再会
【名前】ヘルガ
【種族】ゴブリン
【レベル】7
【称号】ハンター見習い
【クラス】なし
【ジョブ】なし
【スキル】<真の右眼><インベントリ><鷹の目><打撃耐性・小><攻撃力UP・小><敏捷力UP・小><疾風突き>
【装備】布の腰巻、祝福された革の胸当て(ダメージ20%減)、破毒のイヤリング(完全毒耐性)
【アイテム】神々の服
【仲間】ギャン
【名前】ギャン
【種族】ゴブリン
【レベル】18
【称号】村の兵士
【クラス】ノーマル
【ジョブ】戦士
【スキル】なし
【装備】棍棒、布の服
【仲間】ヘルガ
ベテガンの家の近くに着いた。
ここは俺がホーンラビットの体で駆け回った森だ。
村からここまで一日かけて歩いてきたので、もう夜になっている。
あたりはもう真っ暗だ。
「ギャンはここで待っていてくれ。」
「ドウシテダ?」
俺は迷った結果、けっきょく本当のことを言うことにした。
「この先の家にドワーフの友人がいる。その友人に武器をもらえる手はずになっている。ギャンが来ると話がややこしくなる。俺がその友人にギャンのことを説明する間、ここで待っていてくれ。」
(本当は俺のことも説明しなきゃならないし、武器をくれる保証もないけどな。)
「ドワーフトハナンダ?」
「ドワーフを知らないのか?」
「分カラナイ。種族ノ名前カ?」
「そうだ。ドワーフという種族は人間に似ているが、それよりももっとチビでガッチリした体格でヒゲモジャだ。採掘や鍛冶が上手い種族で、この先の家にいるドワーフはゴブリンに対しては非常に友好的だ。」
(とは言えないけど、そうなるといいな・・。)
「他種族ナド・・・・危険ジャナイノカ?」
「危険ハナイ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
(本当は大アリだ・・。)
「信ジラレン話ダガ、ヘルガニ付イテイクヨウニ首長ニイワレタ。一人デ行カセルワケニハイカン。」
「いや、首長は途中までギャンに護衛してもらえ、と言われた。ギャンの仕事はここで待つことだ。」
ギャンは遠くを見ながら少し考えているようだったが、一つため息をつくとこちらに向き直った。
「オマエニ振リマワサレテイルヨウナ気ガスルナ。・・・シカシ、ソレガ本当ナラココデ待タネバナラン。ヨクワカランガ安全ダト言ウナラ行ッテキテモラオウ。武器ヲ持チ帰ッテキテモラウゾ。」
「任せてくれ。」
「帰リガ遅ケレバ様子ヲ見ニイクカラナ。」
「わかった。そう心配しないでくれ。」
俺はギャンと別れベテガン宅の扉の前まで歩いていった。
家の窓から明かりが見える。きっと中にいるのだろう。
俺は意を決して中にいるだろうベテガンに話しかける。
「ベテガン!!俺だ。バーンだ!!一度死んでしまったが、ゴブリンの体に生まれ変わって帰ってきた!!信じろというほうが無茶かもしれないが本当だ!!洞窟でお前を助け、お前のペットとして暮らしていたバーンだ!!」
俺は一気にまくしたてた。
バーンしか知らない話をし、まずはベテガンに自分がバーンだと信じてもらわなければならない。
事情を聞いてもらえずに、いきなり襲いかかられるのはゴメンだ。
「俺だ!!ベテガン!!バーンだ!!」
「・・・・・・」
「俺はバーンだ!!お前のことなら何でも知っているぞ!!ドドの町の工房から離れ、ひとりで魔鉱石を掘り鍛冶修行に励むベテガンよ!!俺に真っ赤な犬小屋を用意したものの、ついぞ使ってもらえずイジけていたベテガン!!月一回ルワーナの町に行っては、俺にエサを買ってくるベテガン!!俺に破毒のリングをくれたベテガン!!」
家の中からドタドタと足音が聞こえる。
「ベテガン!!」
「・・・何者だ!?なぜバーンのことを知っている?」
扉ごしにベテガンがやっと応えてくれた。
「何度も言うが俺はバーンだ!!ウサギの時は遠出して死んでしまったが、神に祝福されているため、記憶はそのままに生まれ変わることができる。今はゴブリンに生まれ変わったのだ!!」
「馬鹿も休み休み言え!!・・・もう一度聞こう。お前は何者だ!?」
「バーンだ!今はゴブリンの姿をしているがな。」
「・・・・・・」
ベテガンがのっそりと家から出てくる。
と思ったのも束の間。突然、手に持っていたウォーアックスで切りつけてきた。
とっさにかわす俺。
「違うんだベテガン!俺は本当にバーンなんだ!!」
「ええい、だまれゴブリン!!どこで俺やバーンのことについて知った!?言わねば殺すぞ!!」
(いま問答無用で殺しにかかったのはどこのどいつだ!)
