洞窟での出会い
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【名前】ヘルガ
【種族】ホーンラビット
【レベル】20
【称号】駆け出し
【クラス】レア
【ジョブ】なし
【スキル】<真の右眼><打撃耐性・小><敏捷UP・小><疾風突き>
【装備】祝福された革の胸当て
【仲間】なし
北へ。
俺は当初の目的どおり、最初のねぐらから川沿いにひたすら北へと進んでいた。
俺は辛抱強く、出会った芋虫を狩りつづけながら、ただただ北へ向かった。
(この森は広いな。いや、俺が小さいのか・・・。)
スライムよりマシとはいえ、この小さい獣の足では、なかなか先に進んでいないように思える。
しかもところどころで鴉を避けて行くものだから、歩みは本当に遅かった。
道中にはモンスター以外の鳥やリス、なかには熊などの動物の姿もあった。
ホーンラビットの体でモンスターではなさそうなウサギに近づいたところ、逃げ出されてしまった。おなじウサギでも仲間意識はないようだ。
そして、とうとうねぐらをでてから3日目の昼ごろ、平坦な道も終わりを迎えた。
岩肌をむき出しにした崖が前方にそびえ立つ。5m以上はありそうだ。
仮に人の手だとしても簡単に登ることはできない。
崖は東西にずっと続いており、見える範囲では途切れがなかった。
右か左に大きく迂回すれば、この先に行けるのだろうか。
よくみると崖には洞窟があり、川はそこから流れてくるようだった。
そして、近づいてみると、洞窟の近くに家がある。
(あれ、こんなところに誰か住んでいるのか。)
家はそこそこ大きく、木造と一部レンガ造りのしっかりとしたものであった。レンガの煙突からは煙が見える。
家の北側にはさきほどの大きな崖がそびえており、すぐそばには川が流れる。家の周りには切り株がちらほら見え、森を開拓したような跡がうかがえた。
おそるおそる近づいてみたが、とくにどうということはない。
あたりには人影も見えない。
家の窓から中を覗こうとしたが、どうやらウサギの体では窓まで届かない。
今度は木造りのドアの前までやってくる。
中から音はまったく聞こえない。
軽くドアに体当たりすると、ギィッとうるさくドアが開いた。
(お、開くぞ。・・やりすぎたかな。)
気配はないが、もしも中で人が寝ていて、今ので目覚めたらと思うと恐ろしい。
モンスターのウサギである自分では、まだまだ人間たちに勝てる気がしない。
おそるおそる中をのぞいてみる。
中に人の気配はない。
不安に好奇心が勝って、家の中を探索してみる。
カーテンなんて洒落たものはなく、家の中は外からの日の光がほどよく差し込んでいた。
家の中は居住スペースと作業場のようなスペースの二区画に分けられていた。
居住スペースには、テーブル、イスが一つずつ。棚の中の食器も多くはない。
それと普通サイズのベッドが一つ。家具のほとんどは木製でできていた。
食料棚なんてものもあり、ここにはパンやリンゴ、白い粉、よくわからない草などが並んでいた。
<真の右眼>の能力を使うと、白い粉は小麦粉や塩、草は薬草などであることがわかった。
作業場スペースに入って、まず目についたのが大きな炉だ。レンガに囲まれて、今も火がかかっている。近くには作業台、大量に山積みにされた鉱石、水がなみなみ入った大きな桶などがある。次に目についたのが雑然と壁際に並べられた武器や防具だ。ロングソードやスピアーなどの武器と、バックラーやアイアンヘルムなどの防具だ。
鉄製のハンマーやハサミ、木製のふいご(燃焼を促進するのに空気を送る装置)などが転がっているところを見ると、ここはどうやら鍛冶場のようだ。
家具の数からいって住人は1人だろう。
人間か、はたまたゴブリンか。
こんな辺鄙なところにわざわざ人間が住んでいるとは考えにくい。
アイアンヘルムの細かい造りを見ていると、ゴブリンがここで造ったものとは考えにくい。
それとも、この世界のゴブリンはこんな器用な真似ができるというのか。
オークはもっと南で見ることが多かったが、ここに住んでないとは言いきれない。
俺はそれから、ひとしきり家の中を探索していた。
さらにいくつか気がついたことがある。
ひとつ。家の中にはコップやタオルなどの道具が雑然と散らばっていて、掃除というものがまるでなされていないようだった。一応、転がっている手袋は5本指のものだ。
ひとつ。この家には本が全くないということ。ここの主は知的なものではないのだろうか。
ひとつ。靴がないこと。どうやら今は留守にしているらしいが、いつ帰ってくるのだろうか。
ひとつ。ウサギの俺に装備できそうな武具はひとつもなかったということ。
わざわざ洞窟の近くに家を建てているということは、あの洞窟に何かあるのだろうか。
俺は家を後にし、すぐ近くの洞窟へ向かった。
洞窟の真ん中には川が流れており、その両側に道がまっすぐ奥まで続いていた。
左右の通路のうち、俺は左の通路を選び、奥へと入っていった。
薄暗く、あまり奥へ行くと何も見えなくなりそうだ。
何も見えなくなったり、道が途絶えたりしたら引き返そう。
そんなほぼ無計画な計画を立てながら、それでも10分ぐらいはピョコピョコ移動しただろうか。
(遠くに明かりが見える!)
