後の最後で自分を騙しきることはできなかった。

 それは二階堂は自分が自分でいられる最後の砦を守り切った証拠だった。


 そんな二階堂を誰が嘲笑うことが出来るだろうか、少なくとも僕は……




「こんちわ~っす!」


 ――生徒会室に突如として響き渡る、あまりにも場違いな軽薄な声。


「副会長~お金回収しに来ましたぁ~」


 その声の主は今話題の真っ只中にいた、今回の黒幕。


「一岳……」


 その牛木一岳が後方に数人の男達を引き連れ、次々と生徒会室へ上がり込んでくる。


「あれぇ、諭史じゃん?どうしたのこんなとこで。

ってそうか~諭史って生徒会のメンバーだったっけ!?」


 一岳がわざとらしく笑って見せると、後ろに控える男たちも声を出して笑う。


 その数、七、いや八人。


 やたらガタイのいい男から、痩せた男……

 手にはメリケンサックなんて嵌めたヤツもいれば、ポケットからジャラジャラ金属音を鳴らしているヤツもいる。


 この学校の生徒はいないようだった、彼らはどこから入ってきたのだろう。

 いや、それ以前に彼らは、なにをするためにここへ来たのだろうか。


「悪いが、お前にやる金はなくなった」


「はぁ?」


 二階堂はそう告げると、一岳は諭史の前では発したことのない声音で二階堂へにじり寄る。


「なに、副会長さん?こないだと違ってイヤに強気じゃん?こないだなんてションベン漏らして、ブルってたのにさぁ?」


 下卑た言葉を放り、後ろの一部のメンツがギャハハと騒ぐ。


「俺はもう決めたんだよ、お前らの言いなりにならないって」


「お~かっこい~じゃん、でもそんなこと言って、これからどうされるか分かってんの?」


 後ろのヤツらを親指で指し示すと、それに合わせて連中がニヤニヤと骨を鳴らしたり、それぞれが持つ得物をちらつかせてみせる。


 それでも二階堂は視線を逸らすことなく、一岳の凄んだ視線に真っ向から立ち向かう。


「なんだぁこいつ?腹立つな?」


 そういうと右腕を振り上げ……


「やめろ、一岳」


 諭史は彼らの間に肩を割り込ませ、一岳の拳を掴んでいた。


「おいおいどうした、諭史?お前の嫌いな副会長なんて庇っちゃって。お前さぁ、こいつにされたことわかっててそうしてんの?」


「ああ、そうだよ」


 諭史はそう言い、一岳の体を押し返し、距離を取らせる。


「なんだなんだ、ってことは本人にチクっちまったのかよ、このビビリ野郎がぁ!」


 一岳は近くにあった机を蹴飛ばす。


 蹴り飛ばされた机は別の机と衝突し、銅鑼を打ち鳴らしたような轟音を響かせる。

 積み上げてあった書類は花弁のように舞い散り、生徒会室の秩序は崩壊した。


 一岳は眉間び皺を寄せ、暫しの間こちらを睨み付ける。

 舞った書類の全てが床に伏せる頃、怒らせていた肩を落とした。


「ま、それは別にいいかぁ」


 緊張感のない声でそう伝える。


「……どういうことだ?」


 二階堂が問いかけると鼻で笑いながら一岳が応じる。


「だってさ、それってどっちみちココでバラしちゃう予定だったんだし?

