チューバ娘の野望
「お母さん、私、吹奏楽部でチューバを吹くことになった。」
娘の真菜は、残念そうな声で言った。
チューバって普通は男の子がやる楽器じゃない?
確かに真菜は、背は高いほうだけど・・
私の娘・真菜は、活発で負けん気が強い。
ピアノを習っているけれど、持ち前の負けず嫌い精神で、どんどん、ノビていった。
真菜は同じ先生に習ってる子をライバル視し、その子の習ってる曲を自分も習いたいと
先生に、わがままをいい、強引に我を通した。もちろん、毎日欠かさず練習した
高校受験でも、レッスンは結局やめなかった。
あれは、ピアノが好きというより、受験のためにやめるのが、
悔しかったのだろうと思う。それだけ負けず嫌いなのだ。
最初は、さすがの真菜も、あの楽器じゃ、根をあげるだろうと思ってた。
真菜は、吹奏楽の経験はない。
私は、高校時代、サックスを部活で吹いていたけど、チューバの大変さはわかる。
楽器も大きいから持つのに力もいるし、なによりもあの楽器を鳴らすためには、
肺活量がかなり必要だ。私の部でやっていた時もチューバは男の子が担当していた。
あの楽器は、結果的に責任が重いのだけど、地味なリズムを繰り返したりのばしたり、
音的には、単調だ。音楽が好きでも、いつも縁の下の力持ちでは、あの子の性格から
すると、我慢が出来ないだろう。
娘はめげなかった。毎日部活に行くのはもちろん、肺活量のためにランニグもこなし、
楽器をもつために、腕力をつける練習もした。
お腹の底から太い息を長く出す。そんなトレーンングも、家でもしていた。
あのどでかいマウスピースを、家でもブーブーならして、家族の不評をかった。
一度、演奏会を聴きに言った。真菜は真剣に吹いていたけど、やはりチューバ
なので、ソロはなかった。
弟の進也が、頭をかしげていった。
「ねえちゃん、最後までやるかも。かあさん。ねえちゃん、もしかして音大の
チューバ科とか入りたいとか言い出すかも。なんか夢中になって練習してる。
ピアノは、最近、ずいぶん、おざなりな練習になったなと、僕が思うほどだ」
チューバ科?あるんだ。そんな科。
でも進也のいうようになるかしら、言い出したから意地でも高校の部活は
止められないだけじゃないかしら。
弟の進也は、性格は真菜と反対で、いささかのんびりしすぎの気ある。
お前、ねえちゃんの事より自分の受験の事よ と進也に言っておいた。
いくらなんでも、チューバ科に行くってのは、ないだろう。でも、もし
進也の言うとおりだとしたら・・・音大の受験の事を調べてみた。
音大受験、実技は(チューバ+ピアノ)って、じゃあ、自分の楽器・チューバ
が欲しいって言ってくるかもしれない。
大変、楽器の値段をあらかじめ調べて、お金用意しておかないと。
その時になって慌てないようにしないと。母親のつとめだわ。
楽器は、そこそこの値段の所で50万、いい楽器で100万だ。
今のパート、もっと時間、増やすことにした。
私は、”楽器貯金”を貯めていった。
進也の言うと通りには、ならないかもしれないけど、進学のためのお金は必要。
2年の夏休みになったとき、真菜が相談があると、いって来た。
きた。きっと”自分の楽器が欲しい”だ。
う~~ん、今ならなんとか50万。これで満足してれるだろうか。
そして娘から聞いた言葉に私はびっくりした。
「母さん、私、音大の作曲科に入る。そのためには、受験のためのレッスンが
必要なの作曲とか楽典とか、作曲科にはいるために受験科目を教えてくれる所
なんだ。お願い、レッスン料を出して」
音大に行くと言い出すのは、覚悟してた、でも、作曲科?なぜ?
「チューバの音があの太い音が素晴らしい。会場に響くし皆の音を包み込むような
感覚がいい。でも、皆その事をわかってくれない。で、演奏しようとしても、
チューバのための曲って、あまり知られてないのよ。
私は、チューバが主役になるような曲を書き、ヒットさせてチューバの素晴らしさを
ひろめたい。だから作曲科に行きたいのよ」
私は、呆れるより、笑い出したくなった。この子は本当に、挑戦者だわ