ベテガン
いまのところ、おっさんと獣のむさくるしい生活が続いているようです。
【名前】ヘルガ(バーン)
【種族】ホーンラビット
【レベル】24
【称号】森のハンター
【クラス】レア
【ジョブ】なし
【スキル】<真の右眼><打撃耐性・小><敏捷力UP・小><疾風突き>
【装備】祝福された革の胸当て
【主】ベテガン
【名前】ベテガン
【種族】ドワーフ
【レベル】38
【称号】頑固者
【クラス】熟練者
【ジョブ】鍛冶士
【スキル】<鍛冶Lv6><調合Lv4><土耐性・大><タフネス>
【装備】ウォーアックス、アイアンアーマー
【従属】ヘルガ(バーン)
俺は<真の右眼>で見た自分のステータスが、【仲間】ベテガンではなく【主】ベテガンだったことに愕然としていた。
俺は精一杯の反抗を試みる。
ベテガンが首輪を付けようとするのを<疾風突き>で逃げ回り、ごちゃごちゃだったベテガン宅内をさらにごちゃごちゃに引っかきまわす。
この間なんて、寝ているときに首輪をつけられ、首輪につながる鎖を引っ張られるので目がさめた。
もちろん俺は暴れ回り、倒したイスのカドを使って器用に首輪を外してやった。
ベテガンは家の外に「バーンの家」とプレートのついた真っ赤な小屋を作ってくれたが、それも使わなかった。
最近は外も寒くなってきたし、そもそも小屋のセンスがなさすぎる。
そんな風にドタバタすること1週間。
最近では、ベテガンも首輪と屋外の小屋は諦めてくれたらしい。
俺がずっと家の中にいるもんだから、今度は家の中に犬小屋のようなものをこしらえ、ふかふかの藁を敷いてくれた。
(なかなかいいが、あともうちょっとだな。)
今度はベテガンの枕と毛布を強奪し、屋内の小屋の寝床に置いて寝てやった。
「はぁ、ちっとも言うことを聞きゃせん。お前さんの破天荒なところ、嫌いじゃないがチト疲れたぞい。」
そういいつつもベテガンは、その日のうちに俺のサイズにあった敷布団と毛布を用意してくれた。
「これからの季節寒くなるからな。ウサギといえど、もしも寒いときはそれを使うんだぞ」
そう言って、ベテガンは自分の枕と毛布を取り返す。
(しょうがない。これぐらいで手を打ってやろう。)
ずいぶんと強気に出てる俺だが、やはりステータスは【仲間】ベテガンではなく【主】ベテガンだ。
毎日エサをくれるベテガンに甘え、モサモサ食ってるからかもしれない。
まぁいっか。
なんだかんだ言いながら飼われている俺であった。
それから1年が経った。
ベテガンと一緒にいて、彼についていろいろわかったことがある。
ある日酒を飲み、昔語りをしてくれた。
ベテガンは、若い頃ドワーフの村で鍛冶の修行に明け暮れていたらしい。厳しい鍛冶士の親方の下、下働きでお金をちびちびと貯め、ある程度貯まったところで村を飛び出したらしかった。
その後、人間や獣人が住むドドという大きな町に自らの工房を持ち、武器屋を開き、来る日も来る日も武器を創りあげ、それを売る。
途中ずる賢い人間に騙され、借金を背負うこともあったらしい。
それでも、なかなか良いものを売っているということで、店はそこそこ繁盛していたらしい。
店が軌道に乗ると、ベテガン一人では仕事が追いつかなくなり、下働きを何人か雇った。
みな若い鍛冶士で、ベテガンのことを師匠と呼び、よく働いてくれたらしい。そして、それらの後進に技術を教え、店をまかせるようになったベテガン。
ある程度手が空いたところで、また自分の鍛冶修行に打ちこんでいくことになった。
順風満帆の生活であったが、ベテガンは同じ鉱石ばかりを打つ修行に限界を感じ始め、よい鉱石探しのために工房を完全に弟子たちに任せ、各地を旅してまわったそうだ。
途中、エルフや人間の冒険者とパーティーを組んで旅をしたこともあるらしい。
そして、ついに魔鉱石なる希少な鉱物が採掘される場所を見つけた。
しかし、行ってみると人間たちが取り仕切っていて、個人では採掘ができないとのことだ。
それらの人間から魔鉱石を買い取ってもいいのだが、これら魔鉱石はべらぼうに高かった。
諦めず、採掘場の周りをつぶさに調べたベテガン。
採掘場から西に3時間も行ったところに洞窟があり、その奥で魔鉱石が採掘できることを発見した。
洞窟の入り口に居を構え、作業場を作り、魔鉱石を採ってきては精錬し武器防具を作るようになった。
逆に言うと、ベテガンの足で3時間も東に行けば、たくさんの人間が働く採掘場がある。そこからは細い馬車道が続いており、近くの町ルアーナまで運んでもらえるんだそうな。
ベテガンは1ヶ月に1回ぐらいの頻度で3日間程度家を空けることがあった。
造ったアイテムを持って町に出かけ、大量の食料と生活用品に変えて帰ってくるのだ。
「大丈夫とは思うが、逃げるんじゃないぞバーン。また三日したら帰ってくるからな。」
そう言って、ベテガンは俺のエサをたっぷり残していってくれたし、買って帰ってくるものの中には俺の分のエサもちゃんとあった。
ベテガンが側にいたところで、人間が俺に襲ってこないとは限らないため、俺は素直に毎回留守番をしていた。