なにやら奥に見える明かりの方から「どりゃーーー!」とか「くそったれーー!」とかの汚い怒声が聞こえる。
もちろん俺は引き返すなんてことはせず、好奇心のまま慎重に近づいていく。
(人間だ!)
カンテラの明かりの中、斧を持ったチビでガッチリした体格のおっさんが、巨大な三つ頭の大蛇と戦っているのが見える。
三頭蛇は今までみた大蛇に似ているが、大蛇とは比較にならないぐらいとても大きな個体だった。
<真の右眼>でまずはおっさんを観察してみる。
【名前】ベテガン
【種族】ドワーフ
【レベル】37
【称号】頑固者
【クラス】熟練者
【ジョブ】鍛冶士
【スキル】<鍛冶Lv6><調合Lv4><土耐性・大><タフネス>
【装備】ウォーアックス、アイアンアーマー
【状態】毒
【仲間】なし
<タフネス>強靭な生命力により、致死的ダメージを受けてもHP1で生き残ることがあります。
ドワーフだったのか。
熟練した鍛冶士ということは、さっきの家はあのおっさん(ベテガン)の家ということで間違いないだろう。
対する三頭蛇は。
【種族】トリプルスネーク
【レベル】24
【クラス】レア
【スキル】<毒攻撃><マヒ攻撃>
今までのダブルスネークの上位種だろう。
それだけでも強さは未知数なのに、クラスはノーマルよりも上のレアだし、スキルの状態異常攻撃も強そうだ。
なるほど。おっさん(ベテガン)の状態が毒になっているのは、あの三頭蛇のせいだろうか。
見ると、ベテガンは肩で息をして、とてもつらそうだ。
対する大蛇は、その細長い舌をピロピロと出し入れしながら、獲物を追い詰めるようにジリジリとベテガンを追い詰める。
「なめるなよ!お前ごときにやられるワシではないわ!!」
ベテガンは斧をぶんぶん振り回し、必死に間合いを取ろうとする。
その合間をぬって、三頭蛇の真ん中の頭が正面からベテガンに襲いかかろうとする。
なんとか斧を盾がわりに受け止めるベテガン。
そのベテガンの横っ腹を三頭蛇の左の頭が襲いかかる。
両手が斧でふさがっているベテガンは、その巨大な三頭蛇の左頭に、なんと頭突きをくらわせた。
思わずヨロヨロする三頭蛇の左頭。
そこに、残った最後の三頭蛇の右頭が容赦なく襲いかかる。
避けられない!
ベテガンは三頭蛇の攻撃を右の腹にまともに食らい、左の岩肌に強く叩きつけられた。
俺は思わず飛び出し、ヨロヨロしている三頭蛇の左頭に<疾風突き>を繰り出した。
今まで体験したこともないようなスピードで、体全体が剛速球で敵に突っ込んでいく!
あまりの速さのため、空気の圧力が俺に襲いかかる。
(息ができない!)
しかし、それも一瞬で、気がつくと俺の額に生えた角が三頭蛇の頭を深々と刺していた!!
(1つ仕留めた!)
「ぎゃあああああ」
三頭蛇の体全体がのたうちまわっている。
「な!」
突然の俺の出現に、倒れているベテガンが俺の方を驚愕の顔でみている。
どうやら生きているようだ。
俺はそれに答えず、三頭蛇のスキをつくため、全力疾走で敵に向かって走っていた。
三頭蛇が体勢を取り直し残った二つの頭で反撃しようとするのと、俺の<疾風突き>が発動したのは同時だった。
<疾風突き>のあまりの速さに、三頭蛇の頭はゴツゴツした地面を叩くだけの結果となり、俺の角は三頭蛇の本体を深く刺していた。
(よっしゃ!俺の方が速い!!)