それが前に来ようが後に来ようが、もうどうでもいいんだよな」


「だからどういう意味かと聞いている!」


「うっせ~な、チキン野郎。友達思いなオレっちはこの場で諭史にホントの事を教えてやるつもりだったんだ。

したら諭史も流石にキレっだろ?そんでもって副会長には諭史へ”お詫び”も払ってもらう、それをオレっちが少しばかり掠める」


 悪びれもせず、一岳はそんな目論見を自慢げに言う。


「結局、お前は約束なんか守るつもりは無かったというわけだな」


「な~に言ってんだよ!元はと言えば副会長様の機嫌を窺って、オレっちが気ィ使ってやったんじゃねぇか、感謝こそすれ恨まれる覚えはねぇなぁ!!」


 後ろにいる連中が笑いながら「カズ、なに言ってっかわけわかんねーよ」とボヤいている。


「お前らうるせ~ぞ、ガチャガチャ抜かすと取り分無しだかんな?」


 一岳は腕を組み直し、改めて要求を口にする。


「じゃ、まずフクカイチョ~サン?金を全部出しなさい」


「断わる」


「ボコられたいん?」


「いくら暴力を振るおうと俺はお前たちに金を渡さない。

……それに俺が火事の件を学校に伝えてしまえばお前は終わりだ」


「そんなこたぁ、わかってるよ。だから保険を用意してんじゃないか」


「保険?」


 諭史と二階堂は目を見合わせる。

 ……それはとても嫌な事を連想させた。


 一岳はポケットに手を入れると携帯電話を取り出す。


「いまなぁ?別働隊が生徒会長と連れの女を拉致ってる。俺の言いたいことがわかるか?」


 一岳がこちらに携帯電話の画面を見せてきた。

 そこには男たち数人に囲まれて不安そうにしている、優佳と映子の写真が映し出されていた。


 ――瞬間、一岳の体が宙を舞った。


「一岳、オマエッ!」


 諭史が一岳の頬を殴りつけていた。


 生徒会室に諭史の叫び声が響き渡る。

 諭史は怒りで、反射的に一岳を殴りつけていた。


 地面に薙ぎ倒された一岳。

 諭史は倒れた一岳に掴みかからんと、腕を伸ばす。


「おい、テメェ手が早いんじゃねぇのかァ!?」


 歩を進める前に仲間の大男が、諭史の首根っこを捕まえて逆側に投げ飛ばす。

 諭史はボーリングの玉のように、机を薙ぎ倒しながら床を転がされる。


「……っ痛ぇなぁ諭史、お前いいパンチ持ってんじゃねぇかよ!」


 起き上がった一岳は床に寝かされた諭史の傍まで走り、勢いよく脇腹に爪先を叩き込む。


「が、っ!」


「纏場!」


 二階堂の声も耳に入らないほどの激痛に、諭史はのた打ち回る。


「へっ、喧嘩するほど仲がいいってなっ!」


 もう一度爪先を入れようとするが、諭史は寸でのところで腕で庇い、次の衝撃を防ぐ。


「おいやめろ!騒ぐと教師がやってくるぞ!?」


「それくらい分かってるよ、うるせぇなぁ。でも心配するこたねえよ。

いま校門近くで別の連中をバイクで騒がせてて、教師はみんなそっち行ってるからよ」


 確かに先ほどから暴走族でも走っているような排気音が僅かに聞こえていた。

 それに気付いた二階堂は、一岳の周到さに苦虫を嚙み潰す。


「一岳、お前……そんなに腐ってたんだな」


 諭史が息絶え絶えにそう口にする。


「はっ、俺は元々こういう人間だっつーの。

お前が日和ってっから、相手の底まで見通せないんだろ?」


 その言葉には諭史も尤もだなと思ってしまい、自分の見る目が如何に節穴だったかを思い知らされる。


「よ~し、じゃぁ諭史は俺らの人質だ、黙ってついてこないと愛しの会長がどんな目に遭うか分かんねぇぞ」


「……下種野郎が」


「ははっ、言ってろ言ってろ!……おい副会長様はさっさと金を出せ」


「……クソっ!」


 二階堂が拳を床に叩きつけ、己の無力を呪う。



 ――諭史は既に歩くのも精一杯で反撃も出来ない。


