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おにの嘘つき

作者: 古代紫

「ライアー☆企画」参加作品です

 大学合格発表日。昨日は夜はなかなか眠れなかった。発表は今日の昼だから、午前中は何も喉を通らなかった。

 合格発表が待ち遠しい、けど、逃げ出したいほど怖い。実際、普段は絶対やらない早起きして2キロほど走ったほどだ。


 深呼吸して大学のホームページを開く。マウスを握る手が震える。ダブルクリックができない。目がかすむ。逃げたい。怖い。

 けれど、勇気を振り絞って、合格者番号表を開く。志望学部までスクロールして自分の番号を探す。


「…………あった」


 え、本当に?


 自分の目を疑った。これはもしかしたら去年のものなのではないか? そんな疑いを持った後、現実が戻ってくる。


「いっ~~--……やったぁああぁーー!」


 何度も万歳したり、小学生の時から大事にしている特大のクマのぬいぐるみを投げたり、破けるんじゃないかと思うくらいきつく抱きしめたり、手を挙げてジャンプしたり、高く飛びすぎて腕を天井にぶつけたりもして、とにかく喜びを爆発させた。

 ひとしきり喜びを爆発させた後、少し冷静になってから、ひとまず仕事中の両親に報告。会議中とかだと悪いから、メールでだ。

 それから、次は一緒の大学を受けに行った……


「あ、もしもし? あたしあたしー」

『おう。新たなオレオレ詐欺か?』

「ちがうよ! ほたるだよ! 自分の彼女の声くらい覚えてよ」

『冗談に決まってるじゃねぇか。マジになんな。落ちつけほたる』


 こいつは私よりずっと頭がいい。センター試験も私よりずっと良かった。そして、私が受かったということは


「私受かったよ! これで春から一緒の大学だねー」

『あー、それなんだけどさ』

「ん?」


 ちょっと嫌な予感がした。こういう予感はたいてい悪いことばかり的中する。


『俺、落ちた。二次でこけたみたい』


 私の彼氏は、志望大学に落ちた。


◇◆◇◆◇◆


「だから、酸化しないってことは第三級アルコールだろ?」

「うんうん」

「この中で第三級アルコールって言ったらひとつだろ? まずはそれを探すんだ」

「あ、じゃあこれが正解ってわけだね」

「そーだ」


 受験生です。彼氏と一緒に図書館で勉強中です。

 人並みの頭しか持ち合わせていない私はこの生意気だけど頭はいいやつに教えてもらってます。


「じゃあこの問題終わったら休憩な」

「はーい。がんばりまーす」


 横ではイツキがすらすらと化学の問題を解いている。正直、どうしてそんなにできるのか訳が分からない。宇宙人だよ。


「そうだよ! いっちゃんは宇宙人だよ!」

「あー、はいはい。さっさとやれ。休めねぇぞ」

「頭おかしいよ。絶対宇宙人だって! ほかの人にも言われたことあるでしょー?」

「あるよ。これとこの問題追加な。それまで休ませない」

「ひどい!?」


 私の厳重な抗議は及ばず、結局休憩までの時間は延びてしまった。誠に遺憾であります!