ベテガンの修行は順調にみえ、売れば高そうな武具をたくさん造っていた。
それに、俺に対してもベテガンは優しく、モンスターということを忘れ本当にペットを飼っているようであった。
俺はというと、のらりくらりとやっていた。
エサの心配がなくなったので、一日家にいることもあった。
たいていは狩りに出かけ、飽きたら帰る。
家に帰ってもベテガンは作業をしていることが多いため暇なのでまた狩りに出かける。
たまに洞窟の奥に採掘しに行くベテガンについていくこともあった。
しかし、洞窟内にはほとんどモンスターが出ることはなく、洞窟の奥でひたすら採掘する作業は待っている身としては退屈であった。
それでも護身用のためかベテガンは俺と一緒に行動したがったが、俺は付いていってやることもあれば逃げることもあり、自由にやっていた。
何度かベテガンと一緒に森の果物を取りに行ったり、木材を伐採しに行ったこともある。
途中、森の中で芋虫はもちろん、鴉や大蛇と戦うこともあったが、二人(正確には1人と1匹)の力を持ってすれば敵ではなかった。
ベテガンは魔法を使えず、弓も苦手なため、遠距離攻撃は苦手であった。
前方に敵を見つけると、まず俺に襲わせ、敵をひきよせる。
俺は敵に追われたり、逆に敵を追い詰めたりしながら、ベテガンの前まで帰ってくる。
ベテガンは敵が近づいてきたところを、ウォーアックスで一刀両断。
こんな感じで連携をとることが多かった。
三頭蛇に襲われていた時が嘘のようにベテガンは強かった。力任せの破天荒な戦い方は決して真似できない。
ゴブリン3匹に囲まれたとき、ほとんど一人で倒したこともあった。
さすが冒険者として旅していただけある。
巨大蜘蛛に遭遇したときも、逃げることなく二人でなんとか打ち倒したこともあった。
そのときは二人ともボロボロにはなったが、順調に俺のレベルが上がった今ならもう少し苦もなく倒せるかもしれない。
ベテガンは回復魔法が使えないため、薬草と毒草は重宝しており、出かけるときは必ず持ち歩いていた。
また、三頭蛇は<マヒ攻撃>が恐ろしいため、なるべくやり過ごすようにしていた。
ベテガンがいない時、俺は家にある毒消し草を拝借し、角に毒消し草を刺して持ち歩いては大蛇を狩っていた。
これなら大蛇に噛まれて毒になっても大丈夫だ。
一人のとき三頭蛇やゴブリンに遭遇することもあったが、文字通り脱兎のごとく逃げ出した。
三頭蛇には勝てるかもしれないが<マヒ攻撃>を持っているため、一人で行動するときに食らえば身動きできず死んでしまう可能性がある。
その点、大蛇は<毒攻撃>しか持っていないため安心して狩ることができた。
そうやって、戦いに明け暮れる、とまでは行かないまでも、のんびり狩りをする毎日だった。
ノルマなんて無いため、気楽なもんだ。
なんだかウサギライフを満喫し始めたある日、ベテガンが俺にプレゼントをくれた。
「ようやくこれを造れたぜ。材料の毒が集まらなくて中々苦労したが、この間ルアーナに買出しに行った時売っててな。高かったが思わず買っちまったぞい。」
そう言って、ベテガンが見せてくれたのは破毒のイヤリングなるもの。
「ワシの分だけじゃなくて、お前の分までこしらえてやったからな。ありがたく思えよ。これで毒草を角に刺して持ち歩くなんて器用な真似しなくても楽にならぁ」
ベテガンは無理矢理ブスッと俺の耳にイヤリングをつけた。
「クーーー!!(痛てーーー!!)」
「そうかそうか。そんなに喜んでくれるのなら鍛冶職人冥利に尽きるってもんだ。」
ベテガンはニコニコ満足そうに俺の頭を撫でている。
【名前】ヘルガ(バーン)
【種族】ホーンラビット
【レベル】42
【称号】森のハンター
【クラス】レア
【ジョブ】なし
【スキル】<真の右眼><打撃耐性・小><敏捷UP・小><疾風突き>
【装備】祝福された革の胸当て(ダメージ20%減)、破毒のイヤリング(完全毒耐性)
【主】ベテガン
これは結構よいものなんじゃなかろうか。
たしか転生時のボーナス一覧に<毒耐性>20ポイントとあった気がする。
つまりこれは、クリアポイント20ポイントもらったようなものじゃないか。
LV20上がったようなものか。ちょっと違うかもしれないけど。これはおいしい。
その日から俺はベテガンにちょっとだけ優しくなり、ベテガンが作業場にいるときは物欲しそうな目で装備をねだる日が続いて。
しゃべれない俺に対して、ベテガンがその気持ちを汲めるはずもなく、結局新たな装備おねだり作戦は不成功のままであった。
それからさらに1ヵ月後。
破毒のリングを手に入れ、毒草を持ち歩かなくてもよくなった俺は、次に水筒を持ち歩くため努力していた。
ウサギの体にも慣れ、だいぶ角を器用に扱えるようになっていたが、それでも大変な作業であった。
水の入った水筒をひも付きのズダ袋に入れ、そのひもを自分の角に引っ掛け巻きつけて、とうとう水筒を持ち歩くことに成功した。
(これで遠出できるぞ!)