俺は心の中で毒づきながら、手にした棍棒を捨て、必死で弁解する。
「この分からずや!バーンだと言ってるだろう!!それが証拠に俺は何でも知っているぞ。三頭蛇が怖くて、やたら俺と一緒に狩りに出たがったベテガン!!月に一回ルアーナの町に行っては、鶏肉やらリンゴやらのエサを買って帰ってくれるベテガン!!家族のように俺に接してくれたベテガン!!」
「ぬぬ・・・」
「片付けが苦手なベテガン!!2日に1回しか水浴びしないベテガン!!早起きのベテガン!!鹿肉の好きなベテガン!!着まわす服は3着しかないベテガン!!ルアーナの町に行くときの勝負下着は赤いフンドシだ!!!」
「・・・・どうしてそれを!?」
「バーンはなんでも知っている!」
「まさか、本当に・・・。本当にバーンなのか?」
「まずは話を聞いてくれ」
ベテガンはその場でウォーアックスを下ろした。
どうやら、まだ半信半疑のようだ。ゴブリンの俺を家の中に通して茶を入れてくれるほど信じているわけではないらしい。
事の顛末を説明する俺に、ベテガンは玄関口でずっと話を聞いていた。
俺は死んだこと。
じつは神様だったこと。
アルテナに何度も転生してもらえること。
いまはゴブリンとして生まれかわったこと。
ベテガンを頼っていること。
ベテガンにゴブリンの発展に協力してほしいこと。
武器を集めていること。
ギャンのこと。
とにかく思いつく限りの事情を全てベテガンに話した。
「信じられないことばかりだが、信じざるをえんな・・・」
ベテガンは物分りがいいのか、おおむね理解してくれたようだった。
「しかし、お前さんに協力してやりたいのはやまやまだが、俺がゴブリンに協力する義理はないぞ。もしかしたら将来強くなったゴブリンに殺されてしまうかもしれん。」
「俺たちの力でゴブリン族が発展し、ゴブリンの中でも権力を得られるようになれば、ベテガンの魔鉱石採掘を手伝ったり、工房を手伝ったりする者を派遣できるだろう。ゴブリンにはベテガンに危害を加えないようにしつけるつもりだ。」
「そんなにうまくいくか分からんじゃないか。」
「うっ・・・まぁ、そうなんだけど。」
「まぁよい。覚えておけ!お前がバーンだというなら、ワシはバーンの味方だ。いっそゴブリンの村など捨てて、ワシと一緒にここで暮らすか?」
「ゴブリンの姿になっても、そこまで言ってくれるのはありがたい。しかし駄目だ。ギャンには恩があるしな。村おこしというのも楽しそうだ。俺はやれるところまでやってみたい。」
「ゴブリンの村おこしとは奇天烈な。・・・少し考えさせてくれ。」
「考えるのはかまわないが、ギャンという連れを待たせてある。ゴブリンだが非常にいいやつだ。つれてきてもいいか?」
「いいだろう。俺に危害を加えないというなら、泊まっていけ。毛布はないから、何か考えんといかんがな。」
「大丈夫だ。ゴブリンの村ではそんな上等なものはない。いまギャンを呼んでくるから家で待っていてくれ。」
俺はギャンのところまで帰ると、事情を説明しベテガンの家まで戻った。
ベテガンの家に入るとき、ベテガンもギャンも互いにやや緊張した面持ちではあったが、ギャンがベテガンの造りあげた武器を誉めると、ベテガンの機嫌は非常によくなった。
その後、酒を飲み始めたベテガンが俺やギャンにクダ巻いて、二人とも無理矢理酒を飲まされた。
そこからはあまり覚えてないが、今まで人語を話せなかった分、ベテガンには積もる話もある俺が終始好き放題言っていた気がする。
けっきょく飲めや歌えやの大合唱で、一つだけあるベッドは誰も使わなかった。
三人とも床に雑魚寝したまま次の日の朝を迎える。
「俺は今までゴブリンというのを誤解していた。ギャンはいまどき珍しいほど気骨のあるやつだ。気に入った!お前らにはなるべく協力しようじゃないか。」
「セワニナル。武器ヲモラエルトイウコトナラ、俺カラモ首長ニ、鉱石掘リノ手伝イヲ相談シテミヨウ。」
「がははは。バーン、ここはお前の家だ。好きなもん持っていっていいからな。遠慮はするな。ほれ。」
そういってベテガンは豪快にたくさんの武器や防具、食べ物や薬草なんかを目の前にドサっと置いた。
「気持チハアリガタイガ、コンナニハ持チキレナイ。良サソウナ武器ダケイタダクトスルカ。」
「ベテガンに気ぃ使ってもしょうがないよ。全部もらってくよ。あーあとタオルとコップと皿をいくつかもらうよ。今度また来るから歯ブラシと毛布くれないかな。あーこの袋ちょうだい。全然つかってないよね。」
そういいながら俺は全く遠慮することなく、<インベントリ>に道具をぽいぽいしまいこんでいった。
「ナンダソレハ?」
「神様ってのはすごいもんだな。」
突然出現した<インベントリ>にびっくりする二人。
