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逃げた彼女と、ヒモになった僕  作者: 縁藤だいず
4章 五年前――思い出になる前の、記憶
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4-16 疑惑の渦


 僕が犯人ではないことを証明することは出来ない。

 だって犯人ではない証拠が、提示出来ないのだから。


 金庫の場所は知っているし、入っている金額の試算もつく。

 金が欲しいと思うのであれば、目が眩むのも頷ける。


 たが僕を散々疑うことになんの意味もない。

 金を持っていった事実がなければ、返すもの自体もない。


 今朝も職員室に呼び出され散々に疑われた。

 いや、あれは「疑った」なんてもんじゃない、遠回しに「自白しろ」と迫られていたのだ。


 だが自白したところで生徒会予算は持っていってないのだ、当然出てこない。

 僕としては冤罪を掛けられ、いい迷惑をしているだけだ。


 ……それでなくても一昨日にケンカ(?)したエーコともそのまま沈黙が続いており、嫌なことは重なるもんだ、と辟易としていた。

 

 人の噂が流れるのが早い。 


 時間が経つに連れ(主に今朝からだいぶ変わったように思う)僕の姿を横目に、

ひそひそと話をする生徒が多くなり、その数が増えてくる度に僕の心は削られていく。


 ……これが一通り合同企画の段取りが終わった後で良かった、と思う。

 もしいまも企画の件で手伝うことがあった場合、否が応にも上級生のクラスにも脚を運ぶことになる。


 そうなったら上級生からも疑いの目に晒され、いまよりも厳しい視線を浴びることになっていただろう。

 同じクラスメートでもこれだけ疑いの視線を向けられているんだ。……流石にこれ以上は耐えられそうにない。


「おい諭史!!お前すげぇことやらかしたんだってな?」


 と、思い切りバンバン肩を叩きながら粗野な声をかけられる。


「……こんなことを嬉しそうに話してくるなんてお前くらいだよ、一岳」


 振り返るといつものようにニヤニヤと下品な笑いを浮かべ、唾を飛ばす勢いで口を開く。


「ははっ、まぁオレたちのユージョーの間には些細な問題だからなぁ!

