ある日起きたらスライムだった
いまなんじだ?
またいつの間にか寝ちまったのか。
起きるか・・。
あれ?
体が重い。
上半身を起こそうとして、俺はその上半身がないことに驚いた。
ええ!?
プルプルプルン。
かわりに全身が波打つように揺れた。
!?!?!?
俺はかなり混乱していた。
ちょっとまて。なんだこれは。
えーと。
思い出せないが、俺はまた気づいたら寝てしまったのだろうか。
そしてここは夢の中なんだろう、たぶん・・。
目が開かない。
しかし、なぜか周囲の様子がわかる。
どうやら自宅のベッドじゃなさそうだ。
あたりは暗い。
とにかく体を動かそうとしたところ・・
ズズズ・・・。
体をひきずってしか前に進めない!?
プルプル。
体がまた揺れる。
おおおお。なんじゃこりゃー。
足が出ない。はいつくばるような全身運動でしか前に進めない。
俺はまた混乱する。
ぴちょん・・・ぴちょん・・・
水の垂れるような音に気づき、はっとする。
ここはどこだ?
辺りを見回してみる。
どうやら鍾乳洞のようなところにいるらしい。
すぐ隣に水たまりがある。
それを何となくのぞいてしまった俺は、ますます混乱する。
な!?
・・なにこのゼリー?
俺が動けば水たまりの中のゼリーも動き、俺が動きを止めれば目の前のゼリーも止まる。
あはははは。
これは俺か。
ということは、やはりこれは夢か。
だってこれはスライムにしか見えない。
俺は、とにかく考えていた。
寝起きのせいか、なんとなく思考にモヤがかかったように頭が働かないが、とにかく考えていた。
俺は大のゲーム好きだ。
そして目の前の水たまりに映る俺は、俗にいうRPGゲームに出てくるスライムのようだ。
だとしたら、これはゲーム好きが高じて、俺が見てしまっている夢なのだろう。
これは夢だと自分に言い聞かせ、もしこれが夢じゃなかったら・・という怖い考えを心の奥底に無理やり閉じ込めた。
頬をつねろうにも、頬もなければ指もないしな・・。
そんなことを考えられるぐらいまで、俺はやや冷静さを取り戻しつつあった。
だってこれは夢なんだ。
それにしても、かわいくないな・・。
まるで大量のヨーグルトか何かを、ぐちゃっと落としたような形だ。
それでいて体はすべて緑色でできていた。
目や耳なんてものはなく、いわゆる核のようなものもない。
やたらと鍾乳洞が広く大きく感じるが、これは自分のサイズが小さいのだろうか。
自分のサイズに合わせて世界が見えるとしたら、ずいぶんリアリティのあるこった・・。
生々しい夢だが、こんな夢なら大歓迎だ。
RPGゲームは大好きだからな。
自分がいわゆる最弱モンスターのスライムだっていうのも燃えるぜ。
マゾプレイは大好きだし、ここからいかに強くなって成り上がれるかと考えるとワクワクしてくるぜ。
俺はもうRPGゲームの夢をみていることをほとんど信じて、移動することにした。
出口はどこだ。
ずるずる・・ぷるん。
ずるずる・・ぷるん。
ええい、動きにくいし、遅っ!
強くなってスライムの体が大きくなれば移動も早くなるのだろうか。
マゾプレイ好きが高じて、こんな世界観の夢を見ているのだろうか。
ずるずると移動すること30分ぐらいが経った。
自分と似たようなスライムがちょっと先を、やはりゆっくりと移動するのが見える。
む・・。
俺は動くのをやめ、慌てて岩肌に隠れる。
あれは敵だろうか。
それとも同族だから、襲ったりはしてこないのだろうか。
どちらか分からないから、うかつには近寄れん。
俺は気づかれただろうか。
いや、さっきのスライムはこちらに背を向けて、俺と同じ進行方向に進んでいた。
もちろん、スライムに腹側、背中側などあるはずもないが。
俺自身、前方に進もうとするとき、後方の様子はなにもわからない。
目が前についているわけでもないのに、不思議なことだ。
まあ、360度つねに見渡せるスライムなんて、最弱っぽくないものな、ウンウン。
などと一人納得して、さきほどのスライムをもう一度見やる。
お、道の先の角を曲がるぞ。
どうしたものか。
思うに、俺は最弱のスライム。
そして、あっちも最弱のスライム。
実力は拮抗しているかもしれないし、もしかしたら向こうの方が強いかもしれない。
もしかしたら襲ってこないかもしれないけど、その保証はない。
思うに、こういうゲームは最初が肝心だ。
自らが弱いときは決して無理はしない。
最初は格下の相手か、弱っている相手を叩いて実力をつけていくべきだ。
せこかろうが何だろうが、地道に経験を積むしかない。
なんてったって自分は最弱モンスターのスライムだ。
自分より格下なんているのだろうか・・。
俺はさっき見つけたスライムを尾行することにした。
スライムとしての生活の仕方を学び、スライムの戦い方や弱点を学ばなければならない。
そのうえで、やつがピンチなら助けてもいいし、チャンスがあれば逆にトドメを刺して経験を積めばいい。この世界に経験値などという概念があるかどうかは分からないが。
なるべくなら、同族は襲ってこない設定だと助かるな・・。
まってよ、スラ吉ちゃーん!
ぷるぷるしながら俺は、即興でさっきのスライムに勝手に名前をつけ、追いかけていった。