 しばらく問題と格闘して、ぱたんとシャーペンを落とし、机に突っ伏する。いっちゃんは私のやった問題と解答をにらめっこ。眉間にしわが寄ってて怖いです。般若みたい。

 実際、休憩までの問題を追加したんだから鬼だよ。おにーおにー。やーい、おにー。声には出さない。あくまで心の中だけで罵る。


「できてんじゃん。やればできるじゃん」

「ホント!? そーでしょ。私はやればできる子なんだよ!」

「やらないから今までできなかったんだけどなー」

「でもやった! 私がんばった!」

「はいはい。よく頑張りました」


 ポンポンと私の頭がやさしく叩かれる。そのまま撫でてくれてもいいんだけどなー。もっと頑張らないとダメってことかなぁ。


「あ、そーだ。イブはデートするよね? どこ行く?」


 ゴチン


「いったーい。なに!? グーで叩かなくたっていいじゃない!」


 さっきのやさしいポンポンと違ってグーで叩きやがった! ちょっと痛かった。


「受験生だってこと忘れてんのか? 落ちるぞ?」 

「いいじゃん。一日くらいじゃそんなに変わらないって」

「それはほたるが今まで勉強してここなかったからだろ? 覚えたことすぐ忘れるぞ」

「で、でもさぁ」


 確かに一日勉強しなかったらすぐ忘れるなんてことは、わかっている。ましてやセンター試験まで一ヶ月を切ったクリスマスイブでは致命的だ。


「でも、付き合って初めてのクリスマスだよ!?」

「だから俺は受験が終わるまでまてって言ったろ? ほたるが駄々をこねたんじゃないか」

「そうだけど、そうだけどぉ……」


 別に遠くに行かなくたっていいんだ。遊園地ってのは憧れるけど、近場でショッピングでもいい。とにかく二人で息抜きしたい! デートがしたいんだ。


 机に頭を倒したまま、眼だけをあげて、お願いする。ダメと言われたら泣きそうです。


「はぁ……わかったよ。イブだけな」

「ホント?」

「イブだけな。だから泣くな」

「やったー! いっちゃん大好き!」

「騒ぐな。ここ図書館だぞ。抱き着くな。暑い」

「なんだかんだいってー、いっちゃんは私にやさしいよね? べたぼれだね?」

「殴るぞ」

「勉強します」


 普段のいっちゃんは好きだけど、おこったときは嫌いです。鬼みたいだ。おにー!


◇◆◇◆◇◆


『言っとくが、手作りのプレゼントとか用意するなよ』


 その分勉強に回せって言われたから、手作りプレゼントは作ってません。っていうか、私も危機感もって勉強ばっかしてたから本当に時間がありませんでした。サプライズで用意したかったけど、今年は我慢。また来年だ。


 今日はクリスマスイブ。受験生なゆえ、普段はずっと勉強しているけど、今日は休憩日。けど、朝に数学の問題を三題やれと言われました。そりゃあ私は馬鹿ですよ? 必死にやらないと志望校に合格できないわけで……。でもさ、こんな時まで勉強ってやめてほしいよ。おかげで約束の時間に間に合わないかと思ったもん。


 というわけで、デート場所はショッピングモールです。現地集合です。

 二人に移動時間があまりかからず、かつデートもできそうな場所といえばここくらいしかなかった。


「おう、またせたな」

「遅いよ! 私30分も待ったよ」

「今が待ち合わせ時間ぴったりなんだが……」


 ふつうは男性が早く来て女性を待たせるものだ。この子は常識がなってない。待ち合わせ時間ってのは建前だってのに!


「じゃあいくか。見たい映画があるんだってな?」

「うん。早く行こ」


 チケットとジュースを二つずつ買って、席に着く。ちなみに私もいっちゃんもポップコーンは買わないタイプだ。ジュースだけで十分。


 見るものはパニックホラー物。べ、別に「きゃー!」って言いながらどさくさに紛れて抱き着けるからだとかそんな不純な理由じゃない。ただ単に、私たち二人の見たい映画がこれっていうことで一致しただけだ。ただそれだけだ。

 そりゃあ、チャンスがあれば「きゃー!」なんてやってもいいかなとは思うけど……ま、まぁチャンスがあれば……ね? その時は不可抗力だし。でもたぶんウザがられるとは思うけど。

 でもさ、手をつなぐくらいはいいよね? ね?


「なしだ」

「私まだ何も言ってない!」

「どーせどさくさに紛れて抱き着くとか考えてたんだろ?」

「うぐ……」

「図星だな。『きゃー!』とか叫ぶなよ。ほかの客に迷惑だ」

「了解です……」


 じゃあ手をつなぐってのはありだよね!? まだワンチャンあるね!?


「ダメだ」

「何も言ってないのに……」

「何か思いついたような顔をしていたからだ」


 この人おもしろくなーい!!


◆◇◆◇◆◇


「ひぅ……はっ……」


 正直、なめてました。私は結構ビビりさんかもしれないです。過激な演出があるたび、心臓が跳ね上がる。このままではなんだか不安なので隣にいるはずのいっちゃんの手を探る。右手でいっちゃんの手を摑まえて私の席に引き寄せる。両手で包めばちょっとは怖さが和らぎます。


「なんだよ、いてぇな。怖くなったか?」

「はい。怖いから手握らせて。お願い」

 

