表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそリスベラントへ  作者: 篠原 皐月
第四章 御前試合開催

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/57

(5)晴れ男の真実

「何だ? 開始当初から、動きが随分あいつらしく無いな。さっきから逃げてばかりに見えるし」

 誰に言うともなしに疑念を口にしたルーカスに、セレナも心配顔で応じた。

「私も同感です。それに、かわし方も中途半端と言うか……。何やら攻撃を躊躇している感じがしますが……」

 そこで彼女を宥める様に、ウィルが口を挟んでくる。


「何分アイリ嬢は試合の勝手が分からないから、最初のうちはアンドリュー殿の攻撃をかわしつつ、様子を見ているんじゃないのか?」

「俺も最初はそう思ったが、何となく変だ」

「何かあの方達がこの試合で、よからぬ事を企んではいないかしら?」

 ジークも険しい表情で眼下に広がる競技場を見下ろしながら懸念を口にした為、セレナは益々狼狽したが、ここで前方からのんびりとした声がかけられた。


「それでは一つお聞きしますが、セレネリア殿。先程仰った『あの方達』が、よからぬ事を企んでいない時などあるんですか?」

「それは……」

 椅子に座った身体を捻って後ろを向き、からかい混じりに界琉が言ってきた言葉に、セレナは何も言い返せなかった。そんな二人を見て、ルーカスが幾分厳しい口調で、界琉を窘める。


「カイル殿、この様な場所で身も蓋も無い事を口にして、からかわないで貰いたい」

「失礼しました。事実を口にしただけなのですが」

 一応謝罪の言葉を口にして前に向き直ろうとした彼に、ルーカスはすかさず問いを発した。


「ところで界琉は、この試合をどう見ているんだ?」

 その問いに、界琉は再び背後に視線を向けながら冷静に問い返した。

「どう、とは?」

「何かおかしくないか?」

 鋭く問いを重ねたルーカスだったが、界琉の反応は淡々としたものだった。


「おかしいですが、ある意味予測通りですので。それこそ“あの方達”が、何やら小細工をしていると思われます」

「だったら!」

「観客席に居る私達には、何もできませんよ」

「それはそうかもしれないが!」

 思わず声を荒げたルーカスだったが、界琉はそのまま前に向き直り、代わりに悠理が背後を振り返ってルーカスを宥めにかかった。


「まあまあ、殿下。そう心配されなくとも、大丈夫だと思いますよ? 言っていませんでしたが、藍里はこちらに来る前に、基樹伯父さんから幾つかの策を貰ってきたみたいですし」

「来住氏から?」

 藍里同様、御前試合についての知識や経験が皆無の彼から策を貰っても、何の役にも立たないだろうとルーカスは不審に思って眉根を寄せたが、それを見た悠理は笑いを堪える様な表情になって、唐突に言ってきた。


「それでは殿下。ちょっとだけ気が楽になる情報を、教えて差し上げましょうか?」

「何だ?」

「藍里は晴れ女なんです」

 にこにこと、一見邪気の無い笑顔で言われた内容を頭の中で反芻したルーカスは、すぐに怒りを押し殺しながら低い声で言い返した。


「悠理……。こちらに来た時の翌朝の朝食の席で、確かにマリー殿がそんな事を言っていたのは聞いたが、それがどうかしたのか?」

「それで基樹伯父さんは、普通は晴れの日だけに出かけるんです。だから俺達兄妹が遊びに出る日も、伯父さんに予定を聞いて、それに合わせていたんですよ」

 それを聞いたルーカスは、イラッとしながら悠理を問い詰めた。


「だから、来住氏が晴れ男だったら、どうだって言うんだ!?」

「いえ、言いたい事は、単にそれだけなんですが。後はご自分でお考え下さい」

「あのなぁっ!!」

 とうとう堪忍袋の緒を切らして椅子から立ち上がったルーカスだったが、先程から何やら考え込んでいたセレナが、静かに彼に声をかけた。


「……ちょっと待って下さい、殿下」

「何だ!?」

 若干険しい顔で振り返ったルーカスに、セレナはまだ幾分迷いながら、慎重に自分の推論を口にしてみた。


「今の話……、来住氏が出かける日は、天気が必ず晴れと言う事ですよね?」

「そうらしいが?」

「かつ、晴れ女と言及したアイリ様とは微妙に違う言い回しをされたという事は……。来住様は『出かける日に晴れの日が多い』晴れ男の分類に入ると言うよりは、『晴れると分かっている日に出かける』とも言えませんか?」

 セレナがそう言い終えた瞬間、競技場の喧騒とは裏腹にその一角だけは無気味に静まり返り、次いでルーカス達は血相を変えて悠理に迫った。


「まさか……、来住氏が、予知魔力保持者!?」

「そんな稀少魔力の持ち主が、“外”に存在するなんて!」

「有り得ないだろう……」

 そこでルーカスは、大変重要な事柄に気が付いた。


「ちょっと待て、悠理。まさか来住氏は、今日の試合の結果まで分かっているのか?」

 それに悠理が、呆れた様に肩を竦めながら答える。


「殿下……、未来の可能性は幾つもあります。その中の最良の結果を掴む為に、術者は分かっている範囲で最良の策を提示しているに過ぎません。尤も、これは相手と確たる信頼関係が築けている事が大前提ですが」

「どうしてだ?」

 思わず不思議そうに尋ねたルーカスに、悠理は冷静に解説する。


「そうでないと、失敗した場合に『どうして上手くいかなかったんだ』と文句を言われ、成功した場合にも『もっと効果が出せる方法や、楽に達成できる方法があったんじゃないか』と疑われるからですよ。因みにこれは、ご先祖様の実話だそうです」

 それを聞いたルーカスは、思わず渋面になりながら確認を入れた。


「すると何か? 来住家には代々、その手の魔力が高い人間が生まれていたと?」

「かなり珍しいですがね。……うお、予想以上に白熱してるじゃないか。せっかくの衣装が、あちこちボロボロになってきたな」

 そこで前に向き直って競技場に視線を落とした悠理が、劣勢に立たされている藍里を見て能天気な声を上げた為、思わずルーカスは、相手の喉を締め上げたい衝動に駆られた。


「実の兄が言う台詞じゃ無いだろう!?」

「いや、この際本気で怒ってぶち切れて、全力でぶちかました方が良いと思うので」

「ダニエル、マリー! それで良いのか? お前達は娘が心配じゃ無いのか!?」

 悠理では話にならないと、ルーカスは試合開始から一言も声を発していない彼らの両親に声をかけたが、その反応はある意味予想通りだった。


「勿論、関係の無い怪我人は、なるべく出させない方向で待機しています。これは娘にも言い聞かせておりますので」

「あ、でも……、あの東側の固まっている辺りは、死人が出なければ、怪我人位出ても支障は無いわよね?」

「そうだが……、そこら辺を藍里に言い含めておくのを、すっかり忘れていたな」

「あの子ももう子供じゃないんだし、一々説明しなくとも、それなりに判断して上手くやるわよ。少しは娘を信用してあげて」

「そうだな」

 そこで顔を見合わせて満足気に微笑み合う夫婦に、ルーカスはたまらずこめかみに青筋を浮かべて怒鳴りつけた。


「それで納得するな!!」

 観客席でそんな議論の応酬がなされていた頃、競技場の中でも動きがあった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