お前が本当にやったにしろ、やってないにしろ、それでヒビが入るほど薄い絆じゃぁねーってことよ!」


 そのまま肩を叩きながら肩を組んで顔を横に近づけてくる。


「もちろんやってないっての!それとその言い方はやめてくれ。

みんな聞き耳を立ててるんだから、事実としてまた話が広がるだろ」


 僕は出来るだけ言葉を大きくし、周りの『傍聴者』にも聞こえるように身の潔白を訴える。


「ひゃっはっは!必死だねぇ諭史も。

まぁオレっちも普段のお前を見てれば、そんなことする度胸がねぇってのは分かるけどな」


「……信じてくれるのはいいけど、もうちょっとマシな言い回しはないのかよ」


「普通にお前の事信じてる、なんて言ったら気持ち悪ィだろ?贅沢言うんじゃねーの!」


 そう言いながらまた一岳は僕の背中をバシバシ叩く。


 ……少し鬱陶しいが、悪い気はしなかった。

 例え気休めだったとしても僕のことを信じてくれる、味方がいるのが嬉しかった。


 こいつはこいつなりに僕の事を気遣ってくれているんだろう。

 それにいまの会話の流れは、わざとらしくなく周りに聞いてもらいやすい。


 少し、ほんの少しだが、根はいい奴なんだなって思った。


「それはそうとよぉ、さすがにこのままだとお前が犯人だって疑われたまんまだぜ?犯人探しとかしなくていいのか?」


「……そんなの言われなくても分かってるよ、ただ……いや、なんでもない」


「なんだよ、言いかけてやめんなよな、気持ち悪ィ」


「いや、この件はいいんだ。きっとなるようになる」


「……なんだそりゃ?お前犯人にでっち上げられて悔しくないのかよ」


「別にでっち上げられたわけじゃないだろ?たまたま状況的にそう見えるようになってしまっただけじゃないか」


「ったくお前はそんなだからダメなんだよ、あのな、なんでお前だけが――」


「――その先は口にするな」


 僕が強めにその先を、止める。


 言葉を止めさせられた一岳は僕の目を見て一瞬たじろいだ後、

「ハッ、つまんねーヤツ」と言ってどこかに行ってしまった。


 それを見届ける周りの目。

 僕がわざと教室内に視線を巡らすと、ススッと外れていく『それら』


 これ見よがしに「ハ~ッ」とため息を付き、机に突っ伏し今回のことについて改めて考える。



 ……一岳の言いたいことは分かっている。

 だけどそれは他に聞き耳を立ててる人には聞かれたくなかった。


 僕が犯人ではないなら他に犯人がいることになる、それを口にしたくはなかった。

 言葉にすればそれを聞いた人に、余計な想像をさせてしまうことになる。


 そうしたら噂はますます加速してしまうだろう。

 もしその対象が生徒会メンバーであるのなら、優佳やエーコがこの視線に晒されてしまうかもしれない。それだけはなんとしても避けたかった。


 ――実際のところ、僕以外に鍵のナンバーを知っているのは、生徒会顧問の先生だけであるはずだ。

 だから顧問が開けていなければ、犯人は僕しかいないことになる。


 顧問の先生がナンバーをバラしていたら話は別だが。


 そのことについてはあまり考えたくなかった、容疑者は無限に増えるからだ。

 ふと、予算が盗まれた初日の二階堂を思い出す。


 あいつは確かに嫌な奴だ。

 だがそういった悪事に手を染めることとは、だいぶ縁遠いものに思える。


 その点において二階堂は信用出来ると思えた。

 それにあいつの家は金持ちだ、金欲しさに盗人の真似事なんてしないだろう。


 きっとお小遣いだって沢山もらっているだろうし、全額貯金しそうなくらい欲が見えないやつだ。

 だからあいつが犯人であるはずがない。


 あとは……生徒会顧問の先生か。

 顧問の先生が犯人かどうかと言われたら正直分からない、あまり顔を出すことも無いし、大人の腹の内まで読み取れない。


 ……いっそのこと金庫丸ごと盗んで行ってくれればよかったのに、と思う。

 そうすれば外部の犯行だという事がおおよそ間違いなくなるし、素直に警察に預けられる犯罪事件になるのだから。


 それが今回の事件のミソでもある。


 学校側は極力、警察に届け出たくはない。

 なぜなら先日の火災事故で既にお世話になっていて、近隣からもタバコで出火したという情報が出回っている。


 その上で今回の盗難事件だ、問題のある学校としてイメージダウンは免れない。


 先日の出火事件も一部の新聞には記事として出されてしまっている。

 その上、今回の事件も表沙汰になったとしたら、報道陣も放っておかないだろう。


 だからこそ学校の内々で片付けてしまいたいのだ。


 そして文化祭の開始は既に目前。


 早く犯人を見つけ生徒会予算が戻ってこなければ、結局学校内での大々的な犯人探し、

そして見つからなければ再度予算の捻出、最終的には警察の被害届。


 そうなってしまえば盗難事件の事実は隠し通すことが出来ない。学校側としては一番避けたいイメージダウンにつながってしまう。


 ……だからこそ、容疑者の僕には容赦がなかった。


 早く自供してもらわないと困るので、だいぶひどい言葉を浴びせられた。

 けれどもそう言われたところで事実、持ってないのだからどうしようもない。


 僕だけが疑われるという状況には理不尽さは感じている。

 けれども同時に他の生徒会メンバーがこうならないでよかったとも思う。


 それは二階堂だってそうだ。

 だって……あいつは僕を庇ってくれた。


 容疑者としてやり玉に挙げられた時は怪訝な目で見られはしたが、

先生たちの口調がどんどん荒くなっていくに連れ、僕への強めの言葉がかからないよう先生達をなだめてくれた。


 意外だった、なぜ庇ってもらえるのかわからなかった。

 曲がりなりにも生徒会の後輩として見てもらえたのだろうか。


 一緒になって攻め立てられる方が自然だった。

 だってそうだろう?僕に合同企画を与えたのだって、あれは僕に対する一つの攻撃だったはずだ。


 だが一時とは言え、二階堂が味方してくれたのは事実だった。

 ……僕はあいつへの見方を変えなければいけない、そんな気がしていた。



 予鈴が鳴り、意識が呼び戻される。

 疲れもあって少し昼寝でもしたかったけど、寝そびれてしまった。


 放課後にもなれば犯人探しをしなくてはいけない、少しでも僕が犯人ではないと信じてもらうために。


 ……もう優佳やエーコにはこの噂は伝わっているだろうか。

 既に一部の生徒が知ってしまっているし、耳に入っていなかったとしても時間の問題だろう。


 もし予算が見つからなければ文化祭は最悪、中止になってしまう。

 ……だが、それはとても悲しいことだが、仕方のないことにも思えた。


 だって外部の人間が侵入し、金庫を開けて盗まれてしまったんだ。

 少なくとも、僕はそう信じている。


 だからこれは僕たちになんとかできるレベルの事件ではない。

 もちろん予算が戻ってくるのが一番だ。


 ……だがどちらにしろ犯人が見つかるまで、僕の疑いが晴れることはない。

 だから自分の身のことだけ考えれば、外部の犯行で警察の手により犯人が見つかるのが一番だった。 


 僕は校内には犯人がいないことを信じている。

 だからこれからの懸念事項は、僕が犯人が見つかるまで白い目で見られてしまうことと、予算が出なくなった文化祭を、いかに低予算で運営するか。


 ――僕はこの時、それだけを考えていた。


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