旦那様のイヤイヤ期
なんでもあり
「イヤだ!」
やっとお喋りができるようになった年頃の旦那様が、ペチリと私の手を叩いた。
目の前にいる2歳児ほどの男の子は、紛れもなく私の旦那様だ。
魔力過多の旦那様は、時々このように幼児化する。
幼児化する際に膨大に使われる魔力のおかげで、バランスが保てるとかなんとか。
とにかく定期的に小さくなられては、その度にかわいいな〜と愛でてきたのだが…。
「は、反抗期…?」
「どちらかというとイヤイヤ期だと思われます、奥様」
「イヤイヤ期!?幼児化の場合でも、そうなるのですか!?」
「いえ、坊っちゃまが本当に幼少期の時からこの家にお仕えさせていただいていますが、その時も含めてはじめて見ました」
「あらまあ…、旦那様、何がお嫌なのですか?」
「イヤ!」
「おやつでも一緒にいかがですか?」
「イヤッ!」
「では、一緒にお昼寝でも…」
「イヤーッ!」
「うぐ…、これはとても悲しいですね」
執事長と侍女とオロオロしながら、旦那様の機嫌をとってみるが全部知らんぷり。
手強いですねぇ…。
「坊っちゃまは甘えているのかもしれませんねえ」
「甘えてる?」
「はい、こんなことはじめてですし、奥様のこと相当お好きなのかと」
「まあ、それなら嬉しいですけども」
「それと、心開いているんでしょうねえ。本当に奥様と結婚してくださってよかったです」
私は褒められて悪気はしないが、目の前の旦那様はプリプリ怒っている。
うーん、2歳児が怒っている、かわいい…。
その日は結局、一日中イヤイヤ言われて、機嫌を直すことでさえ難しいまま。
「一緒に寝るのも嫌ですか?」と訊くと、「イヤ!」と言いながら同じベッドに入ってくれたので、全員でほっこりして1日が終わった。
翌朝、目を覚ますと旦那様は、元の大人の姿に戻っていた。
「おはようございます、お早いお目覚めなのですね」
「…………」
「どうかされましたか?」
「…すまなかった」
「何がでしょうか?」
「君の手を払いのけてしまった…。本当は嫌じゃなかったのに…」
しょんぼりとベッドの上で正座をしている旦那様を見て、ふふふっと笑ってしまう。
「大人の旦那様がしたことではないじゃないですか」
「それでも、俺がしたことだし…」
「お気になさらないでください。一緒に寝てくれたのは、嬉しかったですよ?」
「…本当にすまなかった」
そう言って、旦那様は私の方に顔を埋めて、ぐりぐりしてきた。
2歳児の旦那様はこんな甘え方してこなかったのに、大人の方の旦那様が甘えてくるから、ますます笑ってしまう。
「私、旦那様が好きなので何されても気になりませんよ」
「それはちゃんと嫌がってくれ…」
旦那様は私にきゅーっと抱きつきながら、その日は何度も謝ってくれるのだった。
あんなに可愛い旦那様が見られたのだから、何も気にすることないのにね。
了
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250日目。




