女神様のチュートリアル
お越しいただきありがとうございます。
今回説明くさく、長くなってしまいました。
分かりづらいところ、誤字・脱字、感想などがありましたらメッセージくださると幸甚です。
・・・目覚・・ださい、・・・様。
・・お目覚め・ださい、・・ガ様。
誰・・よびかけるのは・・。
気づくとそこは神殿だった。
白い柱で構成されるそれは、どこかパルテノン神殿を彷彿とさせるような造りだ。
「よかった、お目覚めになられたのですね、ヘルガ様」
目の前には美しい女性が立っていた。
整った顔立ちで心配そうにこちらを見つめている。
白いローブをまとい、白い髪をウェーブさせ、手には銀の杖を持っている。
しかし、外人さんは綺麗だな。映画の中でしか見たことないよ、あんなに綺麗な人。
そんでもって背中からのあの天使のような羽はなんだろね。
飛ぶのかね、あれで。まさか。
現実離れした光景に、俺はやっぱり夢だと思っていた。
「いや、人違いですから。」
そっけなく返事をして、あたりを見回す。
そう、人違いだ。残念ながら、あんな綺麗な女性の知り合いはいない。
さて、ここはどこの夢だろう。
俺は・・というと。
あれ、人間だ。
しかも白い簡素な服に、大きく赤い布を肩や腰に巻きつけた出で立ち。
なんじゃこりゃーー!
どこのアリストテレスだ!!
「あ、頭くらくらしてきた・・」
「きゃあっ、大丈夫ですかヘルガ様?」
思わずクタッとなってしまった俺に、目の前の美女が駆け寄ってくる。
「いや、だからヘルガ様じゃないですから。誰なんですかそれ?」
俺はもう苦笑いするしかなかった。
「ヘルガ・・様・・」
目の前の美女が両目をとじ、一筋の涙がこぼれるのを俺は見逃さなかった。
!?
「え、え、ちょっと。泣かないでくださいよ。どうしたんですか一体。」
とにかく泣きたいのはこっちの方だった。
「・・・・・・お忘れになってしまったのも無理はありません。一から説明させていただきます。」
美女は優しい眼差しでこちらを見つめ、そして話し始めた。
「あなた様は力と戦争を司る貴き天上人。われらが父の恩寵のもと、われらが母である大地を守る宿命の神です。いや、だったと言うべきでしょうか。
強大すぎる<災い>を退けるため、その身体、そのほとんどの力を失ってしまわれました。そして、かろうじてその御霊を私のもとへ集め・・」
美女は淡々と説明する。
「えっと・・??」
「もしもずっと記憶が戻らなくても、私はいつでもあなたの味方です。」
目に涙を溜めたまま、にこっと笑ってみせる美女。
「え、ちょっと、おい、待てよ。なに言ってんだよ。」
「私はアルテナ。豊穣と生命を司る神。あなたをここへ呼び寄せた者です。世界を混沌に陥れようとする<災い>により、多くの戦士と神が星となりました。あなた様は勇壮にこれに立ち向かい・・、見事これを打ち払われました。しかしながら、その際に全てを失ってしまった・・。」
「・・・・・・」
その後、再三くりかえし説明を受け、簡単に話をまとめるとこうだ。
目の前の、この美女は女神さまだそうだ。
そして、俺はどうやら神様だったらしい。
俺はめちゃめちゃ強い神だったようだが、邪神と戦って引き分けた際、その身体も記憶もなんもかんも失くしてしまったんだそうだ。
そして、この目の前の女神様の力とやらで、ギリギリ冥界に行く前に助けられて、魂だけが女神様の前に呼ばれているってことらしい。
そして、再び力を取り戻すのをこの女神様が助けてくれるとかなんとか。
・・・信じないけど。
だってそうだろう?
俺が神で、こんな美女に慕われていたなんて、誰が信じられる?
