スラ吉
【種族】スライム
【レベル】1
【称号】生まれたて
【クラス】ノーマル
【スキル】なし
【装備】なし
【仲間】なし
俺はスラ吉を追って、鍾乳洞の中をひたすら移動していた。
スラ吉には気づかれないように、一定の距離を保って、後ろから尾行する。
俺もスラ吉もずいぶんと移動はのんびりだったように思う。
鍾乳洞はずっと1本道で、ほとんど平坦な道が続いていた。
さらに1時間ぐらい経ったであろうか。
さすがに俺もどこに行くのだろうか、大丈夫なのだろうかと不安になってきたころ、出口が見えてきた。
スラ吉の姿が出口の向こうへ消えていく。
俺も慌てて追いかける。
やっと出た!
外は昼らしい。
本来ならまぶしいはずであろう日光は、どうしてかスライムの体ではあまりまぶしく感じなかった。
どうやらここは海岸らしい。引いては返す波の音が心地よい。
耳なんてないのだが、なぜ聞こえるのだろう??
洞窟の出口から足場の岩を伝って、ちょっと移動すると砂浜が見える。
スラ吉は・・いた!
どうやらスラ吉は砂浜の向こうへ移動しているようだった。
十分な距離を取りながらスラ吉の後をつける。
他のスライムや生き物はいないのだろうか。
ふと辺りをみると、小さな貝殻はあっても、これといった生き物はいないようだった。
スラ吉を追って砂浜からちょっと内陸に入ると、そこは草原だった。
木はまばらにしか生えておらず、広い草原といえそうだった。
正面遠くには山々が見える。右手には、遠くはるか彼方まで海岸が続いており、それはほとんど崖になっていた。極端に近づくのは危険そうだ。左手には森がうっそうと茂っている。
スラ吉は、というと、草原の真ん中遠くで何やらプルプルしている。
草原にはほとんど身を隠す場所もないが、意を決してちょっと近づいてみる。
見ると、手近なバッタに覆いかぶさってはプルプルしているようだ。
そうこうしているうちにバッタが溶けて消えていく。
体内に酸でもあるのだろうか。
あれは捕食行為か。
スラ吉は、こちらにはまったく気づいていない様子だった。
そういえば自分のメシはどうするのだろう。まさかバッタを食えっていうのか。
うえー。参ったな。
幸い今のところ渇きも感じないし、空腹も感じないが。
俺はもう少し様子を見ることにした。
スラ吉が、そうやってバッタを何匹か捕食しているのを、ただジーっと見ていると、急に雨が降ってきた。
最初は小雨だったが、徐々に雨足が強くなっていく。
ゼリーのような体とはいえ、雨に叩かれるのは不快である。
さきほどの洞窟まで戻ろうか思案していると、スラ吉が動きはじめた。
スラ吉はすごくゆっくりとしたペースで、近くの森に逃げ込もうとしているようだった。
俺もあとに続く。
森は、ちょっと中まで入っただけでも鬱蒼としており、だいぶ雨に当たらなくてすむようになった。
大きな木の下で休み始めるスラ吉。
俺もそれにならって手近な木の下で、なるべく雨に当たらなそうなところを探しては休むことにした。
なんだか眠くなってきたな。
スライムも眠くなるのか・・。
というか、夢の中なのに眠くなるなんて変だな。
まぁいいか。なんだかずっとボーっとしているみたいに思えた。
まぁスライムなんだから知性もなんもないわな。思考が霧がかってもしょうがないわ。
なんだか変に納得して俺は、いつのまにか眠ってしまったようだった・・。
ドン!!
痛っ!!うわ、なんだなんだ。
いきなり全身を強打され目が覚める。
あわてて見ると、目の前には自分と同じぐらいの大きさの芋虫がこちらを向いていた。
緑色の体が丸まったかと思うと、こちらにローリングしてくる。
速いっ!
慌ててかわそうとして、自分がやはりスライムであり、体が思うようには速く動かないのを自覚した。
ドン!!
痛いっ!
夢の中なのに痛い。
夢の中なのに寝てしまった。起きてもまだ夢の中だ。
???
俺は、混乱と不安と痛みにどうしていいかわからず、ただ芋虫を見ていた。
見ると、またローリングしてこちらに向かってくる。
攻撃を受けているんだ!
さっきより早くそのことに気づけた俺は、やはり慌てて攻撃をかわそうとする。
ドン!!
今度はうまくかわせたようだ。
芋虫は大きな木の根元にぶつかった。
もぞもぞと方向を変えると、またこちらへ向けてローリングしてくる。
やばい!
芋虫の動きは単調で隙だらけだが、いかんせんスライムの体は重すぎる。
何度かかわすのが精いっぱいで、ぜんぜん反撃できそうにない。
このままでは遅かれ速かれ殺されてしまうっ!