 それ以前に優佳と映子が人質に取られている。


 この時点で二階堂と諭史にとっては八方塞がりだ。


 これから、どうなってしまうのだろうか。


 少なくとも現状が最悪という事はないだろう。


 一岳は諭史と二階堂が想像するより狡猾な男だった。


 それぞれから引き出した弱みを生かして、より最悪な方向に話を進めていくだろう。


 生徒会の面々はそのゲームを楽しませる駒として、都合よく使われ続ける。


 ……警察を呼べないだろうか。


 いや、駄目だ。

 会長や映子がどんな目に遭うか分からない。


 だが、この状態でズルズル進んでしまえばどこまで行ってしまうか分からない。


「金は……俺の家にある」


 二階堂が、時間稼ぎのために嘘を吐く。

 生徒会予算は諭史のバッグに詰めるため、今日持参してきている。


「あっそ。おい、誰か二人副会長様にオトモしてやれ。俺は諭史を連れてく」


「おい、早く行けよ」


 二階堂は連れの男達に肩を持ち上げられ、唾を吐きかけられる。この上なく惨めだった。


 もう、神にでも祈るしかなかった。


 俺はどうなってもいい。


 ただ他の生徒会の面々だけは助けて欲しい、そんな事を思いながら自分の家に向かうため生徒会室の扉を開いた。




 ――扉を開くと、そこには見慣れない女生徒の姿。

 女にしては肩幅が少し広く、同年齢には見えるが、手足が長く活発的な印象を受ける。


 女生徒は二階堂を下から上まで舐めるように見定めたかと思うと。


「ハッ、男の癖にだっせーの」


 そう言って、二階堂を教室に押し戻した。


 そして女生徒は何を思ったか、生徒会室にズカズカ上がり込んでくる。

 女生徒は手に竹刀を抱えていた。


 そして後方からは別の男達、いや女も混じった面々がどんどん生徒会室に雪崩れ込んでくる。

 それはこの学校の制服を着た生徒でもあり、近隣の中学でもあり、もしくは高校生かもしれない面々であった。


 服装も私服と制服バラバラであったし、髪を染めてる生徒もいれば、

メガネをかけた気弱そうな生徒、はたまた作業服に身を包んだ職人風の人さえいた。


 中にいた一岳のグループも何事かと事態を把握出来ず、黙って入ってくる面々を見守るしかなかった。


 入ってきた新たなグループはおおよそ……二十人。

 既に生徒会室は三十人近くの人で溢れ返っていた。



 纏場諭史はその動向を信じられないような面持ちで見つめていた。

 顔を知っている奴、小学校で同じクラスだった奴、それにあれは、いつも行くコンビニの店員ではなかったか?


 ……そして、その中心に立つ人物。


「レイ……カ?」


 縁藤 レイカ。

 本名を李 燕華(リー・イェンファ)


 諭史は養子になる前のレイカを知らない。

 だから優佳が付けたあだ名でしか、彼女を呼ぶことはなかった。


 進学してから疎遠になってしまった幼馴染。諭史が初めて恋心を自覚した、相手。


 レイカは床に転がる諭史を見下ろすと、ふっと鼻で笑う。


「なに、諭史。久しぶりに会ったと思ったら、なに寝かされてんの?」


「……仕方ないだろ。レイカが来るのが遅かったから、時間を稼ぎきれなかったんだよ」


「はっ。時間稼ぎ?冗談言う余裕あれば、もっと遅くても良かったかな」


「なに言ってんだ。レイカのことはずっと、ずっと待ってた。……そんなことより手を貸してくれないか?」


「ハハッ、手を貸す必要すらないよ。もうほとんど仕事は終わってんだからさ?」


 レイカがそう言い、一岳に向かって中段の構えを取った。後方の連中も一斉に構え出す。

 流石に一岳のグループはたじろぎ、お互いの顔を見合わせだす。


「……お前、会長の妹だな?」


 一岳が動揺しつつも、そう声を絞り出す。


「そうだよ、よく知ってるじゃん」


「最近よく耳に入ってくるからなぁ?