まぁでも目の前のこの人は、女神様とでも言うべき魅力があるのは確かだが。
・・・すごい設定の夢にきちまったな。
「ヘルガ様、これを見てください。」
「はい?」
と俺が言うか言わないかのうちに、意識に画面が流れこんできた。
そこにはスライム、グリーンキャタピラ、ホーンラビットなどの文字が並ぶ。
ホーンラビットを心のカーソルで選ぶと、その姿が現れる。
あ、これ角兎・・。
さらにホーンラビットの先もあるようだが?????となっており選ぶことができない。
そのほかにもクリアポイント:6ポイントと書かれていた。
「数字が見えますでしょうか?それが貴方様の力を示したものです。」
「力っていうか、クリアポイントって書いてあるけど?」
聞きながら心のカーソルをカチカチ動かす俺。
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【種族選択】
・スライム(Lv6) 必要ポイント1 獲得スキル<打撃耐性・小>
・グリーンキャタピラ(Lv0) 必要ポイント3 獲得スキルなし
・ホーンラビット(Lv0) 必要ポイント5 獲得スキルなし
・?????
・
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スライムのところだけ獲得スキルがある。
<打撃耐性・小>?
「そのクリアポイントは、各種族になる際に一時的に使われます。決して使い切りではなく、クリア時または特殊なスキルにより再振り分けが可能です。また、強い種族になればなるほど必要なポイントは増えていきます。ボーナスを使ったりステータスを上げたりする際にも必要です。」
試しにボーナスの画面を開くと、
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【ボーナス一覧】
・<真の右眼> 1ポイント
・<インベントリ> 5ポイント
・<鷹の眼> 10ポイント
・<毒耐性> 20ポイント
・<初級魔法> 30ポイント
・?????
・<ワープ> 50ポイント
・?????
・?????
・
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うお、なんだコレ。
なんだか急にゲームっぽくなってきたな。
いや、思えば最初からか。
俺はもう完全にこれはゲームだと思い始めるようになってきていた。
スライムに女神様にLvにステータスだと?
その上クリアポイントとかボーナスとか。
つまりこれは何回でも強くてニューゲーム可能な周回前提ゲームってわけね。
いいよいいよ~。
俺は結構好きだよ、こういうの。
いつもは大抵途中で投げ出しちゃって、序盤キャラメイクで時間かけすぎちゃう割に一周もクリアできずに終わるんだけどさ。
「これ、死んでゲームオーバーになってもクリアなの?」
「はい。そのとおりです。もっとクリアポイントが集まれば、死ななくとも途中でクリアポイントの再振り分けができるスキルも獲得できるようになります。しかし現在のところ、死んでしまった場合にしか再設定することはできないでしょうね。」
つまり、死んでも強くてニューゲーム可能ってわけだ。
「死んだらどうなるの?」
「邪神などの特別な敵に殺されない限りは、この神殿ですぐさま復活されることになります。普通のモンスターや人に殺されてしまった場合には、とくにペナルティなどはありません。装備品以外のアイテムや通貨などは無くなりますが、インベントリに入れておけばこれらも無くなることはありません。」
おお、やっぱり。
周回前提だ。
しかも最初はスライムからとマゾいゲームだが、ほとんどペナルティがなく、じょじょに強くなれるってわけか。
俺はボーナス画面をもう一度眺めてみる。
<真の右眼>を選ぶと、目の前にある全てのもののステータスがわかる、となっている。
試しにそれを付けてみる。
おお、女神さまのステータスがわかるぞ。
【名前】アルテナ
【種族】天上人
【レベル】865
【称号】豊穣と生命を司りしもの
【クラス】女神
【ジョブ】なし
【スキル】<インベントリ><ワープ><傷つけない者の加護><統率><神級魔法><無詠唱><魔力上昇><天候操作><完全異常耐性><神の眼><輪廻転生>
【装備】神々のローブ、銀龍の杖、知恵のイヤリング
【従属】ザーナン、ロクシェル、ラハト、アイオバ、ユル
Lv865・・・。
さすが女神さま、桁が違うぜ。99超えてるよ。
うわぁ・・。
それにしても3サイズまではわからないか。
それにジョブなしって無職かよ、あはは。
どれどれ、なんだかいっぱいスキルあるな。なになに?