 いっちゃんの顔は簡単に想像できる。にやにやしてからかったような顔しているんだろう。

 でも今の私はマジなんです。本当に怖いから手を握らせてほしい。甘い展開なんて考えてなくて心の底からそう思ってます。


「わかったよ、しゃあねぇな……」

「ありがとう。大好き」

「調子のんな」


 あれ? 意図せずしてちょっと甘くなってる? いっちゃんがデレてる!? これはもしかして私が望んでたてんか――――


「わぅ!? ひ……」

「耳元で叫ぶなよ……」


 ごめんなさい。



 映画が終わってフードコートでお昼ごはん。いっちゃんはサイコロステーキ。私は石焼ビビンバ。割とがっつり行く二人です。……というより、おいしいものが大好きな二人なんだろうな。


「大学行ったら二人でいっぱいデートできるねー。食べ歩きとかしようね?」

「受かったらなー」


 いっつもいっちゃんの返事はつれない。頭には受験のことしかないんじゃないのかと疑ってしまう。……ホントに受験しかないんじゃないかな?


「ぶー、いっちゃんの返事がつまらない。私は不満のフを表明します」

「『遺憾の意』みたいに言うな。馬鹿に見えるぞ」

「馬鹿じゃないもん! ちょっと国語が苦手なだけだもん!」

「じゃあ『遺憾』って意味わかるか?」

「良くないって意味だよね」

「帰ったら現国の特訓な」

「ちょ!? ごめんウソ! 私嘘つきました!」

「嘘つきには英語かな?」

「うわああぁああぁあ……」


 八方塞がりとはこのことだ。誰が悪い? 私が馬鹿だから悪いのか。そうなのか。


「なんでそんなに意地悪するんだよぅ」

「お前のためだ。俺と同じ大学に行きたいんだろ?」

「そうだけどさ、そんなに意地悪されると嫌いになっちゃうよ?」

「俺はほたるのことは好きだぞ」

「んな……!?」


 軽い話だったのに、いきなりの言葉にビビンバを運ぶスプーンが止まる。いっちゃんの顔はすでにサイコロステーキに向けられている。

 私はスプーンを置いてテーブルに身を乗り出していっちゃんに顔を近づける。


「ね、ね? もう一回」

「ん? 何がだ?」

「さっきの! わ、わたしのことさ……す……って言ったよね? ね!?」

「なんつった? 聞こえないぞ?」

「だから、ほたるのこと…………き……って、言わせないでよ! もう一回言ってよ!」

「自分は言わないのに人には言えってかよ」

「いいから」

「い・わ・な・い」

「わーん! いっちゃんのばか。もうビビンバ食べる」

「おう、食え食え」


 貴重な言葉を聞きのがした気がした。一回くらいリピートしてくれてもいいじゃない。なんだか今日のいっちゃんはいつもよりちょっと意地悪な気がした。おにー!


「おい、泣くなよ」

「泣いてないし。ビビンバ食べてるだけだし」

「涙目になってんぞ」

「泣いてないし。いっちゃんのせいだし」

「ステーキ一個やるから泣くな。ほれ、あーん」


 いっちゃんがサイコロステーキを一個フォークにさして突き出す。遠慮なくいただきます。


「あーむぅ。むぐむぐ。うんおいしい……って、こんなことで誤魔化そうとしないでよ!」

「おいしかったろ?」

「うるさい! いっちゃんなんて嫌いだ。おにー!」

「俺はほたるのこと好きだけどな」

「わぶ!? げっほ、ぐぅ……」

「おい大丈夫か? むせるなよ……水いるか?」

「んぐ……んぐ……ぷはぁ。もう一回! もう一回!」

「ごちそうさま。ほら行くぞ」

「あ、待ってよ。私まだ食べてる途中なのに!」


 置いてけぼりなんてひどい!


◇◆◇◆◇◆


 なーんてことがあったっけ? 結局クリスマスらしいデートじゃなかったな、と思いながらまだ寒い空の下、大学の校門を抜ける。

 結局、私たち二人が用意したプレゼントはいっちゃんが手袋、私がマフラーという季節限定ものを持ってきた。冬でしか身に着けられないものだけど、そのほうが重くなくていいかなとも思う。それに、冬しか使わないから長年使い続けられるのもいいかなって。


 桜は咲いているけど、今日は寒い。いっちゃんからもらった手首にふわふわがついている白い手袋は家を出る時からずっと着けている。


「うぅ……寒い」


 気温のせいもあるけど、たぶんあいつがいないせい。一緒に同じ大学に行こうと決めてたのに、一人だけ落ちやがった。怒ったり、一人で泣いたりもしたけど、今は寂しいってだけ。