俺はまだ見ぬ未探索地域を冒険しようとしていた。
そうだ、ベテガンは誘ったら付いてくるだろうか。
試しにベテガンの服をくわえて引っ張ってみる。
「クーン。クンクンクーン。」
「元気だなバーン。エサなら向こうに置いてあるからな。もりもり食ってもっと大きくなれよ。そうだな・・・もっと大きくなれば鞍をつけてワシを運べるようになるかもしれんぞ。楽しみにしてるからな。わっはっは。」
「クーン(それは無理だろ・・)」
そんな感じで、話の通じる相手ではなかったため、今回ベテガンはお留守番だ。
俺は意気揚々と西へ向かって進んでいた。
道中であったモンスターは多かったが、一人でも鴉や大蛇なら倒すことができた。
鴉はなかなか攻撃を当てるのが難しいが、下降して攻撃してきたところを横っ飛びにかわして、すかさず<疾風突き>。これで大抵は絶命する。
芋虫は、相手をするのも面倒だと素通りすることも最近は増えてきた。
ゴブリンや巨大蜘蛛と遭遇することもあったが、なんとか逃げ出す。
このホーンラビットという種族、スタミナはそこまでないが瞬発力がある。すばしっこいため、逃げようと思えばまず捕まることはなかった。
(そういえばスライムのときにスラ吉ともどもホーンラビットに殺されたのは一瞬だったな。ダッシュの速い種族だったんだなぁ・・。)
順調に西へと冒険を進め2日目の夕方。
ベテガンも心配しているかもしれないし、水筒の中身も減ってきた。そろそろ帰ることも考えようと思い始めたとき、俺は見つけてしまった。
ゴブリンの集落だ。
見ればゴブリンがうじゃうじゃと20匹ぐらいはいるだろうか。
(こんなのが近くにあったなんて・・。最近移動してきたのだろうか。ベテガンと二人では掃討できるかも怪しい。ここはなんとかベテガンにこいつらの存在を知らせ、採掘場か町の者らと協力して追い払わなければ。)
そう思い、俺がゴブリンの数を正確に数えようとしていると・・。
ドスッ!!
(痛っ!!)
急に俺の脚に矢が飛んできて刺さった。
飛んできた方をさぐると、森の中から弓をかまえるゴブリンの姿が見える。
(くそっ!気が付かなかった。まずい、逃げなくては。)
薬草もなにも持っていない俺は、矢が刺さった脚を引きずりながら必死で逃げた。
さっきのゴブリンが仲間を引き連れてこちらへやってくる。
必死で逃げる俺。
その後、<疾風突き>を繰り返し何度もゴブリンの矢をかわす俺。
しかし、いつもよりもスピードが出ない俺は、後方にいる数匹のゴブリンを引き離せずにいた。
距離は縮まることもなければ開くこともない。
俺は命がけで走って逃げる。
そして、とうとうゴブリンの矢が俺の首を貫いた。
(ああ・・ベテガン。勝手に遠出した俺が馬鹿だった。
ごめんよ・・・・・・帰れなくて・・・。
ベ・・テ・・・・・・・ガ・・・・・・・・・・)
「素早イヤツダッタ・・・・・・」
そう言って近づいてきたゴブリンの1匹が、動けなくなった俺にナイフでトドメを刺し、そこで俺の意識はなくなった。
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ゲームオーバー。
ヘルガ(バーン)(Lv43)はゴブリンレアに倒されました。
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