俺はまじまじとスキルを見ていた。
<インベントリ>アイテムを新鮮なまま異空間に保存できます。
<ワープ>一度行ったことのある場所へ、仲間と瞬時に移動できます。
<傷つけない者の加護>敵を傷つけない代わりに、大きく精神力が上がります。
<統率>仲間や部下を統率する力が上がります。
<神級魔法>神級の魔法をあやつることができます。
<無詠唱>無詠唱で魔法を発動します。
<魔力上昇>大きく魔力が上昇します。
<天候操作>天候を操作することができます。
<完全異常耐性>毒、麻痺、石化、魅了などの各種ステータス異常から完全に身を守ります。
<神の眼>一度行ったことのある場所なら、遠くからでも見通すことができます。
<輪廻転生>輪廻転生を司ります。
なんか見たまんまのスキルが多いな。
インベントリとかワープとか、なんだか便利そうなスキルも多いぞ。
「・・・・・・?」
じっと見つめ返す女神。
「・・・・・・コホン」
その視線に気づき、思わずわざとらしい咳をする俺。
「・・・・・・(にこっ)」
「・・・・・・(はぅあっ!?」」
その微笑に、さんざん見ておいて無職だなんだとちょっと馬鹿にしてしまった自分が恥ずかしくなってしまった。
ふと自分をみる。
どうやら自分のステータスもわかるようだ。
【名前】ヘルガ
【種族】天上人
【レベル】6
【称号】失いしもの
【クラス】なし
【ジョブ】なし
【スキル】<打撃耐性・小>
【装備】神々の服
【仲間】スラ吉
女神様とは比較にならない・・。
なんとドM心を誘うステータス!
それに、なんだろう。スキルが増えている。
さっきのスライムの獲得スキルか!
それに。
「おお・・・」
「どうされました?ヘルガ様?」
「この仲間っていうのは?」
「一緒に戦ってくれる仲間です。別種族に転生しても、一緒に戦ってくれることが多いですよ。もちろん、ヘルガ様のことが誰だか分からず無視されたり、攻撃されたりすることもあるかもしれませんが。そして、遠くにいても、お互いにその位置がなんとなくわかります。<神の眼>や<ワープ>なんかのスキルがあれば、集合も容易いかもしれませんね。」
「もうひとつ聞いていい?」
「なんでしょう?私に答えられる範囲であればなんなりと。」
「ありがとう。死んでしまった仲間を復活させることってできないの?」
「<仲間復活>のスキルを使えば、死んでしまった仲間でも復活させることができます。天上人にのみ許されたスキルです。魔力を使いますが、回数制限はありません。」
「そうか。それは良いことを聞いた。」
俺はもう一度ボーナス画面を見ようとする。
おお、どうやら自分でまたあの画面を開くことができたぞ。
ボーナス画面の中には、武器やアクセサリーなどの装備や、単純にステータスのパラメータ上昇なんかの項目もある。
その中に<仲間復活>の項目を見つける。
ポイントは150か。
ほかにも、<ポイント再振り分け>100ポイントや<女神従属>1000ポイントなんていう項目まである。
おおおおお。
ほかの項目は?????ばっかりで見えないが、どうやら開放条件があるのだろう。
<仲間復活>が見えるのは、仲間であるスラ吉が死んだことが条件だろうか?
「このスキルを獲得できればスラ吉さんも蘇らせることができるはずです。」
なんと!?