 大学は休みが多いからその時に会えばいいとも思うけど、それまでが寂しい。


 4月1日、今日は入学式前のオリエンテーションの日。大学生活でのいろいろなことを教えてもらったり、部活動をいろいろ見たりする日だ。

 指定された教室に入って隅っこの席で一人開始時間が来るのを待つ。この間に誰かに話しかけないと友達ができないと聞いたことがあるけど、知らない人に自分から話しかけるっていうのは、私にはちょっと辛い。少しだけ人見知りなのだ。だからずっとじっと待っている。


 会いたいなぁ。会いたいなぁ。一緒の大学行きたかったなぁ。約束を破るなんてひどいと思う。いっちゃんは今まで私のことを散々からかってきたけど、一回も嘘をついたことはない。肝心のとき、一番重要なことに嘘をついてどうするんだよ。ばかぁ。


「ばか……」


 大学の資料に目を通しながら誰にも聞こえないような小さな声でつぶやく。ちょっと泣きそう。な、泣いてないし。涙袋がいっぱいいっぱいなだけだし……。


「いっちゃんの…………ばかぁ」

「だーれが馬鹿だって?」


 聞きなれた生意気な声がした。自分の真後ろの席だ。ばっと振り向くと、いつも通りの私をからかう時のニヤニヤ顔のあいつがいた。


「な!? え……えぇ……そっくりさん? ドッペルゲンガー?」

「ちげーよ。イツキだよ。久しぶり。ほたる」


 馬鹿にした口調で私の名前を呼ぶ。この時の私の顔は確かにバカ面だっただろう。でも、そんなことよりなんでいっちゃんがここに?


「前期は落ちたけどな。後期に受かった」


 国立大学には前期試験と後期試験の2つの試験がある。たいていの人は前期試験で志望大学に入って後期はすべり止めとしてレベルを下げた大学を受けるはずだ。だから、前期と後期で同じ大学を受ける人はまずいない。だから、いっちゃんも別の大学だと思ったのに……。


「受かると思ったからな。だから同じにした」

「なんで私に教えてくれなかったの!」

「驚かせたかった。それに今日会えると思ったからさ」

「何よそれ!?」

「今日はエイプリルフールだろ? だからな……」


 一拍おいて、いっちゃんはにやって笑って得意顔で言った。


「落ちたと言ったな。でも後期で受かった。だから、あれは嘘だ」


 盛大な、今までで一番ショッキングな嘘。嘘をついても許される日につく楽しい嘘。


「この嘘つき! おにー!」


 すっごく嬉しくて、だまされたのがむかついたから思いっきり抱きしめてやった。

 周りの目なんて構うもんか!


「……ありがと」


 いっちゃんには言わない。どこかにいる嘘の神様にそっとお礼を言った。

こんにちは。古代紫です。

今回の作品は「ライアー☆企画」参加作品です。本当は4月1日に投稿なんですが、私の力が及ばず、遅刻してしまいました。


普段は地の文に力を入れる私ですが、今回は会話文を重視した軽めの作品にしてみました。いつものこい描写はありませんが、その分スラスラ読めるように仕上げました。

そして、「甘さ」です。この作品は言うならば……「中甘」って感じですねw 三段階「甘さ」評価の上から2番目ですw


お楽しみいただけたら幸いです。ありがとうございました。


ご意見ご感想お待ちしております。



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― 新着の感想 ―
[一言]  葵枝燕と申します。  『おにの嘘つき』、拝読しました。  私は今大学生なので、合格発表とか入学式前のオリエンテーションとか――そういうの思い出しました。二、三年ほど前なので、記憶も薄れてま…
[一言] こんにちは♪ とてもキュンとくる可愛いほたるちゃんと、それを受け止めて余裕のあるいっちゃんのやり取りの甘さにやられました♪ じゃれるような会話の応酬でもすんなりその状況が浮かんで、私はとて…
2015/04/03 17:46 退会済み
管理
[一言] 初めまして! 「ライアー☆」企画主催の神里です。 この度は、当企画にご参加くださりありがとうございました! 二人のアツアツぶりにきゅんきゅんしまくってしまいました~(*^^*) 素敵な作…
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