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ようこそリスベラントへ  作者: 篠原 皐月
第二章 青(ディル)を奪え
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(1)不思議な関係

 実は一家揃って魔女の末裔だったと言う、衝撃の事実発覚から二日後。藍里は未だ完全に納得できてはいないものの、現状は現状として何とか受け入れる努力をしていた。

 そして相変わらず自分の護衛役として女装しているルーカスと共に下校しながら、少し離れた所で何やら物騒な物音が発生したのを感じた藍里は、さり気なく隣に声をかけた。


「ねえ……」

「何だ?」

「最近学校近辺、と言うかこの地域で、不審者が大勢見つかっているんですってね」

 片側一車線の緩やかなカーブが続く道路の端を歩きながら藍里が問うのと同時に、背後で何かが雑木林から転がり落ちる様な音が聞こえてきたが、ルーカスは振り返りもせずに歩き続けた。


「……銃火器や刃物を持ったガタイの良い男が転がっていれば、どう考えても不審者だろうな」

 どことなく棒読み口調の台詞に、藍里は思わず皮肉気に言い返す。

「どんな人が命令してるのか分からないけど、懲りずに物量作戦って頭悪いんじゃない?」

「正確に言えば、『どんな人』じゃなくて『どんな人達』だな。昨日は、絶好のポイントで別々に依頼を受けたスナイパーが鉢合わせして、場所取りで殴り合いをしてた所を一網打尽にしたそうだ」

「本当に、頭悪そう……」

 心底うんざりしながら藍里が項垂れると、ここで前方から急にスピードを上げて自分達に向かって突っ込んでくる車が目に入った。それに視線を合わせたまま、ルーカスが小声で警告を発する。


「おい、来るぞ」

「分かってる」

 この二日で随分肝が据わり、色々な襲撃に対する心構えができた藍里だったが、次の展開に目を丸くした。

「え?」

「あら?」

 何故なら二人の前方10メートル程の所でその車の右前方のタイヤがいきなりパンクし、大きく進路を外れて横の坂面に突っ込んだからだった。


「流石だな」

「三人とも優秀よね」

 周囲の民家や商店の者、居合わせた通行人やドライバーが、興味津々で大破した車に近寄って行くのとは裏腹に、藍里とルーカスは何事も無かったかの様に、来住家に向かって再び歩き始めた。

 そして無事帰り着いた藍里は、調理中の音と香りが漂う台所を覗き込みながら帰宅の挨拶をした。


「ただいま~」

「ただいま戻りました」

 藍里が若干疲労気味に、ルーカスが生真面目に声をかけると、とても四十代には見えない万里が料理の手を休めて、二人の方を振り向いた。

「お帰りなさい。お夕飯、ちょっと待っててね」

「は~い、着替えて来ま~す」

「ああ、それから、八時に界琉が昼休みを利用して、ここに顔を出すそうよ」

「え? いきなりどうして?」

 唐突にアルデインで官吏として働いている長兄の名前が出て来た事で藍里は本気で困惑し、ルーカスは若干顔を青ざめさせる。その二人の反応を面白そうに見やりながら、万里は息子の来訪理由を口にした。


「リスベラントでの藍里の処遇に関する今後の方針が決まったそうだから、その報告らしいわ」

「そうか……、向こうとの時差は八時間だものな……」

 思わず呻いたルーカスに視線を移した万里は、微笑みながら頼み込んだ。


「そういう訳ですからルーカス殿下、その時間にここに出向く様に、あの三人に伝えて頂けますか?」

「……分かりました。着替えながら連絡しておきます」

「お願いします」

「ふふっ、まさかジークに、堂々とこの家に来て貰う事になるなんてね」

 口調と表情は丁寧なものの、何となく力関係がルーカスより万里の方が上の様な気がして不思議に思った藍里だったが、母親の嬉しそうな呟きを聞いた途端、それ以上に困惑していた内容を思い出して母親を問い質した。


「そう言えば色々あって聞くのをすっかり忘れていたけど、ジークロイドさんって昔一緒に暮らしていたのよね?」

「そうよ。藍里ったら二年間纏わり付いてたのに、すっかり忘れちゃって。なんて薄情な子なの? ジークが可哀想よ。あんなに面倒を見て貰って、可愛がってくれてたのに」

 そこでわざとらしい泣き真似までして見せた母親に、藍里は引き攣った笑みを浮かべつつ答えた。


「へぇぇ? その二年間のアルバムから、彼が写ってる写真を抜いて小細工して、私に『こんな人がいたのよ』とか全く話してくれなかったお母さんが、そんな事を言うわけ?」

 しかし万里は、悪びれずに言い返す。

「だって、藍里にジークの話をしたら界琉が怒るもの。家庭内暴力勃発なんて、私嫌だし」

「どうして界琉が怒るわけ?」

「別れる直前、ジークが界琉を激怒させて、ボコボコに殴り倒したの。十二歳の子供同士で、一方的に攻撃して半殺しよ。そのあと徹底した情報封鎖の処置を取って、ジークの物をハンカチ一枚、写真一枚残さずに処分。我が息子ながら、本当に容赦無いわよね」

 そこで「はぁあ」とわざとらしく溜め息を吐いた万里に、藍里とルーカスは慌てて問いかけた。


「はぁあ? ちょっと半殺しって、お母さん!?」

「一体、ジークは何をしたんですか?」

 しかし万里は、悪戯っぽく笑っただけだった。

「内緒。聞きたかったら本人に聞いてね。ほら、もうすぐご飯ができるから、さっさと着替えてらっしゃい」

「……うん」

 このような母を問い質しても、のらりくらりとかわされるだけだと経験上熟知していた藍里は諦めて引き下がり、着替える為に台所を出て階段へと向かった。


「ねえ、ジークさんと界琉って、そんなに仲が悪いの?」

 斜め後ろを歩くルーカスに藍里が一応尋ねてみると、彼は難しそうな顔になって考え込む。

「いや……、険悪という感じではない。普通に共同で仕事とかもしているし。言われてみれば確かに、あの二人は顔を合わせる度に微妙な空気を醸し出してるが、一方的に界琉が静かに威嚇してて、ジークが懸命にそれを受け流そうとしていると言うか何と言うか……。一体過去に、何があったんだ?」

 本気で首を捻っているルーカスに、藍里は当面の問題を口にする。


「そんな二人を同席させて、問題は無いわけ?」

「お互い大人だし、さっきも言った様に周囲の空気が多少悪くなるだけで、殆ど実害はないから大丈夫だ。じゃあ俺は着替えてくから、後でな」

「ええ……」

 あっさりと割り切った様子で客間に消えたルーカスを見送った藍里は、自身も自室に入って着替えを始めたが、一向に謎が解決しない上、新たな問題が持ち上がった事で、少しも気が休まらなかった。


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