俺はそこそこにベテガン宅で使えそうな物で、なくなってもベテガンが困らなそうなものをいくつかもらっていった。
「そのうち、ゴブリンの村に来てくれないかな?家の建て方とか教えてほしいんだよ。今は毎日野宿みたいなもんだから。」
俺がベテガンにフランクな感じで頼んでみる。
「暇だったらな。ところで鉱石掘りに人手を割いてくれるってのは本当か?工房のあるドドの町の弟子たちに頼もうにも、ドドはここから遠いし、やつらはやつらで仕事があるし、ちょっと困っていたところだったんだ。」
ベテガンはしかめっつらしながら腕組みなんぞしている。
「コノヨウナ立派ナ家ノ建テ方ヲ教エテクレルトイウノナラ、コチラモ尽力シヨウ。首長ニカケアッテミヨウ。」
ギャンは非常に紳士的だ。
ゴブリンのイメージが崩れるな・・。
それから俺たちは村にもどった。
途中出てきた魔物はみな雑魚ばかりで、とくに苦戦することもなかった。
ギャンいわく、でかい狼や岩石の化け物なんかがいたりして、ゴブリンが束になっても敵わないようなのがウヨウヨ森にはいるのだとか。たまたま運がよいだけということだが・・。
もう夜だったが、俺たちは首長に結果報告しに行った。
<インベントリ>の中からもらった武器防具を全て出して目の前に置いてみせる。
ロングソード5本
ダガー3本
バトルアックス2本
クロスボウ2本
メイス1本
長柄刀1本
クレイモア1本
ノルマンヘルム3個
アイアンアーマー1個
持ってきたものは全て鉄製だ。盾はなかった。
ちなみに、長柄刀というのは、その名のとおり柄と刃が長く造られたナギナタのような武器だ。クレイモアというのは幅広の飾り気のない大剣だった。
持ち帰ったものの中でも、とくにこの2つの武器とアイアンアーマーは大きく、特に目立っていた。
「ヨクヤッタ、ギャン!!ヘルガ、オマエモ手柄ダッタゾ。」
首長はガハハと豪快に喜んでいた。
「ココカラ東ニドワーフトイウ種族ガ一人住ンデイマス。ソノ者ノチカラヲ借リル事ガデキレバ、モットタクサンノ武器ガ手ニ入リマス。ソノモノノ仕事ヲ手伝エバ、キットチカラヲ貸シテクレルデショウ。」
「詳シク聞カセロ」
そのあとしばらくギャンが説明してくれた。
首長は相づちを打つこともなく真剣に聞いていた。
「村ノ皆ヲ呼ベ。全員ダ。寝テイル者モ叩キオコセ。武器ヲ分ケ与エ、コレカラノコトヲ決メルゾ!」
首長はぽんっと膝頭を打つと、威勢よく立ち上がって命令した。
そうして、夜だというのに村中のゴブリンが村の真ん中に召集された。
キャンプファイヤーを作り、その周りを俺を入れて総勢19匹が囲む。なかには小さい赤ん坊を抱えたものもいる。
「今カラ会議ヲ始メル。イロイロ新シイコトヲ言ウカラ、ヨク聞クヨウニ。」
会議というよりは、首長からの一方的な指示だった。
それにより決まったものはこうだ。
ベテガンに協力し、村から2名を派遣することになった。ベテガンを丁重に扱い、客として村に連れてこいとのこと。
もともと年長で、今回手柄のあったギャンを新たに兵士長という役にする、ということ。
クレイモアは首長が、長柄刀はギャンが、クロスボウはヤハシュが付けることになった。
俺はヤハシュ以外誰も欲しがらないクロスボウとダガーをもらうことができた。
もらってきた防具の数は少ないから、強いやつが付けよう、ということで首長ゴーランと弓使いヤハシュ、兵士長ギャンが装備することになった。
新しいアイアンアーマーは首長ゴーランがもらい、そのお下がりのボロボロのアイアンアーマーをギャンが装備することになった。
「本当ニイイノダロウカ・・。」
ギャンは少し驚いているようだった。
応援してやりたいところだ。
俺としては、ゴブリン村発展を楽しみたいところだ。
ベテガンに技術提供を受ければ、かなり発展するだろう。
武器や家だけじゃない。
畑を作って食料を確保したり、訓練場を作って兵を鍛えたり、さっきみたいな会議を開くための集会場を作るのもいい。
幸いゴブリンの繁殖能力と成長スピードは早いようだから、兵を増やして森を支配したい。ゆくゆくは道を作って馬を走らせることができれば何て便利だろうか。
こうして俺のゴブリン生活はゆるやかに加速していく・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔物たちを倒したことによりレベルが上がります。
ヘルガ:Lv7→10
称号がハンター見習いからハンター駆け出しに変わります。
ギャン:Lv18→19
称号が村の兵士から兵士長に変わります。
ベテガンが仲間に加わります。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