再度のたうちまわる三頭蛇。
そこに起き上がって体勢を取り直したベテガンの斧が炸裂する。
斧は3回叩きつけられ、三頭蛇の3つの頭はすべて切断された。
(勝った・・)
三頭蛇に勝てたのは、不意を突いたからだし、ホーンラビットとの相性がよかったのもあるかもしれない。ベテガンがどれぐらい三頭蛇の体力を削っていたかも分からない。
実はけっこうラッキーだったのかもしれないな・・。
そんな感じで俺が勝利の考察をしていると、突然ベテガンが襲ってきた。
「とりゃ!!・・・・・・くそっ、外したか。」
俺はびっくりして、慌てて洞窟の入り口の方へ逃げる。
「逃げるな!お前みたいなモンスターを逃しては、安心してオチオチ寝てられん。・・ワシと戦え!!」
(無茶いうなよ。誰が戦うかっての。ちぇっ、せっかく助けたっていうのに恩知らずなおっさんだな。)
「待てぇ!」
俺は100mぐらい距離をとり、ふとおっさんの方を振り返った。
(あれ、遅い。)
見るとおっさんはよろよろ斧を杖がわりにして歩いている。
相当体力を消耗しているらしい。
さっきの三頭蛇との戦いで大きくダメージを食らい、そのうえ毒状態なんだ。
威勢はいいが、ボロボロだろう。
「お、思うように体が動かん・・。くそっ。こんなところでくたばってたまるか!うおおおお!!」
(あ、倒れた・・。)
ベテガンは前のめりに倒れてしまった。
しばらく見ていた俺だが、ベテガンは動かない。
<真の右眼>によると、まだ死んではいないようだが。
近寄ってみても、肩で息をするだけで襲ってこない。
ただ憎々しげにこちらを見つめるだけだ。
(やばい、死にかけてる。)
俺は慌てて洞窟前のベテガン宅に戻る。
何回かぴょんぴょん跳ねながら、居住スペースの棚にある薬草と毒消し草を器用に角に突き刺すと、また慌てて洞窟内のベテガンのところまで戻る。
(あのおっさん死んじまってないだろうな。)
<疾風突き>のスキルを使えば速く移動できるのではと思い試してみるも、連続しては使えないらしく、あまり意味はなかった。
むしろ疲れるので、おっさんのところまで体力が持ちそうもない。
俺は素直におっさんのところまで走る。
かくしてベテガンは生きていた。
薬草と毒消し草がたんまり刺さった角を目の前につきつけると、ベテガンはゆっくりした動きで素直にそれを受け取って食べた。
「ふぅ・・。助かったぜウサ公。お前、ワシの命を助けてくれたんだな・・。」
ひと息ついたベテガンは、目を細め、こちらを見やる。
「ふむ、お前には何かお返しをせんといかんな。よし、ワシに付いてくれば美味いものを食わしてやるぞ。付いてこい。」
そう言うやいなや、ベテガンは地面に転がっていたカンテラを手に、自宅に帰り始めた。
ちょっと迷った末、俺は後をついていく。
(よし、ドワーフを見たから、ドワーフになるための開放条件を満たしたぞ!クリアポイントはいくつ必要なんだろうか。)
そんなことを考えていた。
家につくと、ベテガンは肉とか魚とか果物をどっさりくれた。
それらはとても美味しく、芋虫以外の食事をしたのは久しぶりだった俺はしばらく幸福感に浸っていた。
「それにしてもホーンラビットとは珍しい。しかも赤毛とはの。お前さんの群れはここより東の方にいることが多いんじゃぞ?」
もちろん人語など話せない俺は、ベテガンの話に聞き耳をたてるだけだった。
ベテガンは半ば独り言のようにぶつぶつ言っている。
「群れからはぐれたか。迷子か、はたまた俺のようなはぐれものか。それにその上等な胸当てはどこで手に入れたのかの。・・・・いずれにせよ気に入った!お前さんは今日からワシのペットじゃ。小屋を作って首輪をしてやるからな。どこにも逃げるんじゃないぞ!そうと決まったら・・・ぶつぶつ」
(冗談じゃない!助けた恩返しに首輪でつながれるなんて!!)
「うむ、いい名を思いついたぞ。炉の炎が燃え盛るかのような赤毛だから。お前さんの名前は今日からバーンだ!!赤毛ウサギのバーン。今日からよろしく頼むぞい!」
「クーー」
「そうかそうか。気に入ったかバーン。そうと決まったら逃げないように首輪をこしらえにゃ。小屋は何色がいいか?真っ赤な色にしてみるか?はっは、楽しくなってきたな、おい」
「クーーー!!」
(おいおい、勝手に盛り上がってんじゃねえよおっさん。いま飲んでんのは何だ?酒か!?さっき死にかけてたのによく飲む気になれんな。大人しく寝てろよ死に損ない!)
・・・こうして俺とはぐれドワーフのおっさんの奇妙な共同生活が始まった。
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グリーンキャタピラ、トリプルスネークを倒したことによりレベルが上がります。
ヘルガ:Lv20→24
称号が駆け出しから森のハンターに変わります。
ベテガンがヘルガの主となります。
ベテガン:Lv37→38
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