俺は逃げに徹し、焦りながらも徐々に海岸の方へ向かって戦いの場を移そうとしていた。
きっとやつも水の中までは襲ってはこないだろう。
しかし、スライムの足では海岸は遠い。逃げ切れるだろうか!?
ドン!!
痛っ!!
ほとんど移動もできぬまま、追撃をくらい、体の粘液の一部が弾けとぶ。
まずいまずいまずいまずいまずい。
俺は恐怖のため、ほとんど戦意喪失状態であった。
どうかこれが夢でありますようにっ!
夢なら覚めてくれ早く!!
万事休すと思われたその時、方向転換しようともぞもぞ動く芋虫に向かって、なんと1匹のスライムがとびかかった。
スラ吉!!
スラ吉は、芋虫の隙をつき、自分の体ほどもあるそれに覆いかぶさった。
スラ吉の体内で暴れる芋虫。
頑張れスラ吉!!
スラ吉に飲み込まれる形になった芋虫であったが、その身を丸め、またローリングして加速すると、スラ吉の体から脱出してしまった。
ドシンと、近くの木の根に当たって止まる芋虫。
はっと気づいた俺は慌てて逃げようとした。
横目でスラ吉の方をみると、体の粘液が弾けとんだせいか、その体のサイズがひとまわり小さくなったような気がする。
そのスラ吉へ反撃する芋虫のローリングアタック。
なんとかかわすスラ吉。
やはり急には方向転換できない芋虫。
なんども木にぶつかったせいか、スラ吉の攻撃を受けたせいか、少しよろよろしているようにも見える芋虫。
しかし、スライムの足ではその隙はつけない。
そうこうしているうちに、またしても芋虫のローリングアタックがスラ吉に迫る。
そのスピードはスライムの移動スピードの比ではない。
ジリ貧だ!
スラ吉・・。
俺もおまえを助けたいけど、このままじゃ2匹ともやられちまう。
逃げなきゃ、逃げなきゃ。・・・くそ!
たかがスライムとはいえ助けてくれたばかりのスラ吉を見殺しにすることを一瞬躊躇し、俺はその場からなかなか逃げ出せずにいた。かといって芋虫に対して攻撃することもできない。
俺は・・俺は・・。
そうこうしているうちに、スラ吉に芋虫のローリングアタックが決まり、そのままこちらに向かってくる。
スラ吉にぶつかったためか減速し、俺の近くで止まる芋虫。
俺のことを無視し、更なる追撃を加えようとスラ吉に向けて方向転換しようとする芋虫。
隙だらけだ!
間に合うか?!
気づけば俺は芋虫に向かっていた。
芋虫に覆いかぶさり、体内にとじこめる。
暴れる芋虫。
離さんぞーーー!!!
必死で芋虫にしがみつく。
必死で暴れる芋虫。
まさに命の奪い合い。
いつまでそうしていただろうか。
実際には何分もなかったのだろうか、ずいぶんと長い時間、芋虫にしがみついていたように思う。
呼吸ができなくなったためか、芋虫はピクリとも動かなくなった。
勝った!
俺は心底ホッとした。
ふと体内の芋虫をみると、かなり溶かされている。
美味い!
俺は芋虫を食べているという忌避すべき行為と、その美味さのギャップに混乱していた。
そして、自分の体を見ると、そのサイズがかなり大きなものになってきていることに気づく。
自分と同じサイズほどの芋虫を食べているからであろう。
なるほど、スライムとはこうやって大きく強くなっていくのだな。
スラ吉の方を見ると、だいぶ小さくなってしまった体で、ずりずりと俺の方に近づいてくるのが見えた。
やつにはそのつもりはないのかもしれないが、自分のことを身を挺して守り、戦ってくれたスラ吉には感謝してもしきれない。
その小さくなってしまった体を不憫に思った俺は、つい今しがた捕食中の芋虫の食べ残しをペッと吐き出すと、スラ吉の方へ置いてやった。
じっとこちらを見ているような素振りのスラ吉。
ただのスライムに対して俺はなぜ恩義を感じているのだろう。そんなやつは放って置けばよい、という考えがわく。
そして、自己満足のためにやっているのだという開き直る気持ちが勝り、俺はなんだか落ち着いたようにスラ吉を見ていたように思う。
スラ吉は目の前に置かれた芋虫の食べ残しを捕食するとプルプルふるえていた。
俺が満足しながら、その場から離れようと動く。
すると、スラ吉も後をついてくるようになった。
どうやら俺のことを仲間だと思っているようだな。
少なくとも襲うつもりはなさそうだ。
不安材料が一つ減った俺は、純粋に喜んでいた。
その日から俺とスラ吉は一緒に行動するようになった。
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グリーンキャタピラ(芋虫)を倒したことによりレベルが上がります。
主人公:Lv1→2
スラ吉:Lv1→2
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