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オモイノ・シリーズ

オモイノタネ 3

作者: 風紙文

たとえば、こんなこともあり得る。そんなお話

私みたいな奴、あなたはどう思う?

怖いと思う?

寂しいと思う?

嫌な奴だと思う?

楽しそうだと思う?

おかしな奴だと思う?

笑えそうな奴だと思う?

おもしろそうだと…思う?

もしさ…もしも、そう思うなら…。

一度……なってみる?



「……」

彼女はクラスの人気者で、男女共に好かれているクラス委員長。だからあだ名は「委員長」

そんな彼女は今…。

「おはよー、委員長」

「…うん。おはよう」

「ど、どうしたの? なんか元気ないね?」

「…そう? いつも通りだけど?」

「委員長…」

自分の席に座って、窓の外を眺めている。

「どうしたんだろ、委員長…」

「やっぱ元気ないよね…」

「何かあったのかな…」

クラスの生徒達がざわざわと、委員長の状態について話している。

それを私は、委員長の席のある列、窓際一番後ろの自分の席で見ていた。

私の名前は井沢未來。一応クラスの一員だけど、まるで空気みたいな存在だ。

フルネームを呼べるクラスメイトは、多分いないかもしれないわね。

普通なら、私もあのざわざわに入ってるのだろうけど。私はクラスの空気的存在。

ただ自分の席に座って窓の外、あるいはクラスの中を見ているのが普通。それ以外の事をしていると珍しく見られる。

だから私は入らずにいる。そのざわざわと、暗くなった委員長を見ている。

なぜならそれが私だからだ。

クラスの皆も気にしてない、私が入ってようが入っていまいが、クラスの時は流れて

委員長が暗くなった原因を談議している。

「宿題忘れたとか?」

「登校中に何かあった?」

「まさか…フラレた?」

「えぇー!?」

色々な意見が飛び交うのを、私はただ見ているだけ。

実は原因が、私にあると知りながらね。



それは昨日の事。友達なんていない私は、いつも通り一人で下校していた時の事だ。

「ねぇ、井沢さん」

委員長が話しかけてきた。

「何? 委員長」

あまり話はしないが、少なからず会話をしなければいけない時の、そっけない口調で返すと、

「一緒に帰らない? 帰り道ほとんど一緒だよね?」

「…うん。別に良いわよ」

一緒もなにも、同じ学生寮に暮らしているのに。態々私なんかを誘う必要なんて無い筈なのに。

そんな訳で私達は、一緒に歩いていた。委員長は言葉を絶やすことなく続けて、私はそれにそっけなく返し続けた。正直、こんなに話したのは何時ぶりだろうと思うぐらい同学年相手に声を出した気がする。

そんな時、委員長が一瞬黙った。

「…どうしたの? 委員長」

「ねぇ、井沢さん…そのしゃべり方…無理してない?」

「…え?」

何を言っているんだ?

