角兎
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【名前】ヘルガ
【種族】ホーンラビット
【レベル】1
【称号】生まれたて
【クラス】ノーマル
【ジョブ】なし
【スキル】<真の右眼><打撃耐性・小>
【装備】なし
【仲間】なし
目覚めると俺は角の生えたウサギだった。
額から伸びる角は小さく、自分が生まれたばかりであることがわかった。
しかしモンスターはすごいな。
生まれたばかりだというのに、もう動くことができる。
そうやって、俺がキョロキョロ見回していると、ここが森であることがわかる。
柔らかな日差しが高く茂った葉と葉の間から柔らかく差し込んできているのがわかる。
どこの森だろうか。
スライムとして死んだ森と同じところだろうか。
いや、世界はもっと広かろう。きっと違うところだろう。
こうなると<ワープ>のスキルはいかに重要かわかる。
既に知っているところを探索するのと、右も左も分からないところを探索するのでは雲泥の差である。
母親ウサギはいないのだろうか?
産んだらすぐにハイ、さようならってか。
それとも転生した際には親などいないものなのだろうか。
俺がキョロキョロあたりを見回していると、近くに何かが転がっているのが見える。
なんだ??
近寄ってみる。
これは・・胸当て!!
人間のサイズよりもかなり小さい胸当てであったが、さすがにこの身体には大きすぎる。よく見ると胸当ての淵には細かくビスのようなものが打たれ、縫いとめられている。裏には自分には読めない文字が刻まれ、触るとボゥっと赤く光った。明らかに人の手が加えられていると思われるそれは、きっと女神からの贈り物だろう。
しかし自分には大きすぎて使い物にならない。かといって<インベントリ>のスキルもない自分では持ち歩くこともできない。
女神も案外おっちょこちょいなところもあるもんだな。
ふふ、と笑う俺。
ひとまずどこかに隠しておくか。
そうやって、ぶかぶかで大きすぎる胸当てを肩にかつごうとした時だった。
シュウウウウゥッ。
なんと、胸当ては自分の身体のサイズにぴったりになるまで縮小したではないか。
びっくりして俺は目を見張る。
【装備】祝福された革の胸当て
祝福効果:ダメージ20%減
おっちょこちょいとか言ってごめんよ女神・・。
「ク~~~~ン!」
人語が話せぬ俺は、ただ一声大きく鳴いた。
女神には聞こえているだろうか。
さて、Lv上げだ!
できれば上位モンスターも見つけたい。
おっと、その前に住処や食料集めか。
右も左も分からない俺は、適当な方向に移動し始めた。
歩きながらふと考える。
ところで、このウサギの体は何を食べるのだろう。
草だけ食んでいれば保てるのだろうか。
ためしに近くの雑草を口に入れ食べてみる。
はむはむ・・・。
・・・うぇー、まじぃ。
ぺっぺっ。
ウサギの体で食べてもこれはただの雑草だ。全然おいしくない。
食べられる草とそうでないものがあるのだろうか。
生きるため食えと言われれば雑草を食うのもしょうがないかもしれないが、雑草ばかり食う冒険は正直御免こうむる。
スライムのとき食べたバッタですらここまで不味くはなかった。
そういえば、あのグリーンキャタピラは美味だったなぁ・・。
あいつはここらへんにいるだろうか。
歩くこと20分。
かなり遠くだが、大きなカラスが木の枝に止まっているのを見つける。
その目は一つであり、赤く禍々しく光って見える。
【種族】ダーククロウ
【レベル】7
【クラス】ノーマル
【スキル】<夜目>
あいつは格上に違いない。体格が全然違う。
今が昼でよかった。
もし夜であったなら、俺がみつける前に向こうが見つけていただろう。
<鷹の目>のスキルも早くほしいな・・。
逐一遠くを見ながら歩けば、天敵から逃げるのも獲物を探すのにも有利だ。
俺は見つからないように進路を右に変え、足早に逃げ出していた。
そうして、またしばらく歩くと今度は芋虫を前方に見つけた。
見える範囲では、どうやら1匹だ。
こいつらは群れることはないのだろうか。1匹でしか見たことがない。