「見ていたのか・・。」
「はい、私はあなたの信奉者ゆえ、あなたが力を取り戻す姿を、いつでもここから見守っています。」
「力を取り戻すって、クリアポイントを集めるってこと?」
「そういうことになりますね。」
「どうやったらクリアポイントを集められるの?」
「各種族のLvがそのままクリアポイントとなります。ヘルガ様はスライムをLv6まで上げたので6ポイント獲得されています。次の転生では、再度スライムを選ぶこともでき、その際にはまたLv6から始まることになります。同じ種族だけを使うのもよいですが、Lvは上がれば上がるほど、だんだんと上げにくくなるものです。いろいろな種族を使って、各種族固有のスキルを集めるのがよいと思います。また、一度も選んだことのない種族はLv0ですが、転生をしただけでLv1から始まることになります。新しく見つけた種族は使っただけでポイントが1増えることになります。」
「このクラスとかジョブというのは?」
「クラスというのは各種族固有のものです。ゴブリンなら、ノーマルゴブリン、ハイゴブリン、ゴブリンキングなどのように、その地位が上がっていきます。ジョブは戦士や魔法使いなどのように、開放条件を満たすと得られる職業です。例えば魔法使いの職業を身に付けるには、魔法が使えなければなりません。みごと魔法使いの職業につくことができれば、魔力が高まり更なるステータスアップが図れます。」
つまり、ジョブチェンジとかクラスチェンジだけじゃなくて、種族チェンジもできるゲームってことだな。
痛いしつらいから嫌だけど、転生のためにわざと死ぬってのもありなのかもな。
「だいたい分かった・・ような気がするよ」
「何か分からないことがあれば、転生の際にまた聞いてください。」
「それと言いにくいことだけど・・。」
「はい?」
「序盤楽ができるように、強い武器とかいただけないかなーなんて・・・」
とか言ってみたりして。やっぱ邪道だよなーそんなのって。
マゾゲーの良さも失われるし・・・。
「そうしたいのは山々ですが、クリアポイントが少ないうちは上手く使いこなせないでしょう。それに、スライムやグリーンキャタピラでは、そもそも装備できるものはほとんどありません。それに、クリアポイントが少ないものに多大なる祝福を与えるのは、神々の中でははしたないマナー違反という考えもあります。ごめんなさい・・」
と、すまなそうに言う女神。
そっか。そうだよな。やっぱりマゾゲーだもの。
「しかし、分かりました。何か策を考えてみます。あまり期待はしないでくださいね」
と、困ったように微笑む女神様。
その笑顔がまぶしくて・・。
か、かわいい・・・。
はやく1000ポイントためてこの子と冒険したい!
この<女神従属>ってのは何ですか、とか野暮なことは聞かないでおこう。
チートスキルだ!
女神とキャッキャウフフのめぐるめく官能の世界へ旅立つのだ!
グヘヘ・・・。
「それでは、次の転生を決めてください。会ったこともない種族は選べず、最初は選べる種族も少ないですが、だんだん増えていくはずです。」
おっと、いけない。
俺は今どんな顔をしていただろうか。
鼻の下は伸びて、よだれなんかも垂らしていたかもしれない。
過去の自分だか何だか知らないが、せっかく女神様が慕ってくれているんだ。ここは幻滅させてはならない。
よくやった、えらいぞ過去の自分。
よおし、女神様ゲットの旅にでかけるかーー!
俺はもう一度【種族選択】画面を開き、ホーンラビットを選択する。これで5ポイント。
残りの1ポイントは<真の右眼>スキルを選択。これであらゆるステータスが見れて便利になるはずだ!
「ホーンラビットを選んだ。何かすべき目標はあるか?」
「とくに何かをしなければいけないわけではありません。貴方様の御心のままに。しかし、できるならば今一度以前のような力を取り戻し、母なる大地を守っていただきたく存じます。」
「・・感謝してもしきれない。」
「いいえ、ヘルガ様の幸せが私の幸せです。」
どうしてそこまで・・、と思う俺。
・・過去の自分はずいぶんやり手だったのだろうか。
俺は気恥ずかしくなって頭の後ろをボリボリかくと、もう何も言わなかった。
そうして俺が画面の転生ボタンを選ぶと、俺の身体は光の粒の集まりとなり、神殿から下界の地上へと物凄いスピードで飛んでいった。
「お気をつけて・・」
俺の意識はそこまでだった。
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ヘルガ(主人公)はホーンラビットLv1に転生します。
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