「なんか…わざとそんな返し方して…皆から遠ざかってるように見えるんだよ」

「……」

ふーん…そういうこと。

「もし無理してるんならさ、私ぐらいになら気軽に声かけてよ、ね?」

「…それは、あなたが委員長だから、よね?」

やっぱりね。予想どうりだったわ。

「え…?」

「クラスの委員長だから、まとめ役だから、クラスに馴染めてない私を、一人で孤立してる私を見た先生に言われたから、こうして一緒に帰ろうなんて言ったんでしょ?」

「そ、そんなつもりは…」

「それにね、委員長…私ね、好きでこの話し方をしてるのよ。だって、とても楽なんだもの」

今の私を成すものの一つ、これが私なのだから。

「井沢さん…」

「委員長も、一度やってみたら分かるわよ…」

「私…も?」

「ほら、コレを見て…一度、私みたいになってみてよ、そうすれば絶対、この良さが分かるから…ね?」

「い…ざわ…さん…」


そんな訳で、今の委員長はまるで私、窓の外を眺めている。私と同じようま空気な存在。

普段の委員長人気があるから常に見られ、気に掛けられているだけで、もしも委員長じゃなければ、いずれは空気の中に、私みたいな空気になるの。

…でもね、空気はとっても楽なのよ。

色んな事に紛れられて、時に入って。時に抜ける。どこにいようが邪魔にされない。

まさに空気のような自由が、私には約束されているの。

だから…私はこの性格が…大好き。

そう…大好き…なのよ…。



「なんかアイツ、アンタに似てるわね」

「そう? 私には分からないな」

「よく見なさいよ。他人のふり見て我がふり直せって諺もあるぐらいよ」

「うん。見てみるよ、ありがとね」

「な! …何でお礼なんか…別にアイツとアンタが似てるってだけじゃないの…」

「うん。だけどそれは有利だよね?多分」

「多分。ね、それでもどうにかなったら、なんとかしなさいよ」

「うん…分かってる」



委員長はあんな感じなので、私は一人帰路についている。いつもの光景だ。

そして周りに人気が無くなった場所で、鞄からある物を取り出した。

ソレを眺める。

…やっぱりこれはいい。

まさに私が欲していた物……そうよ、私が…欲して…いた物なのよ?

なのに、ソレを持つ手が震えている何故?

何で私はコレを…どうにかしたいと、壊してしまいたいと、思っているの?

コレは私が欲した物よ?


なのに何で、壊してしまいたくなるの?


「…それは貴女が、ソレを欲していた訳ではないから」

「!!」

前を見ると、おかしな格好した人がいた。声を聞く限りでは同い年ぐらいの女子だろう。手には黒い箱を持っている。

「はぁ…もう何度目かな」

今、箱が喋った気が…。

「…貴女は、発明を持っているね」

女の子の声で改めて顔を見る。

「発明…コレの事ね」

私が手に持っていたソレは、手鏡だった。


一度なってミラー


確かこう書かれていた。

まずは顔を登録して

それを誰かに見せる

するとその人はまるで

登録した人のような性格になってしまう

だから私は自分を登録したそれで私の気持ちを

あじあわせる為に…

為…に

た…め…に…?



私はそんなの望んでない!



ガッ!


ミラーを地面に叩きつけた。

「何が! あじあわせるよ! 私はただ! クラスの一員として! 認めてくれる為の! そんな物を!欲していたのに! こんな物じゃ!」

ミラーを踏みつける。

だが壊れるどころか、ヒビすら入らない。

「何で壊れないのよ!」

「…それは…それが発明だから」

「は…発明だから?」

「発明は人の思いで作られた物…人の思いは…決して壊れない」

「じゃあなに? 私はずっとコレと一緒に生きるの?」

「…私に渡せば、コレで分解してあげる」

「分解…」

その子が出したのは、ネジ回しだった。

「…もう、なんだっていいわ、コレが手放せるなら…なんだって…勝手に持っていきなさい」

「…分かった」

その子はミラーを拾って。持ち手についていたネジを見つけた。

「…何故貴女がコレを作ったか、分かった気がする」

「作った理由が?」

「まさに貴女が思った通り、性格を味わってもらって、自分は居るんだよ…って、自分を認めてもらう為に」

「……」

「でも…それでは長すぎる、もっと簡単に、認めてもらう事はできる」

「…簡単に?」

「話しかければいい、貴女が少しだけ勇気を出して、話しかければそれでいいのそれだけで貴女は認めてもらえる」

「…そうね、下手に物なんかに頼るのがダメよね」

「…無理にとは言わない、最後にどうするかは、貴女が決めて、行動してね」

ネジ回しを回した。


「お…おはよう!皆…」

教室に入った私は、クラスに聞こえるような、何時ぶりかの大きな声で挨拶した。

やはりざわざわしてる。

やっぱり…ダメよね。

でも私は勇気を出した。

後は…あちら次第…。

「おはよう、井沢さん!」

え?

「おっす!井沢!」

「井沢さん、おはよう」

私の…名前を…。

「おはよう、井沢さん」

後ろから聞こえたのは、

「…委員長」

「やっぱりその方が良いよ無理してない感じがする」

「…うん。ありがとう」

私は空気…だけど、空気は必ず必要な物で、皆には知らず知らずの内に覚えられているものなのね…

…こんな私は、どう思う?



「やっぱりアイツ、アンタにそっくりよ」

「そう? まだよく分からないな」

「まぁ、今は違うけどね、アイツの方が明るいわ」

「それは仕方ないよ」

「まぁね…」

「それはそうとビーケ」

「なによ?」

「ビーケはさ、名前を言ってないんだから、最初は見た目で呼ばれても…仕方ないんじゃないの?」

「…まぁ、薄々分かってはいたわ」

「そう」

「そう考えると、アタシがアイツに似てるわね」

「どこが?」

「名前を呼ばれないのは、自己主張してないからよ」


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