どうやらこちらにはまだ気づかず、みれば新芽を食べているようだった。
【種族】グリーンキャタピラ
【レベル】3
【クラス】ノーマル
【スキル】<回転攻撃>
襲うべきか襲わないべきか。
種族としては格下だろう。
勝てないことはないかもしれないが、こちらはどれだけの被害をかぶるか分からない。
回復手段もない。
安全に休める寝床もない。
モンスターと戦い、弱っているところをまた別のモンスターに狙われたらひとたまりもないだろう。
しかし、こいつが食べられるかどうか試してみたい気持ちもある。
食料問題は死活問題だ。
逃げ回れば逃げ回るほど腹は空く。
慎重さは大事だが、最悪死んでもペナルティはないからな。
もっと積極的に活動してもよいのかもしれない。
悩んだ末、俺は芋虫に奇襲をかけることにした。
いくぞ!芋虫。
俺は突進して、自身の額から伸びる小さな角を渾身ぶつける。
突然飛び出てきた俺に、芋虫は向き直る間もなく体当たりをもろに受ける。
やった。
弾きとばされた芋虫は、よろよろしながらも体勢を立て直し、こちらへローリング攻撃をしかける。
それを難なくかわすと、さらにもういちど角で突いた。
芋虫は絶命した。
弱いっ!
というか、こちらが強いのか。
スライムに比べてウサギの体のなんと速いことか。
こちらはほぼ無傷で難なく倒せてしまった。
これが種族の差か。
俺は芋虫にかみついて、おそるおそる食べてみる。
美味い!
やはり芋虫はウサギの体でも美味かった。
そんな感じで芋虫を食べ終わると、俺は満足しながら、また当てもなくフラフラと森の中をさまよい移動しはじめた。
途中5匹ぐらいの芋虫に遭遇した。
いずれも弱く、ほとんど相手にならなかった。
なかには2匹で連れだっている芋虫にも遭遇したが、かまわず捕食した。
途中1回だけ、ローリングアタックをくらってしまったが何ということはなかった。
<打撃耐性・小>スキルのおかげか、はたまた「祝福された革の胸当て」のおかげか。
なんにせよ、ほとんど危うげなく、俺は狩りを続けた。
最初に目覚めたところから2時間ぐらいは歩いただろうか。
俺は小川をみつけた。
やった!ついてるぞ!
俺は喉の渇きを癒すと、一息つく間もなく上流を目指して移動を続けた。
だんだんと日が陰ってきた。
日が沈む前に住処となるようなところを探したい。
このまま川沿いに移動しながら寝床を探し、そこを拠点とする。そうすれば水を探すのには困らなくなる。
しばらく歩くと、ちょっと大きな大木が見える。
見上げても、てっぺんなど見えはしない。
川のすぐ近く。
ここでいいか。まぁ悪くない。
そろそろ日も沈みそうだ。
俺はその木の根元を、なんとか身ひとつが隠れるぐらいまでにせっせと穴を掘ると、葉っぱを敷き詰めた。
とりあえずの寝床だ。贅沢は言ってられない。
そんな作業をしていると、気づけば夜が来ていた。
この体ではあまり夜目は利かないようだ。
さっきの鴉があたりにいるかもしれない。
夜に活動するのは控えよう。
俺は一息休むと、さらに穴の奥を大きく広げ、穴の入り口を狭くする。
空気穴だけ空けておこう。
土の中のせいか、自身の毛皮のせいか、そんなに寒くない。
俺は比較的方向音痴だからな。
きっと初めに目覚めたところには戻れないだろう。
それでも別にかまわない。
しばらくはこの木を目印として、ここを拠点に動くべきだ。
本当はもう少し目立つところがよかったが、まぁ初日から飛ばしすぎることもない。
今後はまず、芋虫を中心に狩りを行うべきだろうか。
先は長いなぁ。
さすがマゾゲー・・。
そんなことを考えていると急に眠気が・・
俺はいつのまにか本格的に眠りについていた。
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グリーンキャタピラを倒したことによりレベルが上がります。
ヘルガ:Lv1→5
<敏捷UP・小>を覚えました。
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