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ようこそリスベラントへ  作者: 篠原 皐月
第二章 青(ディル)を奪え
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(5)来住家の系譜

「そういえばお母さん、お父さんと界琉は?」

 唐突な問いかけに、万里が怪訝な顔をする。

「二人がどうかしたの?」

「さっきの話で名前が出て無かったけど、二人は『ディル』じゃないの?」

「あの二人は『ディル』じゃなくて、お父さんが『ミュア』、界琉は『ケイズ』よ」

 そうあっさりと説明されて、藍里は本気で驚いた。


「なんで一番下と、下から二番目!?」

「あら、そんなに驚く事?」

「だって、お父さんは離れた場所を繋ぐ扉を固定させて『辺境伯』って呼称を貰ってる位だし、界琉は兄弟の中で一番強いけど?」

 藍里にしてみれば当然の問いかけだったのだが、万里はただ微笑んだだけだった。


「お父さんの魔力は戦闘向きじゃないし、確かに界琉は素手や剣術だけなら相当強いだろうけど、魔術の行使と言う面から見たら大した事は無いのよ」

「そうなの?」

 万里はそこで、もの凄く疑わしげな視線を向けてくる娘からルーカス達に視線を移した。


「それでは明日から、娘の訓練を宜しくお願いします。取り敢えずは私の実家に話を通して便宜を図って貰いますので、放課後に藍里と一緒に出向いて下さい。藍里、皆さんを案内して頂戴ね」

「どうして伯父さんの家に行く必要が有るわけ? 伯父さんの家はリスベラントとは関係無いじゃない」

 益々変な顔になった藍里だったが、万里は平然としながら話題を変えた。


「リスベラントでは、聖リスベラの血筋や建国当初に特に力が強かった人達が興した家が爵位を持っていてね、伯爵家が四家、子爵家が十六家あるの。その二十家のうちから、代々のディアルド公爵家当主が輩出されているわ」

「ああ、実力主義で養子縁組するけど、代々縁続きって事ね」

 聞きかじっていた知識を思い返しながら相槌を打つと、何故か万里は含み笑いで話を続けた。


「それで十六家の子爵家のうちの一つに、ライデューっていう子爵家があるの」

「それが?」

「昔、かなり好奇心と探求心が強い方がいたみたいでね。十七世紀初頭、まだヨーロッパで魔女狩りの風潮が強かった頃、周りの反対を押し切ってリスベラントの外に出て、世界漫遊の旅に出たのよ」

「へえ? 確かに魔術が使えるなら、昔でも普通の人より危険性は少なそうよね」

「それで江戸時代前期に、日本まで到達しちゃったみたいでね。鎖国政策が取られる前に、ちゃっかり永住しちゃったみたい」

「……は?」

 いきなり予想外の事を聞かされた藍里は、目を見開いて絶句した。そして混乱している彼女に、万里が畳み掛ける。


「因みに私の実家の姓である『来住くるす』の字を音読みすると、何て読むかしら?」

「音読み? ええと、『ライ』と『ジュー』でしょ?」

「そうなのよ。『デュー』の発音に合わせる漢字が無かったみたいでね。結構適当なご先祖様ね」

 そう言ってころころと笑った母親に、漸く頭の回転が追いついた藍里が、恐る恐る確認を入れた。


「……ちょっと待って。まさか父方だけじゃなくて、母方もリスベラント人の末裔だったとか言わないわよね?」

「実はそうなのよ。だからご先祖様の中には、妙な力の持ち主が時々出ていたらしくて。藍里の聖紋は先祖返りにしても、母方父方両方からリスベラントの血を継いだから、出やすかったのかもしれないわ」

「勘弁して……」

 がっくり項垂れて額を押さえた娘に、万里の説明が続く。


「だから来住家では、初代来訪以来の記録の保持と、異能を持つ一族の人間を保護する為に、本国のディアルド公爵家同様、直系に拘らず代々一族の中で一番力が強い人間と養子縁組して、家を存続させて来たのよ。お陰で戦乱にも天災にも遭わずに、貴重な資料や財産が残っているわ。そもそも基樹兄さんは本当は私の従兄なんだけど、本家に養子に入った人なの。なかなか強いから、鍛えて貰って来なさい」

「……あの基樹伯父さんが? お母さんの実のお兄さんじゃなくて、本当は従兄?」

 寝耳に水の話を聞かされて、茫然と呟いた藍里に、万里は小さく笑ったのみだった。


「ええ。藍里にはこれまで見せていなかったけど、実家には代々の武具のコレクションもあるし、この際じっくり見て来なさい」

「分かったわ……」

 疲れた様に溜め息を吐いた藍里を見て苦笑した万里は、実家の兄の電話をする為に立ち上がって壁際へと向かった。そして電話の受話器を取り上げる彼女の背中を見ながら、ルーカス達が小声で囁き合う。


「実家の事も説明して無かったのか……」

「マリー様の力量は把握しているけど、さすがに来住家現当主の事までは……」

「ジーク?」

 ウィルから(知ってるだろう、説明しろ)と目線で訴えられたジークは、他の二人からも同様に訴えられているのが分かった為、この地で暮らしていた頃の事を思い返しながら答えた。


「自宅に道場があって、確かに剣道の腕はそれなりだったと記憶しているが、基樹さんがそれ程強いとは……。それにさっきの万里さんの口ぶりだと、基樹さんも魔力持ちって事なのか?」

 最後は自問自答しながら難しい顔になって呟いたジークに、思わずルーカスは抑えた口調で悪態を吐いた。

「グラン辺境伯夫妻は、揃ってカイル以上の食わせ者だという事だな」

 その呟きに、ジーク達は無言で頷いて、賛同の意を示したのだった。


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