アニキが纏めてるファミリーとは別に、最近新しく徒党組んでるグループがいるってよ?」


「グループなんてもんじゃないよ、私達は単に気が合ってツルんでるだけだ。

アンタんとこみたいにファミリーとか言って、堅苦しいことはしないんだよ」


「……ウチのファミリーにケチつけようってのか?」


「お前のファミリーじゃないだろ?アンタはただ自分の兄さんの、牛木さんの威を借ってるだけの次男坊主だろうが」


「てめぇ……口の利き方には気をつけろよ?」


 一岳が携帯電話を開く。


「今、お前のアネキはウチで預かってる、声を聞かせてやろうか?泣き声でよければだけどなぁ!?」


 そう威勢よく一岳は嗤い声を張り上げる。


「……アンタ本当になんも知らないんだねぇ、電話してみな?」


 レイカがそう言って顎を上げ、電話を掛けろと仕向ける。

 一岳はまさかと思い、別働隊へ電話を掛ける。


「クソッ、繋がらねぇ!?」


「最近、ウチのアネキをコソコソ嗅ぎまわってただろ?だから護衛つけてたんだよ」


 一岳は何度も通話ボタンを押すが、一向に繋がらず悔しそうにプルプルと携帯電話を握りしめている。


「そいつらは全員蹴散らさせてもらった、いまアネキ達はウチで保護してる」


 その言葉を聞いて……諭史と二階堂は安心して腰が抜けたように座りこむ。


「さぁ、次男坊主、観念しな。人数差を見てみな!勝ち目はないよ!」


 レイカの後ろにいる仲間たちが一岳のファミリーを囲い込む。

 囲まれた一岳は緊迫した様子で、迫る攻撃に身を縮こまらせていた。



 ――そして、その場にまた新しい顔が現れた。


「一岳は、いるか?」


 地を震わせるような、恐ろしく低い声。

 その声を聞いた一岳は、携帯電話を床に取り落とす。そして生徒会室の入り口を見て、震え出した。


 入口周りにいる人達が道を開けていく。

 そこから現れたのは顔に傷をつけた、百九十センチほどもある大男がのっそりと入ってくる。


「よぉ、一岳。随分偉くなったじゃねぇか」


「ア、ア、アニキ……」


 自分の兄、牛木巌うしきいわおを見上げて、一岳は一層震え上がる。


「オレに無断で、なにやってんだ?」


「そ、それは……儲け話があって……」


 瞬間、一岳の体が横に飛ぶ。


 巌が弟に蹴りを放っていた。


「オレのファミリーをお前の独断で、勝手に使うな」


 それを追いかけ、首根っこを捕まえ、あとはひたすらに、殴る。

 容赦がなく、何も言わず、巌は自分の弟を玩具のように、ひたすら殴り続ける。


 血、汗、涙、唾液、色々なものを吹き飛ばし、一岳は兄の暴力を受け続ける。


 数分それが続いた。

 誰も言葉を発することが出来ず、一岳に加えられる暴行の様を眺め続けることしか出来ない(一部の者はあまりの酷さに顔を背けた)


 半殺し……誰もがその容赦の無さに圧倒されていた。


 止めようなんて考えられない。

 それを邪魔することで、自分がそうなってしまうのではないかという恐怖に、勝てなかった。


 一通り満足したのかアザだらけになった一岳を、牛木ファミリーの一員に「担いでけ」と指示を出し、下がらせた。


 それを見届けた巌はのっそりと顔を返し、レイカの顔を睨み付ける。

 レイカは正面からその視線を受け、冷や汗を搔きながらも真っ向から相対した。


「お前ら、ウチの連中が世話になったな?」


 ウチの連中……それは、ここにいるファミリーの面々のことではない。

 レイカは優佳を解放したと言った、するとそちらでは相応の衝突があったことは、火を見るより明らかだった。


 だから今度は……こっちの番なのか。


 レイカのグループは全員で二十人ほどに及ぶ。

 だが、誰もが先ほどの容赦のない様を見て、竦み上がっていた。


 人数にして二十対八である、圧倒的人数差だ。

 だが、ここにいる誰もがこの巌一人に勝てると思えなかった。


「……さて、ここで遊ぶのもいいが、流石に他所様でこれ以上暴れるのは気が引けるな」


 巌の体から力が抜けていくのが分かり、それに合わせてレイカのグループも力を抜く。


「ここの騒ぎが起こっていることは既にバレている、じきに教師がやってくるからお前らもさっさと散れ」


「……わかりました」


 レイカがそう言うと、牛木のファミリーとレイカのグループが、我先にと裏門目指して走り抜けていく。

 校門の外でバイクをフかしている連中も散り散りになり、その騒ぎを嗅ぎ付けたのか警察が集まってきていた。


 教室には諭史、二階堂、レイカ、巌の四人だけになっていた。

 巌はその教室の面々を眺めると一つ深呼吸をし、夕霞中生徒会メンバーに向きなおった。


「……迷惑をかけたな」


「「…………」」


 諭史達は謝られた真意を測りかね、返答に詰まる。


「お前ら二人に”今後のこと”で話がしたい」


 諭史と二階堂は顔を見合わせ、同時に頷きそれを了承する。

 ……もとい、彼らに選択権などあってないようなものだが。


 それを横目に、自分は関係ないとレイカは踵を返す。


「レイカ」


 それに気付いた諭史が、レイカを呼び止める。


「……」


 なにも言わず、レイカは立ち止まる。

 ……諭史の言葉が、レイカに届いたのはどれくらいぶりだろう。


「助かったよ、ありがとう」


 レイカをその言葉を黙って聞く。


 ……聞きたいことは、たくさんあった。

 けど、これ以上の話をするつもりはなかった。


 だって、一つだけ大事なことがわかったから。


 レイカは僕らの元を離れて行ったけど、優佳のことを気に掛けてくれていた。

 そして僕を助けようと思うくらいには、繋がりが残っていることがわかったから。


「これは貸しイチ、だかんね」


 数ヶ月ぶりにかけられた、レイカから諭史への言葉。


「わかったよ」


 諭史はそれに笑って答える。


 レイカはそれを聞いて、生徒会室を後にする。


「それともう一つ」


 諭史の声に、レイカは再び足を止める。


「いい友達、だね」


「…………だろ?」


 と、振り返り、歯を見せながら言った。


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